なぜなんだろう


 KANの歌を勧めるボクを、その人は鬼のように馬鹿にした。
 KANの歌を口ずさむボクを見て、その人は鬼のように笑い転げた。
 KANの出したCDを全部買いそろえたのを伝えた時には、けなし言葉は全部使い切ったふうで、ほぼ無反応だった。

 そして3年の月日が流れ、その人から電話がかかってきた。
 そしてこう言った。
 「この曲、聞こえる?」って。
 おそらく彼女は、スピーカーのそばに近付いていったのだろう。次第に聞き覚えのある曲が耳に入ってきた。

 「おい、KANじゃねえか。」

 それから1時間くらいKANの話を聞かされた。
 声がいいとか、歌詞がいいとか、とにかく今の彼女はKANの大ファンだったのだ。

 だったらなんであの時、あんなにけなしたんだ。
 だったらなんであの時、同じ感動を共有できなかったんだ。

 こんなことってきっと世間ではよくある話だ。
 KANに限らずとも。
 大したことではない。

 だけど、なぜなんだろう。
 こんなに残念な気がするのは。

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