その3 貸付金と借入金との相殺

 

一般論で言えば、

長期貸付金の減少は投資キャッシュフローの減少。

長期借入金の減少は財務キャッシュフローの減少。

さて、では長期貸付金と長期借入金とを相殺した場合、

これはキャッシュフロー計算書に表現されるべきなのだろうか?

 

たとえば、第1期で長期貸付金と長期借入金とを同時に同額発生させる。

で、第2期になって、これを債権譲渡などで相殺対象としてしまうとする。

この場合、第2期においてフリーキャッシュフローが発生したと考えることは

正しいのだろうか?

 

この問題は実は結構難しい問題を含んでいると思う。

つまり、相殺によってキャッシュが実際に移動するかどうかが判断の

分岐点なのかどうかという問題点と、実際にキャッシュさえ動かせば、

実質的には相殺であっても、キャッシュフロー計算書に表現されるべき

なのか?という点はおそらく会計観によって決まってくる論点だからである。

 

キャッシュフロー計算書がキャッシュの動きを現実どおりに写像するものと

考えれば、相殺でなく、キャッシュを実際に動かせば計算書上で表現するが、

さもなくば表現しないということになろう。

 

キャッシュフロー計算書が実際のキャッシュの動きに必ずしも囚われない、

概念的なキャッシュの写像だと考えれば、相殺を表現することも一理あろう。

 

キャッシュフロー計算書があくまでも財政状態を動的に表現すべきものと

考えるならば、事前と事後とで正味のポジションに変わりはないのだから、

たとえ実際にキャッシュが動いても、これを表現すべきではないという

考え方もあろう。

(注記が妥当という判断になるだろう)

 

一体、理論的にどれが正しいのかは正直わからない。

制度としての考え方は一義に決まるかもしれないが、それが“正しい”かどうかは

また別の問題である。

 

実際、この3月決算からキャッシュフロー計算書は制度化したものとして

公表される。

で、公認会計士の監査対象ともされるわけである。

その時、この論点はどのように扱われるのか?

実は、このようなことを書くとかえって世の中を混乱させるかもしれない

という危惧もあって、この問題については触れないほうがいいのかなと

思っていた。

しかし、会計士協会の金融商品会計基準実務指針における割引手形の扱いを

見て、がっくりきたこともあって、協会のお手並みを拝見することとした。

(どこの世界で融資する側と融資を受ける側で金融説と売買説を使い分ける

つーんだ!「ボク融資する人」「キミ売った人」…マジかよ?

開いた口が塞がらないとはこのことだ。)

 

さて、各企業が公表するキャッシュフロー計算書がどんな“事実”を反映しているか、

見ものですよね。

公認会計士・監査人はどういう方針で臨めば査問されずに済むのか?

まさか、全部ありなんて言わないよね、N地サン。