真宗大谷派 円光寺 本文へジャンプ

  浅田 正作さん
              

『骨道を行く』法蔵館
  人に遇う

みんなこわれた
なんにもならなかった
だが 私の先に
そのことを喜びとして
歩いてゆく人がいた

 

  悲痛

ひとつになれない
私が 分裂している
この悲痛が
私を歩ませている

 

  いれもの

やどかりが
自分の殻を
自分だと言ったら
おかしいだろう
私は 自分の殻を
自分だと思っている

 

   回心

自分が可愛い
ただ それだけのことで
生きていた
それが 深い悲しみとなったとき
ちがった世界が
ひらけて来た

 

   帰る所

帰る所があるので
待っていてくださるので
安心して
遊んでいられる

 

   幸せもの

とおい昔
死ぬほどに苦しんだ
あのことが
私を ここまで

 

   からまわり

私の願いは なんだったのか
フッと 気がついたら
こんな私にかけられた
大きな願いに
立ちあがっていたはずの私が
からまわりしていた

 

   自力

もう 弱音をはくまいと
思っていたが 駄目だった
駄目だったので
自力とわかった

 

   難物

人生五十年が
七十年にのびたのは
仕上がるのに
手間ひまかかる 難物が
ふえたからでは

 

   驕慢心

酒ものまぬ たばこも止めた
パチンコもマージャンも
なんにも出来ない
甲斐性なしが
自分は 善人だと
思い込んでいる

 

   

折れて見て
初めて見えた
鬼の角
折れた思いが
また 角になり

 

   骨道を行く

人生 それは
絶望以上の現実だった
だが この苦悩に身を投じ
骨となって
願に生きた人がある
骨道ひとすじ
私もこの道を行こう

 

   まむし

なにかひと言いいたくなる
この根性の根っこに
人に噛みつくまむしが
住みついていて
ときどき
鎌首をもたげる

 

   教え

わが身 喜べるのも
教えのお陰さま
わが身 悲しむのも
教えのお陰さま
教えなければ
喜びも知らず 悲しみも知らず

 

   当り前が

当り前が拝める
当り前が
当り前でなかったと
当り前が拝めるとき
どうにも始末のつかん
わが身から
ひまもらえる

 

   畜生

交差点に差しかかったら
信号が黄色にかわった
ブレーキを踏みながら
「チクショウ」と言った
あさましや 畜生は
仏法聴聞にゆく
車のなかにいた

 

   いただく

他人が なんの苦もなく
手にしている幸せが
自分だけに
与えられない不運を
恨みつづけたが
今は その悔しさまでが
いただかれて

 

   見える

昔はいつも 誰かと
自分をくらべて
いじけたり のぼせたり
今も やっぱり
それをやるが
やったあとに
それが見える

 

   柿如来

せどの柿もいでいたら
フト 気がついた
この柿の木は
甘い実が成ったときだけ
やってくる この家の主を
何十年も黙って
迎えていてくれた

 

   人とせず

愧づかしくない生きかたなど
人間の生き方では
ないと思う

 

   自我

なんにも わからないものが
また わかったつもりで
行き詰まっていた

 

   思い違い

死ぬことが
情けないのではない
空しく終わる人生が
やりきれないのだ

 

   自分

愧づかしい自分
愧づかしい自分を
見ている
自分ではない自分

 

   只もらい

魚買うた リンゴ買うた
その金
自分の仲間の人間に
払ったが
魚に リンゴに
金払った人間は誰もいない

 

   泥鮒

泥に酔った鮒が
新しい水に入れられて
どれだけ泥を吐いても
泥が出て来るので
泥が自分だったと
呆れている

 

   無明

くらさを くらさとも
感じられず
光が当てられた
一瞬だけ ドキンとする
この鈍感さを
悲しいとも思わず

 

   始まる

己れの地獄発見
そこから 仏法が始まる
この地獄 深くして底なし
ここから
真の人生が始まる

 

  体得

楽になりたくて
仏法聞き始めたが
楽を求めぬのが
一番楽と
体でわかって来た

 

   ここ

ここに居て喜べず
ずい分
よそを捜したが
ここをはなれて
喜びは
どこにもなかった

 

   逆風浄土

むかい風のなかを
自転車でゆく人が
ひとこぎ ひとこぎを
ていねいに
頭をさげつづけて
ゆきます

 

   人智

世の中が
便利になって
一番困っているのが
実は
人間なんです

 

   節分

福はうち
鬼はそと
待ってください
待ってください
その二人は
絶対別れられないのです
その豆
福だけを欲しがる
この私に投げてください

 

   枯草のうた

枯草は
次のいのちのために
土に伏して
その実を抱いている

 

   恥ずかしいけれど

男が 女にひかれ
女が 男にひかれて
愛欲にしずむ
恥ずかしいけれど
私は いくつになっても
女にひかれる