キマダラモドキ Kirinia fentoni (Butler,1877)


広島県呉市広横路 2000年9月30日


広島県呉市灰ヶ峰 2007年7月8日

 キマダラモドキは日本・朝鮮半島・中国東北部・ロシア沿海州などの東アジアに分布する種で,大陸では多くの地域で近縁種・クロキマダラモドキ Kirinia fentoni と分布域が重なる。この2種は交尾器や触角などの形態面や発生期に違いがあり,一般にはすみ分けを行っている。しかし韓国江原道桂芳山の稜線部での調査では,発生期には違いがなくほぼ混生していることがわかるなど,不明な点も多い。
 この2種の染色体数はキマダラモドキn=23,クロキマダラモドキn=19である。キマダラモドキ属の祖先型はn=25と考えられていることから,キマダラモドキとクロキマダラモドキは種分化にともなって,融合による染色体数の減少があったものと考えられている。

【形 態】
 ♂は前翅がやや尖り,翅表の地色は濃色。♀は大型,翅は丸味を帯び,黄褐色の斑紋群が現れる。♂の翅表には発香鱗が散布され,その部分は汚れて見える。♂♀ともに後翅裏面の眼状紋付近が白色になる個体(白色型)と一様な黄褐色になる個体(黄褐色型)があり,特に♀に顕著に現れる。
 広島県産は他産地に比べて大型で,ほぼ白色型に統一されるが,稀に黄褐色型も現れる。
 ♂交尾器はクロキマダラモドキとの比較で,tegumenは背縁の形状がなだらかで斜面状,uncusは短く太さの増す部位が基部より離れ,brachiumはより長く,valvaは中央部背面に微突起を有しない。

【生 態】
 成虫は6月中旬に姿を現し,最盛期は6月下旬から7月上旬である。この時期,成虫は樹液や腐果を吸蜜するが,特に畑や人家周辺に放置されたビワの腐果に多数集まっている。交尾行動は確認していないが,6月26日の午前8時に交尾個体を確認している。
 気温が高くなる7月中旬には姿を消し,夏休眠に入る。下蒲刈町での観察では,夏休眠中は全く活動しないわけではなく,早朝や夕方薄暗い時間帯に樹液などで吸蜜している♀を確認している。♂は夏休眠までに交尾を終え,死に絶えるものと思われる。
 9月中旬以降,日中に再び♀が現れる。この時期の♀は,非常に敏感な夏休眠前の個体とは違い,緩慢に飛翔し,柿の腐果に集まる。呉市で行ったマーキング調査では,夏休眠後の♀は約半数がほとんど場所を移動することなく生息していることがわかった。しかし住宅街付近でもよく目撃されるようになるため,広範囲に行動して産卵する個体も一部にいるものと思われる。産卵は10月中旬まで行われる。
 卵は枯れ葉などに卵塊で産卵される。卵塊の卵数は5〜20卵程度で,粘着物により軽く接着される。卵は約2週間でふ化し,そのまま一齢幼虫で越冬する。野外と同条件の飼育では,越冬中の幼虫は枯れ葉の裏や石の下面に静止し,暖かい日にはススキなどの根元の葉をかじっている。幼虫は五齢で終齢幼虫となるが,呉市では5月中旬に野外で終齢幼虫を確認している。食草や付近の草などで蛹になるが,広島県下では未確認である。

【食餌植物】
 多くのイネ科,カヤツリグサ科植物が報告されているが,呉市ではススキ,蒲刈町ではカモジグサ・ミゾイチゴツナギが確認されている。若齢幼虫は柔らかいイネ科・カヤツリグサ科植物を摂食し,幼虫の成長とともに葉の硬い植物も摂食するようになると考えられている。

【分 布】
 国内では北海道・本州・四国・九州において局地的に分布。
 広島県では呉市南東部・蒲刈諸島・豊島に分布。これらの地域は,瀬戸内海沿岸部では比較的珍しい結晶質石灰岩の分布域でもある。

【産地一覧】
 呉市大空山・広町の各地・灰ヶ峰・上平原町・休山,蒲刈町桂谷・田戸,下蒲刈町三ノ瀬・大野,豊島

【参考文献】
阿部  東(1997) 沿海州の蝶の染色体,昆虫と自然32(1):15−18.
神垣健司(1994) キマダラモドキの研究(T),比婆科学159:1−15.
  ―   (1994) 東アジア産キマダラモドキ属の分類と分布,Butterflies 9:35−41.
鷹村  權(1979) 広島県の地質をめぐって,築地書館,東京.
吉田公彦(1997) 蒲刈町でキマダラモドキ幼虫を採集,広島虫の会会報36:12.