いいかげんな話



<14.やりがいとリスク>

7月初めに資格を取得した息子は
事後教養期間を経て、8月1日から正式にインストラクターになった
初めのうちは後ろに上司が乗って様子を見ているが
やがて一人立ちし
何も知らない教習生からみれば
まるで一人前の先生であるかのような立場になっていく
いや本当はもう本人毎日必死なわけで、、
でも、”1年目から先輩と同じ舞台で仕事をする”のは
息子にとってとてもやりがいのあることだし
この「やりがい」が心身に及ぼす影響は、はかり知れないものがある
おかげで彼はどんなに忙しくてもとても元気だ

折しも教習所が夏休みの学生であふれる中でのデビュー
勤務体制も繁忙期特有のシフトに変更され
一気に勤務時間は長くなり
資格手当が加わることもあって
見習い時より給料も格段にアップした(喜!)

9月半ば、繁忙期が一段落した頃
そろそろ路上教習デビューの話が持ち上がる
最初は教習所内のコースだけ受け持っていたが
路上に出てこそ、やっと本当の一人立ち
息子としては一刻も早く出たいと願っていた

ところが、10月に入り、そろそろ新人が路上デビューする頃になって
路上教習時に事故が起きた
対向車が中央ライン寄りに迫ってくることにパニックになった教習生が
ハンドルを切り過ぎてガードレールと接触したのだ
幸いケガ人は出なかったが、車は大きく破損
息子が乗っていたわけではないけれど
その話を聞いた時にはとても他人事とは思えなかった
そして、この仕事が
実は”人の命を預かる仕事”であることを
その時はじめて意識したのだった

息子がまだ路上教習デビューする前に
この事故を見せられたのは本当に良かったと思う
滅多にないことだけに(あってはならないことだし)
気持ちを引きしめる貴重な機会となったのは確かだ

教習車の助手席にはブレーキしかついておらず
いざという時、インストラクターは教習生のハンドルを片手で取って
危険を回避しなくてはならないが
それ以前に重要なのが危険予測だ
つまり、遠くに見える車が今後どのような動きを見せるのか
注意深く見守りながら予測し
いつでも動けるように構えておく必要がある

それでも、どんなに気をつけていても
人間のすることには完全はない
命を預かる職種の人は、ここで常に悩むことになるわけで
自分の力で完璧に安全を確保しようとすると精神的に追い詰められ
かといって、ちゃらんぽらんでは周りが迷惑する

大切なのは
”今の自分のレベルに見合った最善を尽くすこと”
結局これに尽きる
そして、そこに必要なのは「良心」と「許し」だと思う

完璧を目指すのは大切なことではあるけれど
行き過ぎると自信を失い
いざという時にパニックを起こしてしまうことがある
こうなるともう仕事自体ができなくなるわけで
中には一度の失敗で仕事をやめてしまう人もいるだろう

わたしの父は外科医であったが
手術中に患者さんが亡くなる経験はしたことがないと聞いている
これは父の手先が器用だったということばかりではなく
言ってみれば”運が良かった”のだと思う
でも、もし大きなミスを犯したら
きっと自分を責めただろうし
その後の仕事にも支障が出たかもしれない

命を預かる仕事は、やりがいがある一方で
リスクを背負っていく覚悟も必要だ
たとえ責められても、自信を失っても
どこかで割り切って、前を向いて進んで行くしかないわけで
人間が一生懸命やった上でのどうしようもないところは「神の領域」として
この先どう乗り越えていくのか
そこは各々の心が問われるところだと思う

10月下旬
息子は社員旅行で初めて能登半島を訪れた
そこでは「おもてなし」が売りの有名旅館に泊まり
「輪島塗」の体験もする

輪島塗体験の題材は「ハシ」
ただ色をつけていくだけの単純作業ながら
絵を描くセンスにやや欠ける息子には想像以上に難しかったようだ

そこで彼は、素直な心境をそのまま描いた。。
wajima1.jpg wajima2.jpg

右側のつぶれて読めない字は「難」
これはひらがなにしておくべきだったね
そうすれば送り仮名の間違いもなかったでしょうに^^;
(×難かしい→○難しい)

でも、彼自身はこういう間違いをちっとも気にしていない
そんな性格を昔は心配したわたしも
今はこの「ゆるさ」を、いいなと思う


(2014.1.30)



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