神のご計画は壮大すぎて
 人間にはさっぱり分からないので
 自分でよかれと思ったしたことが
 失敗につながるケースは多い


創世記第121節より

アブラムは神様から選ばれ、
そして今住んでいるカルデアのウル(現在のイラク)を離れ
カナンの地へ移動するようにと命令を受けます。
この命令に対して妻サライと甥のロトを連れて旅に出発し、
そしてカナンの地へ入りました。
ですがここで飢饉が発生したので、エジプトに逃れています。
エジプトに入る時、アブラムは妻にこう告げています。

「妻サライがあまりにも美しいので、
自分(アブラム)が殺されて妻を奪われるかもしれない。
だから妻ではなく妹として振舞うように。」(1211)

ですがこの計画はあっという間に失敗します。
どのような形で露呈したかと言うのは明確に書かれていませんが、
この後もう一度同じことをやっている部分を見ると推察出来ます。
206節にゲラルと言う場所で滞在した時、
またアブラムは妻に妹と名乗らせています。
この時は王様の夢で神様が警告を発しており、
サライはアブラムの妻だから手を出さないように、
手を出したらお前は死ぬと言われています。
それを恐れてアブラムはゲラルから追放されていったのですが、
エジプトで王様から追放されたのも似た様な事があったと思われます。

さて元の場所に帰って来たアブラムですが、
甥のロトと共に莫大な財産を持っていました。
それは元々アブラムが持って出発したものに加え、
先のエジプトで妻が王様に気に入られた際に
多くの贈り物を貰っていたからです。
この当時の財産と言うのは基本的に家畜ですから、
持っているだけでも管理が大変なわけです。
多くの使用人を雇い、家畜の水と牧草を手に入れなければならない。
ところがアブラムとロトと言う2人の頭(かしら)がそれぞれ保有していたので、
場所が手狭になり使用人同士でいざこざが起き始めたのです。
そこでアブラムはロトと分かれて生活することをロトに提案しますが、
その内容はロトが選んだ方向とは反対に行くと言うものでした。
ロトは周辺を見渡して牧畜に適していそうな低地を選び、
そしてソドムの街に移り住むことを決めました。
このソドムは後に滅ぼされる街であることは有名な話ですが、
この時点で既に神様に従わない人々の街だったのです。
一方でアブラムはカナンの地に移りそこで生活することになりました。

ところがこのロトが選んだソドムの街では戦争が起き、
ソドムの王様は負けそうになって逃亡していました。
そのため敵軍の王様の軍勢にソドムの町が略奪されたことで
ロト諸共連れ去られてしまったわけです。
このことをソドムの街から逃げ出した一人の男が
アブラムのところまで告げに来て発覚し、
アブラムは318人を招集して敵を襲ってロトとその財産を救出しています。

この戦いが終わった後、神様はアブラムに対して約束をします。
子供のいないアブラム夫妻に子供が与えられていくこと、
そしてそこから子孫の数が星の数ほど増えていくと言う事を。
当初アブラムは子供に恵まれなかったので、
ダマスコのエリエゼルと言う僕(しもべ)に継がせるつもりでした。
それは75歳を過ぎた今、アブラムの心の中では確信になっていたはずです。
なぜなら第153節にある通り、
神様が子供を与えてくれなかったと言っているからです。
アブラムの中では諦めていたわけですね。
ですが神様のご計画と言うのは全く異なるもので、
また人間の常識では測れないところにあったわけです。
また更に繰り返しになりますが、
約束にはこの土地を与えると言う事が含まれています。
この土地がアブラムのものであると言う契約の証として、
三歳の牝牛、三歳の牝山羊、三歳の牡羊、
山鳩と家鳩を割いて捧げるわけですが、
アブラムはここで鳩を割かずに捧げてしまいました。
それにより夢の中で神様から怒られています(1513)
星の数ほど増えるアブラムの子孫ですが、
それは400年間奴隷となってしまうと予言が為されています。
この予言は
実際にモーセの出エジプトが為されていることからも成就していくわけです。

さて子供が与えられると約束されたアブラムですが、
中々子供が生まれません。
そこで妻サライは
女奴隷のハガルによって子供を得ようと画策します。
ところがハガルが妊娠すると立場が強くなりました。
日本でも将軍の長男を生んだ母親と言うのは権力を握るものでしたが、
この時代も似た様なものだったわけですね。
そしてハガルが疎ましくなったサライはハガルに辛く当たり、
ハガルは逃げ出してしまいます。
この逃げ出したハガルに対して御使いが接触し、
生まれる子供が男の子である、
そしてその名前にイシュマエルと名付けるように伝え、
サライの元に帰るように告げています。

さて、99歳になったアブラムですが、神様が現れて告げます。
アブラムは多くの子孫に恵まれて多くの国民の父となるので、
名前をアブラムではなくアブラハムと名乗る様にと。
そして永遠の契約として現在滞在しているカナンの地を与えると。
そしてその契約の証として代々割礼を施す様にと。
さらに妻サライはサラと名乗る様にし、
このサラが諸国民の母となるべく
後にイサクと名付ける子供が生まれる事。
つまりアブラハムの子孫は
サラとの間から生まれる子供から始まると言ったわけです。

ところがこの時点で
女奴隷ハガルとの間にイシュマエルが生まれていますから、
アブラハムは焦ってイシュマエルを生かす様に懇願しています。
神様はその願いを聞き入れ
イシュマエルも子孫が増していくことを告げますが、
あくまでも神様との間に成される契約は
イサクの側に成されていくとされています。

ここまでアブラハムの物語を追いかけてきましたが、
神様はアブラハムとの間に
何度も子孫が増える約束をしています。
なぜこんなにもアブラハムと約束をしているのか。
それは123節で
「天下の諸々の族汝によりて幸を得んと」とある様に、
このアブラハムの子孫からイエスキリストが生まれ出でるのだと言う
壮大な計画を示しているわけです。
神様はエデンの園の時点で
女からメシヤが生まれると示しました。
そしてこの時点では
男と女の内の女ですから、その対象が幅広かったわけですが、
ここにきてアブラハムの子孫の女から生まれるとなり、
対象範囲が絞り込まれてきたわけです。

またアブラハムは神を畏れる信仰者でありましたが、
それでも色々と自分で考えて計画し、
その結果失敗しています。
エジプトとゲラルで人を恐れて妻を妹と偽り追放されたこと、
サラではなくハガルとの間に子供を設けると言う
人間的に考えるなら常識的な選択をしたこと、
そして高齢の妻サラとの間に子供が生まれると言う約束に対して疑問を抱いたこと。
どれも人間的に考えれば理解が出来る一方、
神様のご計画と言うのは
その人知を超えた壮大なものである
と言う事が
私たちに示されていると言えます。