いいかげんな話



<5.心のダイエット>

心の問題が関係しているであろう体の異変については
前回書いたような痛みの問題以外にも
「体の一部が動かない」あるいは反対に「動きが止められない」など
運動機能障害の問題がある
これが脳の異常によるものならば検査すればすぐわかることだが
どんなに調べてみても何も出てこないとなれば
何らかのストレスによる体の変調(心因性〜)との診断が下るのが今は一般的だろう
こちらのケースは目に見えるので
痛みのケースのように、医師から変に疑われないですむが
当事者の苦痛は、当然計り知れないものがある

さて、心の問題から来る体の異変には
一般的な病気とは明らかに異なる部分がある
前回のリンクページ「うつの痛み」にも記されているように
”痛みの部位が動いたり、1日のうちで痛みの強さが変わったりすること”は
体のどこかが実際に壊れている場合にはまずなさそうだ
そして
何かに夢中になっている時に痛みが軽減するというのと同様に
運動機能障害の場合も
ある特定の行動をする時だけ、動きが正常に戻る場合がある
その”ある特定の行動”については
周りが気づくか、もしくは自分でも意識していればわかるが
どういう行動をしている時に痛みや運動機能異常が軽減するのかを把握しておくのが第一歩
そして、その時どんな心理状態であるか(心地良いとか楽しいとか)
反対に、どんな心理状態の時に悪い症状が出るのかを把握するのが次の一歩

こうして、自分の行動と心理状態と体の関係を知り
意識して心地良い方を積極的に選んで行動するのは
うつ病や不安障害に効果があるとされる『認知行動療法』で用いられる手法の一つだ

 認知行動療法について(国立精神・神経医療研究センターHP)はこちら
 (以下緑字部分抜粋)
 悲観的になりすぎず、かといって楽観的にもなりすぎず
 地に足のついた現実的でしなやかな考え方をして
 いま現在の問題に対処していけるように手助けします
 認知療法・認知行動療法は、欧米では
 うつ病や不安障害(パニック障害、社交不安障害、心的外傷後ストレス障害、強迫性障害など)
 不眠症、摂食障害、統合失調症などの多くの精神疾患に効果があることが実証されて
 広く使われるようになってきました


だが、”意識して心地良い方を積極的に選んで行動する”と聞くと
なんだ、それなら一日中好きなことして遊んでたら良いってこと?!=簡単じゃないか
と思われそうだが
それはあくまでも一部の人の思考に過ぎない
適当に好きなことして気晴らししながら程々にハッピーでいられるような人は
この手の病気にはなりにくいからだ
そもそも、うつ病や不安障害に苦しむような人は
一日中遊んで過ごすなんて自分に許すはずがないし
それどころか、自分の中にいちいち厳しいルールがあって
わずかに変えることも不安でたまらないのだから
1か0か思考の堅い心を少しずつでもゆるめて
体の緊張を「好い加減」にほぐしていくことが当面の目標になる
かと言って、真面目だった人が妙な遊びを覚えて道を踏み外し・・・ということもあるので
行き過ぎない「好い加減」は非常に重要だ

認知行動療法は
親から受け継いだり、別のところで影響を受けた思考や価値観の中で
間違いだったり、歪んでいる部分を
少しずつ整理しながら捨てていく「心のダイエット」のようなもの
過去の負の遺産をためこんで乱れた心が一度リセットされ
新しい自分に生まれ変わって生き直すことができるように導く手法でもある

ただし、かなり効果があるとされるこの療法であっても
自分だけでどんどん受け入れていける人は少ないだろうし
本気でサポートする公の体制も十分ではなく
本気で向き合おうと思ったら、一人当たりに膨大な時間がかかる現実がある
それほど、ひとりの人を変えるのは難しい事なのだ

さまざまな不安障害と戦う時の相手は「不安」という漠然とした存在であり
それに対抗する「安心感」を得るために
自分自身に「自信」をつけようと
自分の基準では危険に思える行動をあえて取るという「思い切り」も必要になる
言いかえれば、この「思い切り」がなければ先へ進むことは難しい
それを自分だけでやるのは至難のわざだろう
周りに「大丈夫」と言ってくれる人がいて
少しずつ「そうかな・・」と思いつつ進んでみる
ちょっとずつ、ひとつずつ
だが、この気長な作業に付き合ってくれる人がどのくらいいるだろうか
そして、何よりも自分をどうやって思い切らせるのか
そこが究極の問題点になる


(2013.3.6)



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