カラスアゲハ Papilio bianor dehaanii C. Felder & R.. Felder,1864

 東アジアを中心とした亜熱帯から冷温帯にかけて広く分布する種で,ミトコンドリアDNAの解析により「中国大陸・台湾」,「八重山諸島」,「朝鮮半島・日本列島」,「奄美・沖縄諸島」の4つの系統に大きく分かれることがわかった。また,中国大陸西部に分布するクジャクアゲハPapilio polyctorは本種と同一種であることもわかり,このことは交雑実験結果からも支持される。朝鮮半島・対馬・日本本土・サハリンの個体群は,ミトコンドリアDNAの塩基配列に全く違いがなかったことから,最終氷期かそれに近い時代に分布を拡大した均一の個体群であると考えられる。

【形 態】
 ♂は前翅にビロード状の黒毛(性標)があり,♀は地色が薄く,後翅外縁の赤斑は発達する。離島(八丈島,三宅島,トカラ列島など)では色彩や斑紋の変異が顕著であるが,これは毒蝶であるジャコウアゲハが分布していない地域では擬態関係が弱まり,青緑色鱗が発達するとした報告がある。
 広島県産は屋久島以北亜種の属する。
 ♂交尾器は近縁種に比べてvalvaが比較的大きく,harpeは膨らみがなく目立たない。一般に,個体変異はあるが地理的変異には乏しい。

【生 態】
 呉市では年3化で,5,7,8〜9月に成虫が発生するが,次種に比べて春型の発生期が1〜2週間遅い。吉和村では年2化(4月下旬〜6月上旬,7月上旬〜8月)が報告されている。
 成虫は一般に低山地を好むが,その個体数は食餌植物の植生に大きく左右される。林道や渓谷で蝶道をつくり,吸水性も高い。山頂集合性も見られる。越冬態は蛹である。

【食餌植物】
 ミカン科植物を広く食するが,広島県ではカラスザンショウとコクサギが主要な食餌植物である。

【分 布】
 国内では日本列島にほぼ満遍なく分布するが,屋久島・種子島・馬毛島には分布せず,近縁種のミヤマカラスアゲハのみが分布する。この地域での分布様式には,カラスアゲハ亜属の分布拡大解明のカギがあるかもしれない。
 広島県では中国山地から瀬戸内海沿岸部まで分布するが,沿岸部では個体数が少ない。

【産地一覧】
 東城町,西城町,高野町,口和町,庄原市,君田村,布野村,作木村,三良坂町,三次市,向原町,吉田町,八千代町,豊平町,芸北町,戸河内町,加計町,湯来町,神石三和町,神石町,総領町,上下町,世羅西町,福富町,大和町,東広島市,呉市,川尻町,蒲刈町,下蒲刈町,熊野町,府中町,広島市,沖美町,宮島町,大野町,吉和村,廿日市市,大竹市,新市町,神辺町,府中市,福山市,尾道市,三原市

【参考文献】
柏原精一(1991) トカラと伊豆諸島のカラスアゲハはなぜ美しい?,蝶研フィールド6(9):6−16.
八木孝司・佐々木剛(1999) DNAによるチョウの系統解析,昆虫と自然34(2):20−25.