ウスバシロチョウ Parnassius glacialis glacialis Butler,1866






 中学生の時、父親に無理を頼んで吉和村冠高原まで蝶採集に連れて行ってもらいました。広島駅まで電車で行き、広島のバスセンターからバスで吉和村まで行きました。4時間以上かかったと思いますが、まるで冒険のようでした。冠高原には目指していたウスバシロチョウはいなくて、松の木峠から山口県側に下ったあたりでやっと2頭見つけました。憧れ続けていたウシバシロチョウを見つけた感動は今でも覚えています。この感動が、今でもカメラを持ってフィールドに出かける原動力になっているのかもしれません。



 中央アジアの山岳地帯を中心に生息する約40種のParnassius属のうち,最も東方の温帯域まで進出した種である。日本列島と中国大陸の揚子江中・下流域を中心に分布し,朝鮮半島には分布しない。こうした分布圏は,多くの動物や植物で知られており,氷期に中国大陸から直接日本に進出してきた種と考えられる。
 巨視的には,近縁種のヒメウスバシロチョウParnassius stubbendorfiiが東アジア北部(朝鮮半島を含む),本種が南部といったすみ分けを行っている。この両種が北海道の一部で混生し雑種(生殖能力を持つ)が発生しているため,両種は半種であるという意見もある。しかし,これは両種の分布が重なる辺縁地域で雑種帯(Hybrid zoon)が構成されているのであって,雑種帯の存在は(雑種にある程度の生殖能力があったとしても),それ自体が両種間の生殖隔離機構になっていると考えられる。

【形 態】
 同一産地では,♀の方が黒色鱗の発達がよい傾向がある。♀の腹部には毛が少なく,交尾後の♀は交尾嚢を付けている。
 一般に,日本海側に産する個体(裏日本型)は黒色鱗が発達し,太平洋側に産する個体(表日本型)は黒色鱗の発達が弱い傾向がある。広島県産では,吉和村産♀が黒色鱗の発達がよい裏日本型であるとする報告がある。しかし吉和村産♂は必ずしも裏日本型に該当せず,個体変異も多い。傾向としては,中国最深部では黒色鱗が発達し,南下し標高を下げるにしたがって黒色鱗の発達が弱くなる。なお,高野町産の個体は中室内の黒斑が鮮明に出現する個体が多いことが指摘されている。
 ♂交尾器は,日本産Parnassius属3種のうち唯一uncus基部背面からさらに鈎状突起が生じ,subscaphiumも大きい。

【生 態】
 成虫は5月上旬には出現し,6月上旬まで見ることができる。晴天の日には草原などを緩やかに飛翔し,各種の花を訪れる。交尾後の♀は,食餌植物付近の枯れ葉や枯れ枝・石などに1〜数卵ずつ産卵する。卵はそのまま夏・秋・冬を越し,翌早春にふ化する。5齢で終齢幼虫となり,4月末に枯れ葉や石の下などで繭をつくって蛹化する。

【食餌植物】
 ケシ科のムラサキケマン・シロボウエンゴサク・ヤマエンゴサク。広島県ではムラサキケマンとヤマエンゴサクが記録されている。

【分 布】
 国内では,北海道・本州・四国に分布する。
 広島県では中国山地とその周辺部に分布する。他県では分布域が急速に拡大していることが報告されているが,広島県ではそうした兆候は現在まで見られない。

【産地一覧】
 東城町,比和町,口和町,西城町,高野町,庄原市,君田村,布野村,三良坂町,三次市,豊平町,芸北町,戸河内町,加計町,筒賀村,豊松村,湯来町,神石町,神石三和町,上下町,油木町,吉和村,佐伯町,新市町,福山市

【参考文献】
鵜川 博(1969) 吉和のウスバシロチョウ,広島虫の会会報8:15−16.
中村慎吾ほか(1988) 広島県高野町蝶類自然誌,広島県高野町の自然誌:457−518.