ダビドサナエ Davidius nanus (Selys)

         



 渓流を生息域とするサナエトンボの中では、全県的に最も普通に生息する種である。野呂山の北側を流れる野呂川上流では、5月上旬頃に多数の本種が羽化する。羽化は午前中に行われるようで、時期さえ合えば羽化途中の個体をゆっくりと観察することができる。近似種のクロサナエとは発生時期や生息環境を微妙に変えているようで、これは交雑などを防ぐことに役立っているのかもしれない。ただ、個人的には本種とクロサナエの生息環境の違いはよくわかっておらず、これは今後の課題かもしれない。呉市広石内ではこの両種が混成しているため、ここを詳細に調べるとおもしろい結果が出そうだ。
 本種と他の広島県に分布するDavidius属(クロサナエ・ヒロシマサナエ)との区別は胸部側面の黒条によって行う。ただこの部分は個体変異が多いため、正確な同定が難しい場合もある。前項でも説明したように、頭部をはずして同定するのが確実であるが、生態写真などではそうも行かない。疑わしい場合は、無理に同定しようとはせず、Davidius sp.とするのが賢明であろう。
呉市灰ヶ峰北斜面を流れる焼ノ山川では、5月上旬に多数の本種が発生する。まだトンボに関心を持って間がなかった頃に、ムカシトンボを探してこの川沿いを歩いたことがある。山道沿いに多くのトンボがとまっていて、見たことがなかったトンボだったので、これこそがムカシトンボだと思って喜んだことがある。もちろんこれらのトンボはすべて本種で、当時はサナエトンボというグループを知らなかったことが、こんな間違いをしてしまった原因である。