ナガサキアゲハ Papilio memnon thunbergii Siebold,1824



広島県呉市広横路 1999年5月7日

 東洋熱帯・亜熱帯に広く分布する種で,♀はウマノスズクサ食の毒蝶に擬態する(例外あり)ため多型で,有尾・無尾の2型をもち,日本列島は無尾型♀が分布する。有尾遺伝子は無尾遺伝子に対して完全優性で,メンデル遺伝をとる。また尾状突起を支配する遺伝子は,翅の色彩や斑紋に対しても連鎖linkageすることが報告されている。

【形 態】
 ♂の翅表は黒色で地色が濃く,♀は地色が薄い。また♀には前翅中室基部に赤褐色斑があり,後翅に白斑がある。♀の後翅白斑は南下するほど発達する傾向がある。
 広島県産は屋久島以北亜種に属する。現在のところ,県内では有尾型♀の採集記録はない。
 ♂交尾器はharpe末端は棍棒状で鋸歯状遊離突起はほとんど目立たない。Uncusは短く,背面に反って尖る。

【生 態】
 呉市内では5,6〜7,8,9〜10月に成虫が発生する。しかし夏季の個体は同時期でも新鮮な個体と汚損が著しい個体が混じっているため,春早く発生した個体群は年4化,遅く発生した個体群は年3化と思われる。
 成虫は栽培ミカン類のある人家周辺や耕作地などを主な生息域とし,各種の花で吸蜜する。♀は♂に比べてより緩慢に食餌植物の周辺を飛翔し,葉裏に1卵ずつ産卵する。蛹で越冬する。

【食餌植物】
 ミカン科ミカン亜科の栽培種(ウンシュウミカン,ナツミカン,ユズ,カラタチ,キンカンなど)を好んで食べる。

【分 布】
 国内では近畿以南に分布し,現在分布域を東に広げている。宮古・八重山諸島(1976年まで西表島には著しく白化した♀をもつ個体群がいた)では土着していない。
 広島県では瀬戸内海の西部沿岸地区で1950年代に土着,東部沿岸地区では1976年前後に土着した。中国山地では1980年代から採集記録が目立つようになったが,現時点では土着していないと思われる。栽培ミカン類にともなって分布拡大をしている。

【産地一覧】
 東城町,西城町,高野町,庄原市,君田村,三良坂町,三次市,向原町,吉田町,八千代町,加計町,湯来町,世羅町,東広島市,呉市,川尻町,蒲刈町,下蒲刈町,熊野町,府中町,広島市,沖美町,宮島町,大野町,吉和村,廿日市市,大竹市,府中市,福山市,向原町,因島市,豊浜町,瀬戸田町

【参考文献】
白水 隆(1966) パピリオ属の諸形質,とくに尾状突起の遺伝,昆虫と自然1(2):2−11.
中村慎吾ほか(1988) 広島県高野町蝶類自然誌,広島県高野町の自然誌:457−518.
門田 亨(1988) 広島県備後地方の蝶相について,蝶研フィールド3(3):10−24.