いいかげんな話



<13.教習員見習いの日々>

入社2週目から、早速「仕事」は始まった
だが、仕事と言ってもその内容はほとんど「勉強」で
7月の資格試験の日まで
まるで学校に通っているかのように勉強三昧の日が続く

学校と違うところは
勉強するだけで給料がもらえるという点だ
息子にとってはここが何より有難い
学生時代は朝早くから夜遅くまでずっと研究室で頑張っていても
単なる無給の下働きだったから
働きの代価があるということ自体が新鮮で
息子をいよいよやる気にさせた

さて、自動車学校のインストラクター職は「指定自動車教習所指導員資格」の取得が必須だが
そのためには以下6科目の試験全部に合格しなければならない


 <知識に関する審査項目 >
  1.自動車教習所に関する法令についての知識(論文85%、正誤式95%)
  2.教習指導員として必要な教育についての知識(論述式80%)
  3.教則の内容となっている事項
   その他自動車の運転に関する知識(論述式85%、正誤式95%)

 <技能に関する審査項目>
  1.教習指導員として必要な自動車の運転技能(技能試験に準じ、85%)
  2.技能教習に必要な教習方法(面接80%)
  3.学科教習に必要な教習方法(面接80%)


()内のパーセントは合格ライン
筆記試験は教科書の内容を完全丸暗記しなければ対応できない内容で
道路交通法の条文などは句読点一つ間違ってもダメという厳しさ、、
しかも合格ラインが非常に高く、95パーセントなんて50問中3問間違えたらアウト〜

というわけで
息子たち教習員見習いは
掃除や送迎といった業務のほかは
毎日毎日ひたすら覚える覚える覚える・・

資格のない社員は6時には退社するので
会社を出た後、今度はファミレスに集まって勉強会

家に帰っても、教科書片手にぶつぶつ言いながら部屋をウロウロ

寝ても覚めても頭の中は道路交通法がぐ〜るぐる@@

一方、更に難関なのが運転技能試験だ
息子は18歳で免許を取って以来
大学時代後半からは往復120キロを車で通っていたので
運転そのものには慣れている
しかも乗っていたのはミッション車だし
普段オートマ車しか運転していない人に比べてこの点は有利と思われた
だが、残念ながら「慣れ」だけで「正しい運転」ができるわけではなく
むしろそれまでについているクセを直さなければならなかったりと
こちらも前途は相当多難であった

この資格試験は国家試験で、年2回(時には3回?)の受験チャンスがある
一回目で全科目合格できなくても
2回目は前回落ちた科目だけ受ければいいのだが
一年以内に全部合格しなければ
次の年はまたゼロからのスタートだ
一年間この勉強ばかりの日々を送って更にゼロからだなんて
そんなこと考えたくもないよね、、

しかも、「一回で全部合格する人はほとんどいない」なんて言われた日には
何かもう一発合格は無理なんじゃないかと
傍で見ているわたしもだんだん心配になってきた
それでも、息子は
校長から「どうだ、一回でいけそうか?!」と聞かれ
「はい、大丈夫です」と答えたというから
もうハッタリもいいとこだ(汗

それでも、試験日が近づくにつれて
筆記試験の方は何とかなりそうな気がしてきた
面接も大丈夫かな(多分)
で、残るは運転技能試験だが
「模試」代わりに受けた「普通二種免許」の結果が不合格だったので
最後まで不安が残った

ちなみに、一般的な「普通一種免許」の合格点は70点
そして「普通二種免許」になると80点に上がるため
更に合格ラインの高い「教習指導員資格」を受ける人は
よくこの「二種」を「模試」代わりに受けるらしい
この試験を受けることで合格ラインに乗れば自信につながるけれど
一番の目的は、試験場のコースを実際に走ってみることにある

それ以前に、このコースを「歩く」ために何度か試験場に通ったこともあった
お昼休みの時間帯だけ、コースに車がいなくなるので
その間、一時間だけは歩いてOKなのだ
こうして「歩く」ことでコースを覚え
更にはどこに気をつけたらいいかまで先輩社員が教えてくれた
共に休日を返上し
大雨の日も、炎天下の中も付き合ってくれる先輩には
親としても頭の下がる思いであった

今もそうだが
息子は最初からずっと先輩社員や上司によくしてもらっている
だから、余計に結果が出したいし
後に「こんなに勉強したことは今までない」と語るほど
本当に一生懸命やっていた
だが、やってもやっても何か特別な安心材料があるわけでもなく
審査基準もわからないし、どこまでやればOKなのかも不明だ

追い詰められるほどに、とりあえず勉強量の増す息子たち見習いに対して
ある日、校長から声がかかる
「そんなに勉強ばかりしてたらノイローゼになるぞ〜」

ちょうどその前に、先輩から
「きっと校長も一回で合格するとは思っていないから思いつめないように」
とアドバイスをもらっていたので
何だか肩の力がふっと抜けた

わたしは、そんなやり取りを息子から聞きながら
このいい加減な「ゆるさ」がいいなあと思った
ゆるゆるでもダメだけど
厳しすぎれば心が折れてしまう
そんな人間の弱さを見据えた上での「ゆるさ」は
人を生かすために重要だが
タイミングとバランスを計るのはなかなか難しい

3ヶ月の見習いの日々が過ぎ
一回目の試験の日がやってきた
結果は、一回目の試験で、息子を含めた3分の2が合格し
2回目で残りの人も合格
かくして同期はみんな一年以内にインストラクターデビューすることになった


(2014.1.28)



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