その1 期末日が金融機関休日である場合に何が起こるか?
さて、皆さんは「期末日満期手形」というのをご存知だろうか?
手形期日が期末日であるものを言うのだが、実務的に言えば、
期末日満期手形というのは結構大きな影響を与える。
例えば、12月決算法人で月末が締日の場合、近年は末日は常に
金融機関休日である。
この場合、手形がどのように決済されるかと言えば、期末日に決済
されないので、実際には翌営業日に決済されることになるのだ。
12月31日が満期日なら、1月1日から3日が休みなので4日が翌営業日
なので、1月4日に決済されるわけである。
で、問題はこの期末日満期手形の処理方法である。
実務的には2つの方法があるとされている。
1)期末日に決済があったものとして、例えば預金/受取手形などの
処理を期末日に先取りして行う方法
2)期末日には決済は行われないので、実際に決済された翌営業日で
預金/受取手形などの決済処理を起こす方法
この2つの方法のどちらも認められている。
1)の方法によれば、期末日が休日か否かで財政状態の比較可能性
が阻害されることは回避できるが、実際の預金の動きとは乖離が
生じることになる。
2)の方法によれば、実際の決済日で記帳できるものの、期末日が
休日かどうかで財政状態の表示状況に差異を生むことになる。
ということで、2)の方法によった場合の財政状態への影響を財務諸表の
読者が理解できるように、この期末日満期手形については、公開企業の場合、有価証券報告書において注記を要求されている。
よって、公開企業の場合はこの金額が与える影響がわかるのだが、
それ以外の場合は不明である。
もう大体想像できるであろう。
キャッシュフロー計算書作成の前提となる貸借対照表の作成方法によって
キャッシュフローの額が影響を受けるのである(間接法の場合)。
例示して見よう。
第1期末 現預金100 資本100
第2期 現金売上 150 手形売上 100 現金仕入150
手形期日は第2期末日とする。
この場合、
ケース1)第2期末が金融機関休日でない時
第2期末の現預金残高は、
100(期首)+150(売上)-150(仕入)+100(手形回収)=200
であり、
営業キャッシュフローは、
150(売上)-150(仕入)+100(手形回収)=100
となる。
ケース2)第2期末が金融機関休日である時
前述の1)の方法ならば、
第2期末の現預金残高は、
100(期首)+150(売上)-150(仕入)+100(手形回収)=200
であり、
営業キャッシュフローは、
150(売上)-150(仕入)+100(手形回収)=100
となる。
前述の2)の方法ならば、
第2期末の現預金残高は、
100(期首)+150(売上)-150(仕入)=100
であり、
営業キャッシュフローは、
150(売上)-150(仕入)=0
受取手形の残高 100
となる。
このように、どのような処理方針で、キャッシュフロー計算書作成の
前提としての貸借対照表が作成されているかによって、キャッシュ
フローの状況は大きく変わってくる。
「利益は意見、キャッシュは事実」というのは言いすぎだというのが
おわかり頂けるだろうか?
こんなもの、実際に作成して見ればわかることだが、残念ながら
巷の本の大半には(「ページの制約のせい」かもしれないが)殆ど
触れられていない。
私に言わせれば、サギである。
会計士協会の「実務指針」だけ読んで本を書いたであろう、いわゆる
”会計専門家”の本のなんと多いことか。
私が1期間だけ見て判断するなと口を酸っぱくして言っているのも、
キャッシュフロー計算書はこのように、ちょっとしたタイミングのズレで
キャッシュフローの状況を大きく変えて表示することがあるからなのだ。
そして、キャッシュフロー計算書だけ見るのも危険だというのも、こういう
話を念頭に置けばわかるだろう。
類似した論点として、売掛金の回収が期末日に設定されている場合、
会社によっては翌営業日に回収することもあろう。
このサイトを訪れる人は、公開企業の分析のみやっているわけではない
だろう。
だから、このような落とし穴を十分承知してから見て欲しいのだ。