その2 固定資産取得支出の把握

 

営業キャッシュフローを正確に把握するためには、その計算構造上、投資キャッシュフロー及び財務キャッシュフローを把握する必要がある。

これは、営業CFが現状では、投資CFでも財務CFでもない、「その他」としての性格を帯びていることによる。

財務CFは比較的把握しやすいのであるが、投資CFは一筋縄ではいかない。

これは、この投資CFは財務諸表などの公表情報だけでは把握しきれない部分があるからなのだ。

具体的に言えば、固定資産取得支出をどのように算定するか、である。

2期比較の貸借対照表情報や商法の要求する「附属明細書」の固定資産の増減明細と勘定内訳書の支払手形及び未払金の内訳がこれに一番近い資料なのだが、現実にはこれでは足りない。

どういうことかと言えば、決算書ないし「附属明細書」は、発生主義ベースでの固定資産取得が示されているのであって、キャッシュフロー計算書で必要とする、キャッシュベースの支出額にはなっていないのである。

よって、実務的には、

キャッシュベースの取得額

=発生主義による取得額+(前期末設備支払手形+前期末設備未払金)

−(当期末設備支払手形+当期末設備未払金)

という調整計算が必要となるのである。

ここのところは、実務的には非常に重要である。

例えば、期末に完成した工場への設備投資額が巨額な場合でも、
これが未払い状態になっているならば、キャッシュフロー計算書においては
あくまでも翌期以降の投資支出として示さなくてはならないのである。

例示してみよう。

建物 +100 未払金 +100

という状態ではキャッシュへの影響は全くない。

しかし、精算表などで単純な比較増減をとると、

建物の増加・・・投資キャッシュフローの減少 100

未払金の増加・・・営業キャッシュフローの増加 100

となってしまう。

このままでは実態に適合しないので、
投資キャッシュフローの減少を100減らし、
営業キャッシュフローの増加を100減らすという補正作業が必要になる。

で、実際に翌期に支払った時に投資キャッシュフローを減少させなければならない。

この際に、
”未払金中にどれだけの固定資産未払金が含まれているか”
がわかる必要があるのだ。

このような、固定資産増加額と未払金増加額との紐付きの金額が把握できない場合、
作成されたキャッシュフロー計算書はとんでもない的外れのものになってしまう。

まぁ、公開企業でそんなものを作成するとは思えないのだけれど、最近、
「キャッシュフロー計算書対応!」と謳う会計パッケージは多いのだが、
このへんを全て自動でやってくれるとはとても思えないので、
利用する側としては十分な注意が必要だと思っている。

どのくらい、このへんを加味しないキャッシュフロー計算書が日本中で量産されるか、
実を言えば、個人的には興味津々で見ているのであった・・・。

相変わらず性格悪いね、この人(^^;。


あと、念のために言えば、財政状態変動表作成時にはあまり考慮する必要のなかった
論点なので、ベテランだとかえって失念する人も出るかもしれない。
(ちなみにある研修会では設例に入っているのに説明もなかった。なんでかな?)

なお、最近受けた掲示板の質問では、この裏側の、売却したサイドの話が出たが、
同様に考えていただければわかっていただけると思う。


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