善の行方



<19.許し>

昔から離婚原因のトップを独走している「性格の不一致」の「性格」とは
その人の生まれ持った性格だけでなく
育つ過程で身に付けた考え方や価値観、生活習慣、癖
更には、コンプレックスから来る「ねたみ」「恨み」「憎しみ」といった「負の感情」まで
さまざまな種類のものが混在している
そして、各々が自分の持っている基準を「普通」とした上で
相手を見る時に生れた違和感を「不一致」と呼ぶのだろう

人の善悪の基準はいつも「自分」にあるため
その人の持つ許容範囲が狭いほど(潔癖なほど)「許せない」と思うことも多く
自ら事を難しくしてしまう可能性が高い
ただ、周りに良い見本となる人が居なかったために
あるいは悪影響を与える人がいたために
問題のある状況になってしまっている人に
「あなたの考え方は間違っている」と指摘しても
すぐに理解するのは難しいことだ
特に幼少時からすりこまれた思想は、その人を支配している
それを仮に「頭」では理解できたとしても
今までそれを正しいと信じて続けてきた「心」は納得しない


 「幼少時代から親から正当な愛情を受けられず
  身体的・精神・心理的虐待または過保護、過干渉を受け続けて成人し
  社会生活に対する違和感があったり子ども時代の心的ダメージに悩み
  苦しみをもつ人々」
                                (Wikipediaより)


これは『アダルトチルドレン』と呼ばれる人の定義だ
その特徴として代表的なものを一部あげてみよう


 ・ありのままの自分には価値がないと思ってしまう
 ・ノーと言うことができない
 ・自分の意見は二の次にして、周りに合わせようとする
 ・ささいなことで嘘をついてしまう
 ・自分の意見に自信が持てない
 ・被害妄想がある
 ・完全主義(失敗を極端に恐れる)
 ・何か問題が起こった時、自分に責任があるのではないかと思ってしまう


この特徴からは
いつも自分に自信がなくておどおどしている姿が浮かび上がってくる
決して本音で話してはいけないと思っているので
人と対等に話をすることも難しく
気をつけて話したことも後から必ず後悔するという
とても「自分」の人生を生きているとは思えない気の毒な状況がここにある

また、人の心に深く影響するのは親だけではない
親のように、あるいは親以上に信頼してきた人の言葉が
もしくは世間の心ない人の言葉が心に引っ掛かり
前へ進めなくしている場合
更にはその言葉が心の傷となってしまっている場合と
人の言葉の影響は計り知れないものがある

だからといって、今さら昔のことを掘り返して
自分に影響を与えた人物に責任を問えというのだろうか
むしろ、人のせいにする前に未熟な自分を反省したらどうだとの考え方もあるだろう
しかし、「負の連鎖」を断ち切れないでいる人々の抱える問題は
自分がどこでどう間違ったのか
そのルーツを知ることが重要であり
嫌でも過去を掘り返すことが必須となる
悲しかったこと、辛かったこと、その正直な思いを語ることで
やっと本当の自分と向き合えるようになるのだ
それは相手を恨むためではなく
あくまでも間違いを正して
新たに自分の人生を人に支配されず自分の足で歩き始めるため
そして最終的に
どんな人であっても人間は人間なのだと
間違いも失敗もあって仕方がないのだと
いつか相手も自分も「許す」ことができれば
そこから「生き直し」が可能になる

また、「許す」相手は人間ばかりではない
受験、就職、結婚、その他自分が思い描いた人生設計の理想と現実が違ってしまった場合
あるいは病気、災難、事故、大切な人との別離など
自分には起こらないと思っていたことが起きてしまった場合
そして、これは誰にでも平等に起こることでありながら
自分が老化していくことを素直に受け入れるのも案外難しいものだ
果ては自分がいつかは死んでいくことさえも許せないと思うかもしれない

人間は、物事を自分の都合に合わせて考える身勝手な生き物であるが
一度身につけた思想からは簡単に逃れられない哀れな存在でもある
世界中には異なる多くの思想があり
それらは常に「性格の不一致」を起こしているように
誰でも自分が一番正しいと信じたいもの
だからこそ頑張ってきたし
自分が間違っていると考えるのは情けない

ただ、間違った思想には必ず「生き苦しさ」が伴ってくる
これだけは否定しようのない感覚だろう
自分で何かがおかしいと感じることこそそのサインだ

ところが、本当の正しさを見つけようとするとそこには邪魔も入ってくる
それは人が外から持ってくるのではなく
その人の内側から出てくる「罪悪感」という心理であり
内側の自分が「変わってはいけない」「親を悪く思うとは何事だ」
「苦しいのは自分が悪いのだから」「自分さえ我慢していればいい」と呼びかけている
ここが、どんなに間違った親であっても離れられない人の弱さの根源であろう

実のところ、日本人の90パーセントがアダルトチルドレンだという説もあるほど
間違った思想によって「生き苦しい」思いをしている人は多い
わたしがこれまで書いてきた「勝組思想」は
世の中の主流思想ともなって人々を動かし、それによって得た繁栄の裏で
人の心は確実に傷つき荒んでいった
また、崇高な理念であったはずの「平和・平等思想」は
行くべき道を迷い、行き詰っているように見える

これからの時代は
さまざまな思想の中で、もてあそばれ傷ついた心が
癒される方向へ進んでほしいとわたしは願う
そのためにも
誰かのせいで自分が不幸になったと被害者のままでいるのではなく
今この時を、これからを、有意義に生きていくように
もう誰にも邪魔されることなく自分らしく生きることができるように
わたし自身も正直に生き、その生きた証を残したいと思う


(2012.9.7)



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