カナンの地への
 偵察部隊に参加していたユダ部族のカレブは
 モーセの前に進み出で
 「すぐにカナンの地へ攻め入りましょう
 我々は必ず勝てます」
 と進言したが
 偵察部隊に参加していた他のメンバーは反対した
 そこで見たのは到底勝てるような相手ではなく
 自分達が彼らに比べて
 余りにも弱く感じたためである
 

民数記略 第13

11章から14章にかけては
イスラエルの民、特に第1世代が
約束の地であるカナンへ入れなくなる原因が描かれている
と言うお話を以前にしました

11章の食事に対する不満
12章のモーセに対する嫉妬と不満
そして今日13章はいよいよ
カナンの地の偵察結果に依よる不満が噴出します

そして次回14章にかけて
民数記略第1幕のクライマックスを迎えていくこととなります

前回12章の終わりで
パランの荒野に宿営しているイスラエルの民ですが
ここで偵察部隊を送り出すように神様から命じられます
パランはカナンの手前に広がる荒野であり
カナン入りが見えて来た段階で
約束の地がどの様な状況なのかを下見に行かせました

この偵察部隊には
各部族から有力な若手12名が選出されました
特にその中でエフライム族から選ばれたヌンの子ホセアは
モーセによってヨシュアと名付けられました
ただ1128節の時点でヨシュアと書かれていますし
もっと言えば出エジプト記17章でアマレクと戦う場面でも
モーセはヨシュアに命じて戦わせています

つまりこの13章におけるホセアの改名については
1つの区切りを示していると考えられ
元々神様の選びの内に
ホセアはヨシュアとして生きる事を定められていた
ヨシュアとはヘブライ語で「エホバは救い」と言う意味であり
その名を体現する者として
モーセの後継者として可視化されたのが
13章の記述であると考えています

またこのヨシュアの名前の上に毎回つけられる
「ヌンの子」ですが
ヌンが具体的に何をしていた人なのかは
聖書に一切出てきません
ですがこの後も申命記やヨシュア記を通じて
常に「ヌンの子」と登場するわけで
これほどまで繰り返し名前が登場していながら
その素性が明らかにされていないと言うのも興味深いものです

ただ歴代志上7-25を見ると
エフライムの第9子であるべリアから数えて8世代目となる子どもに
ヌンが登場します
続いて「その子はヨシュア」とありますので
この民数記に登場するヌンである事が分かります

べリアは象徴的な子どもであり
エフライムが2人の息子
エゼルとエレアドを失った直後に生まれた子どもでした
と言ってもこの2人は
村の家畜を奪おうとし住民から殺されているので
言ってしまえば犯罪者でもあったわけです

このべリアと言う名前は
ヘブライ語で「災い」や「苦しみ」を表しており(歴代志上7-23)
この一族の悲しみを刻んだ家系、犯罪者を生んだ一族から
救いにつながるヨシュアが生まれ出でると言うのも
考えさせられるものがありますね

イエス様も罪無きお方ですが
その家系に罪が無かったかと言うとむしろ逆でした
メシアに繋がるユダ部族
その始祖であるユダは
弟ヨセフを売る提案を行い罪を犯しています
ヨセフを殺そうとする兄弟に対して
「殺すのは後味が悪いから奴隷として売ろう」
と提案したのです
結果的にはヨセフの命を救った訳ですが
一方で「売った代金は等しく分けよう」とも提案しているので
目的はお金だったことが分かります
またその後も禁じられたカナン人の女性タマルと結婚し
罪を犯しています
ただしユダは
人質となるベニヤミンの代わりを申し出たことで罪を許され
メシア家系の始祖となりました

ユダの家系は、時代が下って有名どころでも
ダビデ、ソロモン、レハベアムと
古代イスラエル王国時代の王も立て続けに罪を犯します
男性だけでなく女性も
既に出たタマル、ラハブ、ルツ、バテシェバと遊女であったり
不倫していたりと罪人が多く登場します
つまりイエス様は罪なき系譜どころか
罪人だらけの家系の末裔として生まれた罪無きお方
ヨシュアもまたイエス様のひな形として
罪ある家系に生まれたイスラエルのリーダでした

こうしてみると
神様の救済計画がどの様なものであるのか
そして聖書全体を通じて
「罪の中にこそ希望が置かれる」
「罪を自覚し悔い改めた者に、神様が希望と力を与える」
と言う大きな主題が
個別のストーリの中で繰り返されている事が分かります

その主人公は時代や場面で異なりますが
罪ある人が神様の哀れみによって用いられ
そこに希望を信じた者が力を与えられ
人間的には不可能に見える業を為していく
全ては神の主権の下に神様が用意され
人はそこに「信じるかどうか」と言う
ただ1つの選択肢だけが置かれている状況です
選択肢は1つで良いわけです
なぜなら信じた先には
神様が必ず最適な状況にして下さると言う
「約束」がある訳ですから

さて民数記に戻ると
モーセは偵察部隊に対して次のように指示をしています

@ネゲブに移動し山頂からカナンの地の状況を確認すること

A見るべき8点は次の通り

 ・そこに住む民は強そうか?また数は多いか?

 ・地形は良いか?

 ・住民は天幕に住んでいるか?また城壁に囲まれているか?

 ・土地は肥よくそうであるか?

 ・木があるか?

 ・最後に勇気を出してカナンの地から果物を採ってきなさい

実際に偵察部隊はネゲブに移動し
山へ登り一帯を観察すると共に
ネゲブからヘブロンまで移動し
最終的にエシコルの谷と言うところで
ブドウとザクロ・イチジクを採取しました

ヘブロンと言うのは
エルサレムの南に位置する町であり
相当カナンの地へ入り込んでいたことが分かります

またヘブロンにはアナクの子孫である
アヒマン・セシャイ・タルマイと言う部族がいました
これらは巨人族であり
今後イスラエルが恐れつつも
克服しなければならない相手として登場する部族です
アナクについては
ネフィリムの子孫と書かれていますので(民数記13-33)
創世記6-4にある通り
神の子と人間の娘の間に生まれた存在
つまり超人的な部族と言う事になります

こう言ったカナンの地の状況を偵察した12人は
40日間の活動を終えてイスラエルの元に帰還します
そして見聞した事をイスラエル全会衆の前で報告しました
ヘブロンで採取した巨大なぶどうを見せて
「聞いていた通り、乳と密の流れる肥沃な土地でした」
と報告します

ところがそこに住む民は強く
町は強固な作りになっており
何よりもヘブロンでアナクの子孫が
ネゲブには
かつて出エジプト直後にイスラエルの戦ったアマレクが
山地にはヘテ・エブス・アモリが
海辺やヨルダン川の周辺には
カナン人が住んでいる事も報告します

ここで思い出すと
アマレク人はヤコブの兄エサウの息子
エリファズから始まる部族です
イスラエルとは従兄弟の様な関係があり
イスラエルにとって因縁の相手として
この先何度も戦うこととなります

ヘテ人・エブス人・アモリ人の始祖となるヘテ・エブス・アモリは
3人ともカナンの息子です
カナンはノアから生まれたセム・ハム・ヤペテの内、ハムの息子です
つまりカナン人の中心的部族ですね
ちなみにヘテ人はかつてアブラハムが
妻サラを埋葬するためにマクベラの洞穴を買い上げた相手です

こう言った見るからに強そうな部族
また山にも海にも多くの部族が住んでおり
決して簡単に征服出来そうな様子ではないとの報告を受けて
イスラエルの民は困惑する訳ですが
偵察部隊に参加していたユダ部族のカレブが
モーセの前に進み出で
イスラエルの民を鎮(しず)めると共に
「すぐにカナンの地へ攻め入りましょう。我々は必ず勝てます」
と進言しました
ところが偵察部隊に参加していた他のメンバーは反対します
見るからに背丈も大きな相手
しかも数は多く町も強固に作られている
到底勝てるような相手ではなく
自分達が彼らに比べて余りにも弱く感じた
その現実的な声がイスラエルの民を煽(あお)りました

13章はここまでとなりますが
14章に入ると増々混乱が広がります
モーセとヨシュア、カレブは信仰に基づき
「神が共にあるのだから大丈夫」と訴えますが
現実的な恐怖に支配されたイスラエルの民はパニック状態となり
口々に呟き、そして神を呪います
人間なら誰もが感じる
「見える不安 vs 見えない約束」のせめぎあい
それが神の怒りを招き
出エジプト第1世代の運命が
ここで決まることになるのです