クロアゲハ Papilio protenor demetrius Stoll, 1782



広島県佐伯郡吉和村細見谷 1994年6月11日



 ヒマラヤからインドシナ半島北部・中国南部・台湾・朝鮮半島南端(済州島付近)を経て日本列島にまで分布する,西部支那系要素を代表する種である。朝鮮半島南部と日本列島の個体群は有尾,台湾・中国大陸からヒマラヤに至る個体群は無尾である。日本列島では稀に無尾個体が採集され,岐阜県産無尾型♀の累代飼育では,有尾・無尾の形質はメンデル遺伝を示し,有尾遺伝子が無尾遺伝子に対して完全優性として働くことを強く示唆する結果となっている。

【形 態】
 前翅長は45〜70o。♂は翅全体が黒色で後翅表前縁に黄白色の横帯があり,♀は前翅地色が薄いため翅脈が目立ち,後翅外縁の半月状赤斑が発達する。また,春型は夏型に比べて小型で,後翅表の青色鱗と後翅裏の赤斑が発達する。
 広島県産は屋久島以北(朝鮮半島南端を含む)に分布する日本列島本土亜種に属する。なお,呉市において無尾型♂が採集されている(1961.Z.17)。
 ♂交尾器はvalva後縁は細長くまるみ,harpe末端の鋸歯状遊離突起は近縁種間では最も幅広く,phallusはより長い。Uncusは背面中央部が隆起し,末端は背面に反って尖る。

【生 態】
 呉市では年3化,ナミアゲハやキアゲハにやや遅れた4月末〜5月に春型成虫が現れて,7,9〜10月には夏型が発生する。吉和村では年2化(5月上旬〜6月,7月下旬〜8月)で,一部年3化の可能性があること(11月の記録あり)が報告されている。
 成虫は林道や渓流沿いに蝶道をつくって行動し,春型はツツジ類,夏型はユリ類やヒガンバナなどの花で吸蜜する。一般に日陰を好む傾向がある。そのため,産卵も日陰にある食餌植物の葉裏で行われる。蛹で越冬する。

【食餌植物】
 ミカン科の野生種・栽培種を広く食する。特にカラスザンショウや各種の栽培ミカン類を好む。

【分 布】
 国内では,本州東北部から南西諸島まで分布する。
 広島県では中国山地から瀬戸内海島嶼部まで広く分布する

【産地一覧】
 東城町,西城町,比和町,高野町,庄原市,君田村,布野村,作木村,三良坂町,三次市,向原町,吉田町,八千代町,大朝町,豊平町,芸北町,戸河内町,加計町,湯来町,神石三和町,総領町,上下町,世羅町,世羅西町,大和町,東広島市,呉市,川尻町,蒲刈町,下蒲刈町,倉橋町,江田島町,熊野町,府中町,広島市,沖美町,宮島町,佐伯町,吉和村,廿日市市,大竹市,新市町,神辺町,府中市,福山市,向島町,尾道市,三原市,豊浜町,豊町,大崎町,竹原市

【参考文献】
 比和町立自然科学博物館(1999) 蝶類研究ノート(伊藤弘),比和町立自然科学博物館標本資料報告第1号:51−128.
 小倉正治(1994) クロアゲハ無尾型の採集と飼育,蝶研フィールド9(2):20−22.