真宗大谷派 円光寺 本文へジャンプ

  小説の中から

謝の謝は謝罪の謝。  荻原浩『オイアウエ漂流記



ぼくには不思議だった。女の子たちは、かわいい。おしゃれだ。いつもたのしそうにはじけている。カッコいい男子を見つけては、追いかけまわしてもいる。簡単にいうと、みんななんの悩みもないように見えるのだ。それでもひとりひとりは心のなかで、明るくて元気でかわいい女の子の役を演じ続けることに、ほとほと疲れ切っているみたいだ。  石田衣良『6TEEN



なにせ自分の顔は誰にも選べない。それは親や生まれる時代や健康な肉体を選べないのと同じだ。でもね、自分が与えられたものにぶつぶつ文句をいいながら、なんとかごまかしごまかし生きていく。そういうのが人生の醍醐味だと、ぼくは思う。  石田衣良『6TEEN



忘れないことと、ときどき思いだすこと。それが生きている人間が死んでしまった人間にできる数すくないことだ。  石田衣良『6TEEN



世の中から、思い違いというものだけ除いたら、ずいぶん人間の苦労は少なくなるがなあ。  吉川英治『宮本武蔵



「おれを信じてくれ」
「その言葉嫌いなんですよね。前からずっと」
「自分で言ったことはないのか」
「いや。ありますよ。だからあてにならないって知ってるんです」   コーマック・マッカーシー『血と暴力の国



ふたりの人に会う。ひとりは老人、ひとりは若者。そしてふたり並んで歩きながら、たがいになんの話題も見つけられずにいる場合、わたしには、それが父と子であることがわかるのだ。  M・デュ・ガール『チボー家の人々



今日、こわがらずに家を出ていけるのは、迷子にならない保証や困った事態にならない確信があるからじゃない。何かすてきなことや人にきっと会える。困ったときにきっとだれか助けてくれる。そう思うことができるから、なんとか今日も明日も、出かけていけるんじゃないか。大げさにいえば、生きていかれるんじゃないか。   角田光代『ひそやかな花園



何をやったら幸せになれるかなんて誰も分からない。お好きなように、と指示されるのって、逆につらいと思うんだよね。みんな正解を知りたいんだよ。せめてヒントを欲しがってる。でも、実際にはね、人生全般にはそういうものってないでしょ。だから、誰かに『この修行をすれば幸せになりますよ』とか『これを我慢すれば、幸福になりますよ』とか言われると、すごく楽な気分になると思うんだよね。でも、結局さ、そういうのに頼らず、頭を掻き毟って、悩みながら生きていくしかないんだと、わたしは思う。  伊坂幸太郎『砂漠



人間はいつも狐を嫌ってきたが、それはおそらく狐が人間に少し似すぎているからだろうな。狐は食うために狩りをするが、自分だけの楽しみのために殺すこともできるんだ。  フィリップ・クローデル『ブロデックの報告書



大切に育てるということは「大切なもの」を与えてやるのではなく、その「大切なもの」を失った時にどうやってそれを乗り越えるか、その強さを教えてやることなのではないかと思う。  吉田修一『横道世之介



しあわせかふしあわせか…それが人生でいちばん大事なことでしょうか? 真実を知ることは、これもちがった意味でのしあわせじゃないでしょうか。  アイラ・レヴィン『この完全な世界



しあわせを感じられるってのは、同時に不幸を感じることができるてことにもなるんだ。  アイラ・レヴィン『この完全な世界



人生にはふたつの悲劇がある。ひとつは望んだものが手に入らぬこと。今ひとつはそれを手に入れてしまうことだ。  オスカー・ワイルド『ドリアン・グレイの肖像



われわれは失敗から学ぶが、成功からは学ばないのだ。  ブラム・ストーカー『ドラキュラ



人は時に、健気に生きているだけで、誰かを救っていることがある。  東野圭吾『容疑者Xの献身



人のことばっかり気にしてるのは、自分のことがいちばん気になるからやん。  柴崎友香『きょうのできごと




肉親のいかがわしいことはかくしていたいのが人情だ。かくせるものなら永遠にかくしておきたい。しかし、かくしとおしたところで、それはお父さん以外は知らないことであっても、お父さんひとりは知っていることだ。できるなら、お父さんも知らないことにしていたいのだ。しかし、そんなことができるわけがない。  丹羽文雄『有情



自分で自分を裁くのは高慢だ。本当に謙虚な人間なら、他人をも裁きはしないし、自分を裁くこともしないだろう。 山本周五郎『虚空遍歴



人間はみんな自己主張をし、自己弁護するものらしい。自分では公平であると信じながらね。それでもどうにか折り合ってゆけるんだから、世間はうまくできているものさ。  山本周五郎『虚空遍歴



朝になればペテロには悩みと恥がます。人目はないが身を恥じる、犯した罪を思いつつ。我が恥じらいは人目にかぎらず、天地のほか人の見ない誤ちだが、ひとり恥じるので。   セルバンテス『ドン・キホーテ



誰でも人に認められたいって、いったでしょ。一番大切なことは、まず自分で自分を認めることだと思うのね。まっすぐに見なきゃダメなのよ。代わりを求めてもいけないと思うの。背は低いけど、勉強ができるとか、顔がいいとか、マイナスを埋めるようなことを求めはじめると、結局、自分に嘘をついて、ごまかそうとしちゃうのよ。だからあるがままの自分を見つめることが、自分を認めるってことだと思うの。   鳴海章『風花



自分のことを話すのって、気持ちがいいの。自分がいかに苦労してきたのかを他人に話すのはね、自分が注目され、認められている気分になるでしょ。だからね、気をつけなきゃいけないのよ。   鳴海章『風花



自分のことばかり話すなんて、少しは恥ずかしいと思わなきゃね。本当は、自分のことなんか話しちゃいけない。相手の話が聞けなくなちゃうでしょ。   鳴海章『風花



本当のことを言うことで、本当のことを言う相手を持つことで、お前はこの世に生きて来たことを肯定しようとしている。自分の人生に意義を見出そうとしている。本当のことを平気で言える相手もなかったとしたら、お前はこれまでの長い一生を、何のために生きて来たか判らないことになるからな。   井上靖『化石



人間は、何か目当てがないと生きて行けないのだ。  井上靖『化石



お前の父親や母親は、この世の中に、人間が及ばない力のあるものの存在を信じて、それに頭を下げることによって、無力な自分を、心平らかに生きさせようとしたのだ。   井上靖『化石



人間の幸せというものは、しみじみと、心の底から、ああ、いま、自分は生きているということを感じることだな。そうすれば、自分のまわりのものが、草でも、木でも、風でも、陽の光でも、みんな違ったものに見えて来る。   井上靖『化石



人間のやることに結末などはつけられないのだ。いつだって、中途半端なのだ。しかし、それでいいではないか。そもそも結末をつけようというのが、おこがましい限りだ。   井上靖『化石




なにかの形でハンディを背負っている人間が生きやすいようにできていなければ文明国とは言えまい。 宮部みゆき『竜は眠る』