真宗大谷派 円光寺 本文へジャンプ

 変身願望

愚者とは自分以外の何かになろうとあがく者のことだよ。 花村万月「セラフィムの夜

現代の日本は豊か、安全、快適、便利です
では皆さん大満足でしょうか?

物足りなさ、失望感、空虚感、不満感
何をしたらいいのかわからない
何をすべきかわからない

 なんとここちよいキャッチフレーズでしょう

今の生活に満足していますか
今の自分がイヤじゃないですか
本当の自分を見つけませんか
新しい私に生まれ変わる

自分をちがう人間にしうると考え、自分の考えている理想像に近づけることが生長であり発展であると考えた。
私というものはけっきょく私になりえたということにすぎない。
すぎないという言い方はどうか。私は私になりえたら大したことではないか。私ははたして私になりえたか。
 高見順「闘病日記

 変身する夢

夢を与えてくれる産業が盛んです。外見、性格、能力を変えるそうです。
姓名判断での改名、エアロビクス、超能力、留学、性格改造セミナー、神秘体験
あるいはブランドもので装う

それもできるだけ苦労せず安易な方法で。
たとえばダイエットだと、スポーツジムから健康食品、そしてエステ、さらには脂肪吸引と苦労せずに楽にやせられる方向へと関心が向かうそうです。

順調にお金だけ減るダイエット 「万能川柳名作濃縮版
 問題の解決法としての変身

別の人間になれば、以前の自分とともに問題も消滅するわけです
(もちろん実際にはそうはいきませんが)
変身しさえすれば悩みはなくなるに違いない
楽しく生きることができるだろう
 すべては幻想

美容整形を何度もせずにはおれない人がいます。
たぶんそんな人は自分自身を受け入れることができないのでしょう。今の自分ではダメだと思っているのです。美しい顔になれば、つまり状態が変わればすべてはよくなり、満足のいく人生を過ごせることができる。そんな夢を見ているのでしょう。
しかしいくら変身して別人になったと思い、その時は満足しても、しばらくすると理想とのずれを感じます。なぜならいくら変わったと思っても、私は私なのです。その私がイヤなのだから、いくら変身してもこれでよしと本当に満足して喜ぶことは絶対にあり得ません。


整形をしても心はかわらない 「万能川柳名作濃縮版

 別の自分があるという夢、実は言い訳

夢は破れんといかん 米沢英雄

今の自分とは違う別の自分があるんだという夢は変身することだけではありません。
息子はテストでいい点が取れなかったのは、
・試験前に勉強しなかったからだ
と言います。勉強さえすればいい点が取れるんだという夢を見ているわけです。

多くの人は
・仕事が忙しい
・身体の調子が悪い
・もう年だから
などと言って何もしません。
本当はしたいし、やればできるのに残念だというわけです。
それは自分が行動しないこと、何もしないことの単なる言い訳にすぎません。
やろうと思えばできる自分というものを夢見ているのです。
実際はやろうとはしないし、できないのが本当の私なんですが。

自分に対する夢というものは。どこまでいってもすてられないものです。自分にもそのくらいはできる。自分も同じ状況にいたらちゃんとやってるさ―、われとわが身に対するいいわけはかぎりなくつづきます。 宮城顗「正信偈のこころ

今の私を引き受けることができず、どこかよそに本来の私、今の自分とは違う私があると思っている限り、いつまでたっても満足は私の手の中からすり抜けていくだけです。
次々に新しいものを追い求め、求めても得られずにいらいらするばかりです。