ムカシトンボ Epiophelebia superstes (Selys)

    
2001年4月14日                       2001年5月12日
広島県呉市広石内


 世界的に有名な生きた化石といわれる原始的な種で,翅の形態はイトトンボ科(均翅亜目)などと同じで,体つきはサナエトンボ科(不均翅亜目)によく似ており,両グループのミッシングリングともいわれている。日本特産種で,本種以外のムカシトンボ科はヒマラヤに生息するヒマラヤムカシトンボのみである。またトンボ類は河川環境で誕生し,やがて止水域にも進出した生物群といわれている。そのため古いタイプの河川の生息するトンボ類の多くは成虫になるまでに数年を要し,新しいタイプの溜め池などに生息するトンボ類は成虫になるまで1年かからない。この典型が本種であり,卵から成虫になるまで5〜8年かかるといわれている。
 河川の源流部,流れの速い渓流に分布する種で,汚れた河川や中流域,下流域には生息しない。幼虫を探すと多く見つかるが,成虫は非常に敏速に行動するため,なかなかゆっくりと観察することは難しい。暖かい広島県南部では4月中旬に発生し,寒冷地である北部では5月になって発生する。かつて4月末に豊田郡安浦町野呂川で,渓流の上を飛ぶ多数の本種を観察したことがある。ところが翌日行くと,もう数頭しか見つからず,その次の日以降は全く姿を消してしまった。あれほどたくさんいた本種が,わずか2日で全く姿を消してしまったことになり,今でも腑に落ちない。観察したのは野呂川本流であり,産卵するために支流に移動したことも考えられるが,それにしても一斉に消えたことは今でも不思議で仕方がない。一度,ゆっくり調査してみたいと思っている。
 広島県では沿岸部から中国山地にかけての,河川源流部に広く分布している。島嶼部でも宮島で生息が確認されており,詳細に調査すれば,もう少し島嶼部での分布域は広がるかもしれない。呉市広石内では苔に産卵する本種を観察しており,吉和村ではフキに産卵しているところを目撃している。