善の行方



<2.良心と信用>

就職活動を終えた息子が、今日は久しぶりに教会の掃除を手伝っている
そして「今のうちにじゅうたん掃除をしようよ」と言い出した
うちには、水を噴出しながら同時に吸い取る機能のついたじゅうたん掃除機があり
じゅうたんが乾きやすい今の時期が一番作業に適しているのだ
そこで、娘の都合も聞いて来週実施することにしたが
「来年からはいつ手伝えるかわからないし」という息子の言葉に
息子もついに社会人になるのだなあと感慨深い思いがする

振り返ってみると
わたしは子どもたちの成長を通じて社会との接点を持ち
わたしが子どもだった(若かった)時代とは世の中の様子も考え方も
随分変化していることを実感してきた
そして息子の就職活動についても
未知の世界を見るような感じがしたものだ
というのも、わたしが知っているのは
景気の良い時代の、売り手市場の就職活動だが
いまや世界的な不況の中で就職は超氷河期
それでも、好景気時代を知らない若い世代は結構現実的で
自分にあった仕事を探しながらよく頑張っていると思う

さて、今回息子が就職活動をはじめるにあたって
まず一番に決めた条件は「県内勤務」だった
そして、もちろん「興味のある職種」であることも重要だ
好きなことなら俄然張り切るタイプだから
そういうところが見つかれば良いなあとわたしも願っていたが
就活って考えてみれば
結婚相手を見つけるようなものだとも思う

結婚相手を選ぶ時
人は外観を重視する場合と、内面を重視する場合があるけれど
長い人生を共にするには
価値観、人生観、趣味など、内面が合う人の方が
お互い無理もなく、暮らしやすいし
試練の時も一緒に乗り越えられそうな気がする

これが就職先だったら
やはり自分の持っている考え方と似たところがあれば理想的だろう
とはいっても、息子も
就職説明会でそういう内面的にぴったりした感じを抱くところはなく
「ここへ行きたい」と強く願うところにはなかなか出会えなかったが
この仕事は面白そうだなと思って出かけたある企業の説明会で
思いがけず大変感銘を受けて帰ってきたのだった

『20世紀は貪欲な人が成功したが
 21世紀は信用のある人が成功する』

説明会で語られたこの言葉は
目先の利潤追求型ではない良心的な事業運営により
本当の意味で社会貢献できる企業こそが
この厳しい時代の中で信用を得ることができ
それによって自らもますます発展することを表している

だが、この言葉だけでは息子はさほど心を動かされなかったかもしれない
というのも、口だけならいくらでも立派なことは言えるし
社会貢献という言葉も今時は結構聞くようになった
しかし、息子が感心したのは
これを語る社長さんの雰囲気に
強い信念と、実績を積んできた人が持つ自信を感じたからだ

人の内面は、品性という形で表に出る
品の良い人は信用を受けやすく
信用を得た人は
その品位を保つためにいよいよ良心的であろうとするだろう
だが、世の中で生きていくには
良い人過ぎたのでは行き詰るし
善のバランスはいつも難しい

この会社との出会いから約二ヶ月
息子は無事に内定を得て、今ホッとしているところだ


(2012.8.2)



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