賢者への手紙
前略 賢者様
あなたが周りの人が馬鹿であることに我慢がならないでいるという噂を耳にしました。私も以前、似たような状況に置かれたことがあるので、アドバイス差し上げたいと思います。さて、どうすればいいのでしょう。
まず、引越しが考えられます。さっさと周りの馬鹿とは手を切って、私たちの国に来ればいい。
なおも馬鹿の国にとどまろうとするなら、それなりの理由があるはずです。なぜなら、あなたは周りの馬鹿に我慢がならない。理由がなければ、我慢する必要はありません。
何らかの理由により引越さない場合、事態は深刻です。ただいたずらに馬鹿をバカにしても、何も改善されません。環境の悪化を招く恐れすらあります。馬鹿には自分が馬鹿かどうかはわかりませんが、自分がバカにされているかどうかはわかるからです。
そこで、発想の転換。あなた自身が馬鹿になってしまうか、あるいは、周りの人を馬鹿でなくしてしまえばよいわけです。
あなた自身が馬鹿になれば、周りの人を馬鹿だとは思わなくなり、悩みは解決します。
もし、自分が馬鹿になることが、馬鹿に囲まれるより我慢のならないことだとすれば、どうでしょう。そうです、周りの人を馬鹿でなくすよう努力しなければなりません。短く言えば教育です。しかし、これはイバラの道でもあります。
いくつか注意点を指摘しておきます。まず、馬鹿にも通じる言葉を使うように心掛けましょう。
話が通じなければ、あなたの得になりません。
また、馬鹿が向上心を持っていることはごく稀です。すなわち、だれもあなたの話に耳を貸そうとしない、といったことも充分にあり得るのです。ぐっとこらえ、熱心に、根気強く、丁寧に語りかけ続けること。
なぜ馬鹿にそこまでしなくてはならないのか、もしかするとあなたは、不満に感じるかもしれません。しかしながら、他の道をあなたが選べないというのであれば、諦めてはいけない。
どれほど、ののしられようと、いくら嫌がらせをされようと、それは、きっと馬鹿ゆえの過ちなのです。あなたは、それに耐え、嫌な顔ひとつ見せてはなりません。非難がましいことひとつ言ってはいけません。見せたり言ったりした途端、自動的に、あなたは馬鹿と同じ土俵まで降りてくる羽目になります。
加えて、馬鹿の反感を買えば、それだけ馬鹿の教育が難しくなるであろうことは、はっきりしています。恐らくは馬鹿の馬鹿振りを、今まで以上に見せ付けられることになるでしょう。
以上が、イバラの道のイバラの道たる所以です。成功は決して保証できません。それでもあなたがこの道を選ぶ、というのであれば、そのときは、どうぞがんばって下さい。応援します。
ですがむしろ、私はあなたが引越しを決意されることを、あなたに馬鹿の国にとどまる特別の理由の既にないことを願っております。可能ならば、私たちの国の国民になりなさい。
他の人はなんて言うか分かりませんが、私は歓迎します。 草々
もうひとつの馬鹿の国 ホニャラカ大臣 イワンより
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