アホダルマ

 

きっと、誰も信じてくれないだろうな。この話をしても。

 

ある日、仕事から帰ったら、家に、ロボットが届いていた。自分は未来の世界から来た、ネコ型ロボットで、名前は「ドラえもん」だと言い張っていた。

どう見てもネコじゃなかったが、ロボットの言うことなので、放っておいた。でも、名前がないのも変なので、家族会議で彼のことを、「アホダルマ」と呼ぶことに決めた。

 

不思議なことに、アホダルマは、ハム太郎のぬいぐるみを異様なほど怖がった。あんまり怖がるので、ボクたち家族は、アホダルマに向かって、ハム太郎人形を投げつけるゲームを、毎日のように、楽しんだ。

 

その度にアホダルマは、未来の世界の不思議な道具を、おなかのポケットから出してくれた。「もう勘弁してください。」がアホダルマの口癖だった。

「どこでもドア」とか「スモールライト」とかとっても楽しかった。なかでも、うちの母親のお気に入りはは、「タイムふろしき」だった。おかげで、母は、ボクよりも若くなってしまった。

 

アホダルマが来てからの日々は、本当に便利で、何不自由なく暮らせた。あっという間に、1年が経った。

 

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でも、1年が経った頃、家族みんな、「アホダルマ」に飽きてしまっていた。アホダルマをいじめることも、話しかけることもなくなっていた。便利な暮らしも、いつしか当たり前になっていた。

 

その頃、アホダルマのおなかのポケットが取り外し可能なことを知ったボクは、ポケットをはがして、アホダルマ本体は、YAHOOのオークションで売り払った。コメントに、「ノークレーム・ノーリターンでお願いします」と書き添えたが、結構高値で売れた。

 

今となっては、アホダルマのことが家族の話題にのぼることもなくなってしまった。残念なことに、ボクは、彼のポケットをどこにしまったか忘れてしまって、未来の世界の道具を使えなくなってしまったが、なんだかんだ言って、何不自由なく暮らしている。

 

アホダルマのおかげで、ボク達は、未来の世界も、けっこう退屈なんだと知った。

 

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