哀愁のスケートリンク


冬休み最後の日
4年ぶりにスケートに行った
大学時代に体育の授業で習ったのと
それから何年もして
子どもを連れて行くようになってから
夫に教えてもらったおかげで
何とかすべることはできる

はじめは
片足の上に乗ることができず
よたよた歩いてはよく転んでいたが
意識して体の力を抜き
右足、今度は左足と
シューズの細いエッジに
我が身をゆだねていくと
スムースに進んでくれる
力むと転んでしまう

さて
自分のすべりに余裕ができてくると
周りの様子が気になり始める
実はこのスケートリンクでの”人間ウォッチング”は
かなりおもしろい

今日はもう仕事始めで
ほとんどが子供づれや学生らしき人々だったのだが
その中に数組のカップルがいた

スケートリンクで見かけるカップルは
たいてい男性がとても上手い
そしてよろよろしている女性の手を取って
優しく指導すれば
男性の株があがることは間違いない

しかし
たまにだが、この立場が逆のカップルもある
今日1組だけ
上手な女性に”手すり磨き”の男性という組み合わせを見た
でもとても楽しそうだった

この女性はきっと彼氏の良い所をいっぱい知っているのだろう
スケートができなくてかっこ悪くても
それはそれで良いと思っているのではないか
男性の方も
堂々と無様な格好を見せているところが
何とも微笑ましかった

世の中がいくら”男女平等”を叫んでも
人々の意識の中に
男女の差ははっきりとしている
「男らしさ」「女らしさ」は
表面上では黙っていても
心の中では相手にそれを期待している

スケートリンクで
子供たちが何度も転んでいる姿はかわいい
転んでも転んでも何度でも頑張っている
はじめは無茶苦茶でも
しだいにすべれるようになる
子どもは恥も外聞もないから
その分上達が早い

大人になると
若い女性が手すりにしがみついているのは
これもまた愛嬌がある
友達同士できゃあきゃあ言いながら頑張っていると
インストラクターがすっと寄ってきて
ていねいに教えてくれる

わたしのような中年おばさんは
だいたいが「すべれなくても当たり前よね〜」くらいの
図太い神経を持っているので(笑)
ころんだって笑ってごまかす

しかし
大人の男性はこうはいかない

学生らしき男性がひとり黙々と手すりを磨いている
体が大きい分、転ぶ姿は派手だ
笑ってはならない
彼は真剣そのもの
そこには悲壮感が漂っている

わたしは勝手に考えてみる
友達に誘われて仕方なく来たというならともかく
こうしてひとりで頑張っているのは
何か事情があるのかもしれない
見栄を張って
「スケートくらいできるよ〜」と言ったものの
実は全然すべれないので
秘密の特訓をやっているとか
その見栄を張った相手が彼女だったりしたら
それはもう死活問題だろう

男性にはインストラクターも近寄らない
もちろん彼の方からお願いに行く事もしない
私たちが帰るまでの間
残念ながら上達はなかった

もうひとりやはり学生らしき男性
見かけはなかなかかっこいい
ところが
いざスケートリンクに入ると
見るのが気の毒なような状況だった
見かけの良い人ほど落差が激しい

家でこっそり練習できる事なら
誰にも知られずに特訓もできよう
だがスケートはスケート場でしか練習できない
とかく男性は見栄を張るものだ
昔から
「男の”こけん”にかかわる」という言葉があるくらい
男性は”できる”ことを期待され
またそれを自らに課している

今日一番気の毒だったのは
40才くらいの男性
奥さんと娘二人を伴って
さっとリンクに入ってきたものの
えらい勢いで転んでしまった
彼はスケート全くの未経験者だったのだろう
あなどっていたに違いない

「お父さんがこけたーっ」
娘の言葉に奮起した男性
手すりにしがみついて必死で立とうとしている
やっとのことで立ち上がっても
そのまま立っている事もむずかしい
奥さんが苦笑いしている
お父さんに子どもを指導してもらう予定だったのだろうか
子供たちもとまどっている

その後約1時間
お父さんはずっと手すりにしがみついた状態で
ほとんど進歩しないままに
リンクを後にした

あきらめずにもうちょっと頑張ってみたら
何とかなったかもしれないのに
やはり見栄の問題か
帰ってから奥さんが
上手にフォローしてくれればいいのだがと
余計なお世話だが心配になった

これまでも思ってはいたが
今日はつくづく
私は男に生まれなくてよかったなぁ・・と感じた
男性は本当に大変だ
会社でも家庭でも私生活でも見栄を張って
一生懸命頑張っていても限界はあり
上手くいって当たり前
失敗すれば”ダメな男”のレッテル
じゃあ思い切って見栄を捨てたらと言われても
それは自分が許さない

セクハラだの何だのと
女性を擁護するのはいいけれど
男性の側の事ももっと周りがカバーしないと
人生に行き詰まった世捨て人が次々増えたら
一体世の中はどうなってしまうのだろう・・

今日は一度ひどいしりもちをついて
今でも尾てい骨が痛む(苦笑)
気楽に失敗ができれば
何をするのも楽しい
まだまだ上達するかもしれない(希望)
寒さに弱いわたしだが
来年また行ってみようかなと思っている




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