クロサナエ Davidius fujiama Fraser


広島県山県郡芸北町掛頭山 2001年7月8日



 ダビドサナエに似た小型のサナエトンボで、これまで中国山地を中心とした渓流部に生息すると考えられていた。しかし筆者は、沿岸部の呉市広石内で本種の生息が確認しており、環境さえ整えば、沿岸部を含めて広範囲に分布していると思われる。ただし、本種は成虫の観察が難しいため、幼虫または羽化殻によって分布域を把握するのがいいだろう。
 成虫は胸部側面の黒条の形状で、ダビドサナエやヒロシマサナエと区別することができるが、一部の個体には判別の困難なものもみられる。正確な同定は、雄の場合は尾部付属器を上から見た形状で、また雄雌ともに、頭部を取りはずして後頭孔縁の形状をみることで区別できる。そのため一般には、成虫を生態写真のみで確実に同定するのは少し無理があるのだが、実際は胸部の黒条のみで同定することが多い。不確実な場合はダビドサナエ属の一種とすればいいのではないか。
 本種の成虫は羽化した場所と、その後に生活する場所が少し違っていると思う。これは本種が羽化した渓流を数週間後に訪れてみても、本種が全く確認できないことからも明らかである。成虫は羽化場所より上流部に移動するようで、ときにはほぼ源流域にいることもある。芸北町掛頭山でゼフィルスの観察をしていると、同じような場所に本種の雄がよくなわばりを張っている。このあたりは渓流の源流域にあたり、成虫が交尾・産卵をする場所なのかもしれない。いずれにしても、羽化場所をあまり離れないダビドサナエやヒロシマサナエと比べてライフサイクルに違いがあり、ダビドサナエ属の種間ニッチを考えるにあたって、重要な種なのであろう。