交 渉


先日息子がため息混じりに言う
「おじさんの気持ちがわかるなあ・・・」
なによそれ?と聞くと
「ほら、世の中からとり残されていく寂しさみたいな感じ」
・・・・・・???

何をわけのわからないことを言い始めたかと思ったら
要するに
中学卒業を機に友達の多くがケイタイを買ってもらうので
その可能性がない自分が空しいという意味らしい

実は半年前くらいに一度ケイタイについては話し合った事があって
結果的に月々の使用料の問題で却下となっている
高校生がケイタイを持つことについては
わたしは特に反対ではない
もちろん自分の高校生時代を基準に考えれば
そんなものいるわけないじゃないのっ!
となるわけだが
わたしもかつて子どもだった時代に
よく母から”戦時中は・・・”という話を持ち出されて辟易していたので
時代にそぐわない価値観は無理強いしない事にしている

戦時中はみんながものがなくて一様に苦労した時代
しかしわたしの子ども時代は高度成長期で
すでに世の中は購買ムード急上昇中だった
「人並み」の基準はどんどん高くなり
みんなの状況は同じではなくなった
「持たない仲間」がいるうちはいいけれど
少数派になるのはつらい
ましてや今はもっと物のあふれる時代となり
その中で何も持たずに仙人のように生きるのは非常に難しい

今からちょうど6年前
同級生(特に男子)の誰もが持っているゲームというものを
小3の息子はまだ持っていなかった
当時は(今もそうだろうけど)
子どもがゲームばかりに夢中になることが社会問題となり
親は子どもにゲームを買い与える事を躊躇した
わたしも子どもはもっと色んな遊び方をするものと思っていたし
どうも聞くところによると
高価なソフトを次々欲しがるようになるということだったので
そんなものはとんでもないわと考えた

息子は小さい時から物を作って遊ぶのが好きで
紙とハサミとセロテープ(もしくは糊)があれば
いくらでも楽しく遊んでいたし
小2までは自転車であちこちでかける仲間もいて
はじめのうちはそれで特に問題はなかった
ところが
小3になってからはクラスも変り
まわりの男子はみんなゲーム派ばかり
学校でも話題はすべてゲーム
家に帰ってからもゲームを持ち寄っては遊ぶ
いつも人の話を聞くばかりの息子は
ストレスがたまっていた

ある時息子は友達から
いつも家で何をして遊んでいるのかと聞かれ
「工作」と答えたら
みんなから「ダサ〜〜〜い!!!」と笑われたという
それでもどうせ親は買ってくれないと思っていたのだろう
特に泣いて頼むような事もしなかった

ちょうどその頃から
担任の先生に
息子が人の落としたものをわざと踏みつけて壊したり
何か落ち着かない様子である事を知らされるようになる
そろそろ限界かな・・・・
さすがにそう感じた

その後
”たまごっち”ブームから生まれた育てるタイプのミニゲームを買うと
息子はそれはそれは喜んだ
ずっと我慢していたものだから
喜びもひとしおだっただろう
それからはぼつぼつカセット式のゲーム機も買い与え
やっと息子は人並みの付き合いができるようになった

子どもの欲しがるものを端から与えていたのではきりがない
親として
子どもには忍耐を教える義務がある
与えられない寂しさと
与えられる喜びと
色々な心模様を経験しながら
大人になる準備をする
その押したり引いたりのサジ加減は結構難しい
親は誰でも子どもの喜ぶ顔を見たいから
ついつい引き気味になってしまうのだ
しかし
教育という問題と共に
そこには経済的な壁も立ちはだかる
子どものためには親の財布が緩みがちになることを狙って
子どもをターゲットにした商品は次々現れる
物があふれる今の時代は
親も子も冷静でなくては時代の波に飲み込まれそうだ

一時的にゲームに夢中になった息子だが
その後はプラモデルを作るようになり
結局は原点へと帰っている
たまに気晴らし程度ゲーム機に向かっているものの
長くはやっていない
今日も誕生日に買ってもらっていた戦闘機プラモを完成させていた
他にもピアノを弾いたりテニスをしたりと
相変わらずの多趣味だ

それはぎりぎりまでゲームを買い与えなかったからなのか
あるいは早々にゲームを買っていても結果は同じなのか
人生は2度同じところを通れないのでわからない

そういう経緯もあって
わたしは息子のケイタイの問題に結構前向きだった
というのも
ケイタイというのはこれからの時代ますます進化し
完全に生活必需品として行き渡るであろうことは容易に推測できる
一時的に流行ってそのうちすたれる物ならいざ知らず
時代の流れにはある程度乗っていないと困る事もある

わたしは4年前にパソコンをはじめたが
それから現在にいたるまでのパソコンの普及率は目覚しいものがある
ここまでパソコンが必需品となり
特に仕事や勉強には不可欠となる時代が
こんなに早くくるとは思わなかった
わたしがパソコンを触るようになってから子ども達も使い始めたが
子どもの上達は大人よりもはやくて
今は二人ともわたしより入力速度が速い
娘はその頃まだローマ字を習っていなかったので
入力表を見ながらローマ字を覚え
そのうち学校の授業にパソコンが入ってきた頃には
何も苦労せずにすんだ

さて
ケイタイを持つのはいいとしても
問題は使用料金だ
とにかくこの問題は大きい
うちでは夫が一台所有しており
その状況から考えてある程度自由に使うには
月の支払いが少なくとも5千円程度はかかると思われた
しかも超過分が来たりしたら大変な事、、、
現実を考えてやはりダメかと落胆している息子にわたしは言った
「親が納得するような料金設定を見つけなさい」

ここで希望の光が見えてきた息子は
さっそく色々調べ始める
そして見つけたのが2千円台の使用料
元々息子のケイタイ使用目的は電話よりもほとんどメールだから
ぐっと安い料金設定が可能なのだった
しかもこれに一年割引も加わって
それならまあなんとかなるかな・・・
というところまで話は進んだ
そこで実際にお店に出向くと
ちょうど卒業割引の適用される時期に当たっており
学割や家族割り引きなどなどで
電話機自体も大幅に割引されるとのこと

この日ついに息子は念願のケイタイを手に入れることとなった
ちょうど6年前のあの日のように
息子、それはそれは喜んだ

月の基本使用料は親が負担するが
メール料金と通話超過分は自分のこづかいから負担する事はすでに決めている
いくら思ったより料金が安いとはいえ
その分何か節約しなくては赤字になる
親には親の都合があるのだ
そこでわたしは息子にひとつの提案をする
それは
これからのお弁当のおかずに冷凍食品を使わないというものだ
息子は友達のお弁当に冷凍食品が入っているのに憧れて
そういうお弁当を「人並みの弁当」と呼んだ
いまどきの冷凍食品は味も見かけもなかなかの優れもの
ダサい自家製は太刀打ちできるものではない
だが、量のわりには値段が張る冷凍食品には
日頃からちょっと納得がいかなかったから
今回の事はお弁当改革の良いチャンスだった

わたしの提案に息子は即OKする
「いいよいいよ、日の丸弁当でもいいよ〜〜♪♪」
こうして親子の交渉劇はハッピーエンドをむかえた

これから年齢が進むに連れて
今度はどんな交渉があるのだろうか
春からは学費もかさむ事だし
願わくば
当分面倒な問題は持ってこないで欲しいなあと思う(苦笑)





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