ミカドアゲハ Graphium doson albidum (Wileman,1903)



広島県広島市南区比治山 1995年5月27日

 東洋区に広く分布し,日本列島が分布北限にあたる。
 後翅裏面の斑紋には赤斑型と黄斑型があり,遺伝的には赤斑が優性である。日本列島では,傾向として,赤斑型は紀伊半島,対馬,奄美大島以南に,黄斑型は中国,九州,屋久島に分布する。四国は両型混合だが,東に赤斑型,西に黄斑型が主に分布する。広島県産は黄斑型であることから,九州,山口県方面から東進した個体群であることがわかる。

【形 態】
 ♂は後翅内縁が反り返り,内側に灰色の毛が生えている。♀は♂に比べてやや大型で,翅形に丸みがある。
 後翅裏面の斑紋は赤斑型と黄斑型があるが,広島県は全て黄斑型で現在まで赤斑型は報告されていない。
 ♂交尾器はuncusを欠き,phallusも細く長い。Valvaは近縁種のアオスジアゲハと異なり,末端が陥入して外縁に細かい鋸歯がある。

【生 態】
 広島県では5月に集中的に成虫が記録されており,夏季以降に野外での成虫の記録はない。飼育下では6月に蛹化した個体のうち,そのままで蛹で越冬する個体と7月に羽化する個体があることが報告されている。一部で,年2化していると思われる。
 成虫はアオスジアゲハに比べ飛翔が緩やかで,ナミアゲハに似る。訪花性が高く,トベラ,ネギ,カナメモチなどの花を訪れる。広島市南区比治山では,山頂にあるトベラの花に定期的に訪花に現れ,その山頂を飛び越えていくといった行動をくり返す。幼虫はタイサンボクに独特の食痕を残すため,遠目でも発見が容易である。蛹で越冬する。

【食餌植物】
 宮島ではオガタマノキ,呉市ではタイサンボク,広島市では両種が食餌植物になっていることが確認されている。なお,タイサンボクは夏季以降に葉が著しく硬化するため,食餌植物に適さなくなる。

【分 布】
 国内では紀伊半島沿岸部と中国地方(山口,広島,岡山),四国に分布する。
 広島県では1984年に宮島と広島市で採集され,その後府中町や呉市でも記録された。県東部の福山市では1999年になって,福山城で初めて確認された。

【産地一覧】
 呉市吾妻・広白石,府中町宮の町,広島市牛田山・比治山・向洋・向洋・千田・三滝・二葉山・尾長・高天ヶ原公園・縮景園,宮島町,福山市福山城

【参考文献】
青木暁太郎(1984) 広島市におけるミカドアゲハの分布,広島虫の会会報23:29−33.
岸本 修(1985) 呉市でもミカドアゲハの幼虫を採集,広島虫の会会報24:28.