ミヤマカラスアゲハ Papilio maackii Menetries, 1858


広島県山県郡芸北町八幡湿原 2000年7月20日


 ミャンマー北部,中国大陸,朝鮮半島,アムール,ウスリー,日本列島などの東アジアを中心に分布する種で,台湾での記録もあるが土着していないと考えられている。
 従来,シナカラスアゲハPapilio syfaniusとの関係が議論されてきた。現在では,本種と異所的に分布し斑紋にクラインが見られることに加え,ミトコンドリアDNAの塩基配列(ND5遺伝子789塩基)の解析により,同種でることがほぼ確実になった。日本,中国大陸,サハリン産の本種は雲南省産白紋型シナカラスアゲハ(ssp. syfanius)は塩基配列が全く一致し,チベット産無紋型シナカラスアゲハ(ssp. kitawakii)とは4塩基しか違いがなかった。こうしたことから,本種は100万年以内に多型をもつ変異集団が中国大陸に生じ,氷河時代に日本列島に進入したと考えられる。

【形 態】
 ♂は前翅表に性標がある。♀は♂に比べ大型で地色が薄く,後翅亜外縁部の赤斑は発達する。寒冷地産や春型は黄緑鱗が発達し,後翅裏の黄白色帯は鮮明である。
 広島県産は他の西日本産と変異が見られない。呉市産夏型♀は極めて大型になる。
 ♂交尾器は,カラスアゲハに比べharpe末端部が広がる。Harpe末端の鋸歯状遊離突起はほとんど目立たない。本種の♂交尾器はシナカラスアゲハを含めてほとんど地理的変異はなく,個体間の方が変異幅が大きい。

【生 態】
 吉和村では年2化(5月上旬〜6月,7月中旬〜8月)が報告されているが,10月に成虫を確認していることから一部年3化の可能性もある。呉市では観察例は少ないが,11月に終齢幼虫を確認していることから,年3化と考えられる。
 成虫は訪花性とともに吸水性が顕著で,特に集団で吸水を行う。♂は林道や渓谷に蝶道をつくり,樹林の多い山頂では山頂占有性も見られる。♀の産卵はカラスアゲハより高い位置で行われる。越冬態は蛹。

【食餌植物】
 カラスアゲハより食餌植物嗜好性が狭く,広島県ではミヤン科のキハダ,カラスザンショウを主に食べている。近年,呉市で発生している個体群は,荒廃したアカマツ林に生えるカラスザンショウを食餌植物としている。

【分 布】
 国内では北海道,本州,四国,九州に分布し,佐渡島,隠岐島,対馬,種子島,屋久島などの離島にも生息する。
 広島県では中国山地を中心に分布し,南下するに従って個体数が少なくなる。沿岸部では極めて稀になるが,近年呉市ではほぼ土着したと考えられる。

【産地一覧】
 東城町,西城町,口和町,高野町,比和町,君田村,布野村,作木村,三良坂町,三次市,向原町,豊平町,芸北町,戸河内町,筒賀村,芸北町,豊松村,湯来町,神石町,神石三和町,総領町,戸河内町,東広島市,呉市,府中町,広島市,吉和村,大竹市,新市町,神辺町,府中市,福山市,尾道市

【参考文献】
神垣健司(2000) 北上でも南下でもない第3の分布拡大を検証する,蝶研フィールド15(2):14−17.
八木孝司・佐々木剛(1999) 東アジア各地産カラスアゲハ亜属の系統関係,蝶類DNA研究会ニュースレター(3):7−9.