浅田 正作さん

                    『続 骨道を行く』法蔵館

 
表紙

  大地に立つ

あてはずれ
あてはずれ
あてはずれつづけて
あてはずれてもいい
大地に立つ


  苦と楽と

地獄とは
楽を求めて苦しむ世界
極楽とは
苦を転じて楽しむ世界

その どちらにもつけず
苦ぢゃ 楽ぢゃと
迷うている私


  宝もの

いかり はらだち
そねみ ねたみ
おおく ひまなし

もてあましとる
この煩悩が
かけがえのない
宝ものとは・・・


  障害

いろいろと
覚えたばかりに
愚者になれず
身うごきがとれません


  頑なさ

すれちがいを
すれちがいとも知らず
通りすぎていたときは
悲しみはなかった

深い出遇いの
あることを知った今は
この身の
頑なさが悲しい


  不実さ

どこまでも
この身の
痛まぬところで
他人に同情している

この不実さを
恥ずかしいとも思わず


  ごみ

元日は
ただ 申しわけなし
今年のごみの
出しはじめ


  迷妄

人間の迷いを
呼び覚ましてくださる仏教が
迷いの種となっている

この迷妄の深さよ


  問題

如来さまのくださる
問題は
答えを要求されたのでは
なかった

問題から
逃げなければよかったのだ


  求道

食って 寝て
大きくなって
子を生んで
老いて 死んでゆく

あらゆる生きものが
平然とやっていることを
満足に果せない
人間とはなんだろうか

この問いにたちすくんで
人は初めて道を求める


  逃げ場なし

いくつになっても
びっくりすることが一杯
それは
逃げ場なしの身が
思い知らされるとき


  救い

難しいことなんか
なんにもなかった
たったひと言の
なんでもない言葉が
この胸におちれば
それでよかったのだ


  大きなお世話

自分で 自分を
なんとかしようとする
この大きなお世話
なんとか
止まないものだろうか


  呟き

台風の進路が
外れてくれれば
それでいい

こんなものが祈る
世の中の安穏とは
なんだろうか


  呼びかけ

悲しみの深さが
そのひとの深さだ
その深みから
呼びかけられて
私は歩く


  なるほど

天気のよい日が
喜べるのは
雨や雪の日が
あるからでした


  足もと

向こうばかり
見るくせは
なおらないが
足もとから
呼びかけられて歩く


  うかつ者

今朝もまた
目が覚めたを
なんとも思わず
一日がはじまった
あさましや
目が覚めたを
当たり前にして
何が喜べようか


  ジャガイモ仏

ジャガイモころころ
掘り起こされて
大小不同の
ピッカピカの仏さまが
土のなかから
おどりだされた
出来 不出来をいうのは
人間のたわごと


  人生

不出来のままに
出来上がってゆくので
人生は面白い


  習性

勝手な夢を見て
がむしゃらに
毎日が空しく過ぎた
いまも
その習性が先走り
危うく立ち止まる


  浮き雲

浮かんでいるだけで
あの浮き雲は
走り回っている私を
人間に帰らせる


  愚かしさ

恥ずかしい私が
恥ずかしくないことが
出来るように
思っている
この愚かしさ


  相変わらず

苦のない人生など
無意味と
合点しながら
私は相変わらず
楽がしたくて
ウロウロしている


  とき

たったのひと言が
時空を超えて
この胸にひびくとき
人間に生まれて
よかったとおもう


  そのままの

知らぬ間に
撮られた写真
気に入らないが
そのままの自分が
写っている


  聞思

このわが身
思い知らされるほかに
聞くということも
信ずるということも
ないように思う


  失敗

また しくじった
分かっている
知っているという思いが
この耳に蓋をして
頑張っていた


  聞光

なるほどそうかと頷ける
このよろこびがあるので
この世のいのち終わるまで
私は
聞かしてもらう


  呟き

自分というものに
光をあて
お知らせいただく
そのほかに
宗教というものが
あろうか


  懐かしさ

毎日まいにちが
流転輪廻の
うみこえ やまこえ
それも
今生かぎりの
迷いと思えば
懐かしさも
ひとしおです


  枯れる

老いて感じること
それは
黙って枯れてゆく
草や木の偉大さである


  幸せ

生きている
このなんでもないことに
躓かねば
幸せなんて
わからないんだ


  敵と共に

平和とは
なんだろうか    
敵(かたき)と共に生きられる
そんな
世界ではないのか


  目的地

この足腰で
急がずあせらず
どこまでゆけるか
倒れたところが目的地