真宗大谷派 円光寺 本文へジャンプ

  マインド・コントロール
 

日本脱カルト研究会
  カルトに傷ついたあなた

心のリハビリしてますか

スティーブン・ハッサン 『マインド・コントロールの恐怖』恒友出版

櫻井義秀『霊と金』新潮新書

二澤雅喜,島田裕巳 『洗脳体験』 宝島社文庫

米本和広『新装版 洗脳の楽園』 情報センター出版局

米本和広『教祖逮捕』 宝島社

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自分たちの利益のため、知らぬ間にあなたの心を操作する宗教や商売が、想像以上にはびこっています。インチキ宗教、あなたの潜在能力を開発しますという自己開発セミナーやマルチ商法、あるいはある種の政治団体などがそれです。
西田公昭『マインドコントロールとは何か?』によると、マインド・コントロールとは破壊的カルトが行う心理操作で、ビリーフ・システム(判断・意思決定のための信念体系)を気づかれないまま変容させる技法です。
マインド・コントロールをする側は、自分の思うとおりにあなたが行動する(意思決定する)ように、あなたのビリーフ・システムを変えていくのです。そして、マインド・コントロールをする側が望まない思考をあなたがする場合、恐怖が喚起されるように条件付けをします。

マインド・コントロールによってビリーフ・システムが十分に変容していると、サリンを撒くとか、霊感商法でだますといった、通常では受け入れがたいことを指示されても、疑問を感じたり躊躇したりしません。ロボットのように教えを忠実に守って行動するようになります。そして、勧誘や募金、布教などに全生活を費やすのです。嘘をついてだますことも平気でします。なぜなら、正しいことをしているから、嘘をつくのも許されると思っているからです。

櫻井義秀さんは20人以上の元統一教会信者に聞き取り調査を行なっています。彼らが比較的明確に回想できるのは、入信前後から統一教会員として自覚を深めるまでの期間と、宗教活動に疑問を抱いて脱会し、その後社会復帰するまでの期間です。信者として活動している間の記憶は曖昧だそうです。
要するに、マインド・コントロールによって奴隷になるわけですが、本人はそうとは思っていません。人が反対すればするほど、迫害をされていると感じ、一層打ち込むようになりますから、やめるように説得することは困難です。


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スティーブン・ハッサンは19歳の時に勧誘されて統一教会に入ります。アメリカ統一教会の副会長にまでなりますが、交通事故をきっかけに脱洗脳を受けて脱会します。その後、カウンセリング心理学を学び、マインド・コントロールの犠牲者の救出や、破壊的カルトの啓蒙活動をしています。
スティーブン・ハッサン『マインド・コントロールの恐怖』、自己開発セミナー潜入記である二澤雅喜・島田裕巳『洗脳体験』、ヤマギシ会の特講の実態を書いた米本和広『洗脳の楽園』には、具体的にどういうふうにマインド・コントロールするかが書かれています。

研修会などといった家族や知人と切り離した環境で、短い睡眠時間、食事の制限、情報のコントロールなどで疲労させ、情緒的に不安定にし、暗示にかかりやすい状態にします。そこで、これまでの信条や価値観などを破壊して、教義をがっちり埋め込んで、新しい人格を作り上げます。

頭を空っぽにさせ、そこに教義を詰め込む洗脳の仕組みについて、米本和広さんは次の点をあげています。
・脳にも容量があるが、情報量ではなく、時間が関係する。
・洗脳セミナーでは脳に休む暇を与えない。
・思考力の容量が限界に達し、自我はパンクしてしまう。
・自我がパンクし、思考が停止した状態でも情報はインプットされる。
・そこでカルトの教えが刷り込まれる。
・カルトの教義は普通に考えると理解できないものだが、自我がパンクしているので論理的思考ができず、直接教えが刷り込まれてしまう。
・それに加えて、パンクした瞬間、ドーパミンやエンドルフィンといった脳内物質が放出され、感動体験、神秘体験を経験する。
・そうした体験を伴う教義の刷り込みだから、しっかり脳にこびりついてしまう。
・教えを理解し、納得して結論を出したのではない。
・だから、「本当の自分に出会えた」「すばらしかった」といった抽象的で幼稚な表現しかできない。
・そのため、カルトの教えを他人に論理的に説明することはできない。これはカルト信者に見られる共通した特徴である。

ヤマギシ会の特講(研修会みたいなものだが、実際は洗脳)の報告を読むと、私自身もその場にいあわせているような気がして、なんだか気分が悪くなるほどです。

どういう人がそうしたセミナーや研修会に参加するのでしょうか。島田裕巳さんはこのように説明しています。
「どちらかと言えば、お金や病気といった現世的な利益をめぐる悩みではなく、より完璧な人生を歩もうとして、それがうまくいかないことから生じる精神的な悩み、葛藤の方が多いように思われる。自分にこだわり、自分に真っ正面から向き合ってきたという点で、みんな真面目で純粋なのである」

マインド・コントロールは、普通の人なら誰でもかかる可能性があり、自分は大丈夫だと自己過信した人が一番危ないそうです。多くの場合、自分が勧誘されているのだとは気づきません。また勧誘された人の大多数は、安定した、知的な、理想家肌の人々で、一般的傾向としてはよい教育を受けており、立派な家庭の出身だそうです。というのもそういう人を選んで勧誘するからです。なぜならそうした人なら信用があるから、さらに信者を増やすことができるからです。

マインド・コントロールにかかっていたら、ほかの人の助けなしに、本人がそうだと気づくことは不可能でしょう。ですから、家庭が大切です。しかし、家族は自分も問題を見つめ、自分たちも変わって成長しようとする気がないなら駄目です。また、家族は過度の自責と恥を感じて、感情的に反応しすぎたり、議論でやめさせようとしますが、これでは説得できません。状況によっては専門家の協力が必要です。


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マインド・コントロールによって精神的に異常をきたすことがあります。高橋紳吾『超能力と霊能者』によると、真光の二泊三日の研修に参加して精神的な病気になってしまう人もいるそうです。S教団の手かざし治療を受けて憑依状態になって女性(B子)について、高橋紳吾さんは次のように書いています。

「親戚の女性に勧められて、S教団の道場へでかけ、「○○のわざ」という手かざし治療をうけた。(略)そのときはなんとなく頭が軽くなり、気分が好転した。その日いらいよく眠れるようになったので、以後、会社の帰りに何度も立ち寄り、手かざし治療をうけるようになった。
三度目に行ったところ、B子の合掌している手が震えだし、しだいに身体が前後左右に揺れるようになった。それが「浮霊」現象で、B子に憑いている霊が浮かんできたことを示していると教えられた。またB子自身も他者に「○○のわざ」を行なうことができると言われた。
あるとき、妹にこれを行なっている最中、かざしている自分の手が勝手に動きだし、止まらなくなった。そして「私は○○という武士である」と言い、顔つきがすっかりかわって、激しく身体をゆさぶり、夜の街へ裸足で飛びだしていった。驚いた妹が追いかけ自宅に連れもどしたが、それからも「私は○○(祖母)です」と言ってみたり、架空の誰かに向かって会話するなどの興奮がおさまらなくなった。親戚の女性が駆けつけたり、教団の指導者が訪れて「わざ」をかけたが効果なく、一層激しく暴れるので父親に精神科へ連れてこられた。(略)診断は祈祷性精神病。もっとも教団のその後の弁明によればこれは「神鍛え」の状態であって、もっと熟練した導士に治療をうければなにも精神科に行く必要などなかったということになるらしい」

このような事例に遭遇する精神科医は少なくないそうです。


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マインド・コントロールや洗脳は、教育や研修会で組織的計画的意図的になされるばかりではありません。我々はいつの間にかある考えを刷り込まれてしまうことがあります。そして疑うことを許さぬ狂信、疑うことを知らぬ盲信に陥ってしまうのです。それは宗教によってだけではありません。

閉鎖性が強く、権威主義的な組織に属していると、自分の考えで判断することが悪いという価値観を持たされ、自分で考えるのではなく、上の者の指示に従うことが善だと思い込むようになります。そして、組織の論理が何よりも優先されます。軍隊がそうですし、社員に違法行為をさせる会社も含まれます。
会社の犯罪に加担してしまう人がいます。与えられた任務を忠実に果たせば、仕事の仲間から受け入れられ、会社という組織と自分とが一体化します。そうなると組織の論理に従うことは必然です。たとえそれが法に触れることであってもです。

田中康夫さんが、アシスタント募集に応募してきた野村証券に勤める女性に、証券不祥事をどう思うかと聞くと、「悔しい。上司があんなにがんばってきたのにマスコミにあることないこと書かれて」と憤慨したそうです。
「上司のそばにいて、あなたが涙が出ちゃうのはわかるけど、事件全体についてどう思うの」と田中康夫さんが尋ねると、
「やくざとのつながりは昔からあったことで、何が悪いの。どうしていまごろになってうちだけをいじめるの」とほとんど抗議口調だったといいます。

この女性は自分の都合のよいことだけを事実と思い込み、不都合なことはないことにして見ようとしません。いつの間にか「ウチの社に間違いがあるはずがない」という自己正当化の罠にはまってしまったのです。
自分中心で生きている私のあり方を破るのが宗教のはたらきの一つです。ですから、教えを聞けば、他者からの批判に耳を傾けることができるよう、心が開かれるはずなのですが。