1,アメリカの場合
アメリカはすごい格差社会です。レーガン政権の80年以降、アメリカの所得分布は大きく方向を転換し、所得格差が猛烈な勢いで拡大しました。
なぜ格差は広がったのでしょうか。小林由美『超・格差社会 アメリカの真実』によるとその原因は、金持ちが損になるようなことはしたくないからです。
「富の集中は、アメリカの税政策や金融政策に深長な意味を持っている。なぜなら、民主国家の政策を決めるのは選挙に当選した大統領や議員であり、選挙で勝つための最大の武器は選挙資金だからだ」 「候補者の目がどこに向くかは言うまでもない」
そこで、「ワーキング・クラスからの徴税を大幅に増やして、投資収入で生きるトップクラスの税負担を減らす。それが、グリーンスパンがレーガンのために考案した〝減税策〟だったのである」
働いてお金を手に入れるよりも、株の売買などのほうが多くの収入を得ることができるという仕組みです。アメリカでは株主への配当が最優先され、会社の利益や長期的展望、社員の福利を考えないそうです。小泉改革も結局のところは同じです。
その結果、アメリカは「特権階級」「プロフェッショナル階級」「貧困層」「落ちこぼれ」という4つの階層に分かれ、「特権階級」「プロフェッショナル階級」の上位二階層を合わせた500万世帯前後、総世帯の5%未満に、全米の60%の富が集中しており、トップ20%が84.4%の富を握っているそうです。そして、経済的に安心して暮らしていけるのは、この5%の金持ちだけだとのことです。
アメリカ国民の60~70%を占めるといわれる中産階級は「プロフェッショナル階級」と「貧困層」に二分化しています。
アメリカ社会の最下層にいる「落ちこぼれ」は、貧困ライン(4人家族で年間所得約280万円)に満たない世帯や、スラムの黒人やヒスパニック、保留区のネイティブ・アメリカン、難民や違法移民の大半で、人口の25~30%前後を占めています。
貯金が全くない世帯は25%。人口の15.7%、4500万人は医療保険が全くなく、18~64歳に限ると、19%は医療保険がありません。
「彼らは必要な医療も受けられない。病状が悪化してどうにもならず、止むを得ず病院へ行けば、返済できないほどの多額の借金を抱え込むことになる」
では「落ちこぼれ」はどういう生活をしているのでしょうか。
バーバラ・エーレンライク『ニッケル・アンド・ダイムド』は、時給6ドルや7ドルで働く女性たち(約400万人)はいったいどうやって生活しているのかと考えた著者が、現場に飛び込んで身をもって体験した体験記です。エーレンライクは、1998~2000年にかけてウェイトレス、掃除婦と老人介護、ウォルマートの店員をしました。
一番の問題は住居らしく、ワンベッドルームのアパートを借りるためには全国平均で時給8ドル89セントが必要。にもかかわらず、全労働人口のほぼ30%が時給8ドル以下で働いているそうです。
では、どういうところに寝泊まりしているのか。ウエイトレスの同僚たちは、
・ボーイフレンドと週170ドルのトレーラーハウス
・週250ドルの簡易宿泊所にルームメイトと
・夫と1泊60ドルのモーテル
・ショッピングセンターにヴァンを駐車
といった具合です。アパートを借りるために必要な1ヵ月分の家賃と敷金を払う貯えが彼らにはないのです。
一つの仕事だけではやっていけないので、別の仕事をせざるを得ません。当然、身体にはこたえます。
「単純労働など楽勝だと思われるかもしれない。だが、それは違っていた」 「仕事はすべて肉体的に厳しいものばかりで、何ヵ月も続ければ体をこわしそうなものもあった」
しかし、健康保険に入るためのお金もないし、貯金もない。だから病院には行かないし、病気をしても休まない(病気欠勤しても手当が出ない)。1998年までは「トイレ休憩の権利」すらなかったそうです。
身体の具合が悪くても仕事をしないと生活できない人がいる一方で、自分の家の掃除を業者に任せる人がいるのがアメリカの現実です。
「他人の子供の世話をするために、自分の子供の世話をおろそかにする。自分は標準以下の家に住んで、人さまの家を完璧に磨き上げる」ワーキングプアは「ひたすら与えるばかりの人たちなのだ」とエーレンライクは言います。
「賃金の面でも人に認められるという面でも、あれほど報われることの少ない仕事に、みんなが誇りを持っていることに驚かされ、ときには悲しくなるほどだった」
エーレンライクは掃除婦たちに、客たちのことをどう思っているのかと尋ねます。
「わあ、こんなの私もいつか欲しいなってことだけよ。だから仕事の意欲もわくし、恨みとか、怒りとかは全然感じない。だって、ほら、いつかはああなりたいっていうのが私の目標だもの」と答えるのは、深刻な椎間板の故障を抱え、8000ドルのカードローンを抱える24歳。
二人の子を持つシングルマザーは、「私は全然気にならないわ。きっと人間が単純なのね。あの人たちが持っているものを欲しいとは思わない。私にはどうでもいいことだわ。ただ、ときどき、どうしても休まなきゃならないときは一日仕事を休むことができたらいいなと思うだけ。休んでも、明日の食べ物が買えればいいなと思うだけ」
他の階層の人たちにあまり関心を持たないのは豊かな人たちも同じです。社会の仕組みのあり方に疑問を持ち、仕組みを直そうと考え、格差拡大の原因が何か、格差を減らすにはどうすべきかということに関心を持ってもよさそうなものですが、どうも興味がないのです。
小林由美は「これがいかにもアメリカらしいのだが―どの階層に属している人も、自分よりも下は無能か怠け者だから貧しく、上は金持ちの家に生まれたから金持ちなのだ、と思っている」と書いています。
なぜ他の階層の人に関心を持たないかというと、普段接することがあまりないからだそうです。階層が違うと住んでいる世界も違います。
「今のアメリカには、階層ごとに地域的な住み分けがある。だから個人は自分の所得水準に合わせて住む場所を選ぶ。明確に住み分けることによって暴力的な犯罪は貧困地域に囲い込み、落ちこぼれ層と接触しなければ、それなりに安全で快適な住環境を作り出せるということだ」 「アメリカ国内では貧富の差が拡大しても、特権層は物理的に隔離された世界に暮らしているから、貧困層の問題は身に迫る深刻な問題とは感じない」
日本も同じ状況なのかもしれません。香山リカによると、「問題なのは、格差の下とされる若い人たちが、甘んじて受け入れてしまっていること。自分探しや身近な幸せは考えるが、社会のあり方については考えようとせず、声もあげない。一方、格差の上とされる人たちは同情や共感が乏しく、他者に厳しい視線を向ける」ということで、なぜか貧困層に自己責任容認派が増えているそうです。小泉元首相の「格差は当然です」という発言になぜ怒らないのか不思議に思っていましたが、このあたりアメリカと似てきています。
アメリカに話は戻って、教育や医療などにも格差があります。金持ちは子どもを公立学校ではなく、金がかかる私立に行かせます。しかし、貧困層が一生懸命働いて報われることはほとんど、あるいはまったくありません。仕事を完璧にこなしたからといって、誰もほめてくれるわけではないし、まして給料が上がることもない。
ですから、「低所得家庭に生まれ、低水準の公共教育しか受けられなかった人は、その後の人生を通して衣食住全ての日常生活で大きなハンディキャップを背負うことになる」のです。落ちこぼれは親子代々落ちこぼれてしまい、金持ちはますます豊かになるという仕組みになっているわけです。貧困から抜け出すことは容易ではありません。
バーバラ・エーレンライクはこう書いています。
「私は、「一生懸命働くこと」が成功の秘訣だと、耳にタコができるほど繰り返し聞かされて育った。「一生懸命働けば成功する」「われわれが今日あるのは一生懸命働いたおかげだ」と。一生懸命働いても、そんなに働けると思っていなかったほど頑張って働いても、それでも貧苦と借金の泥沼にますますはまっていくことがあるなどと、誰も言いはしなかった」
そして、このような厳しい指摘をしています。
「私たちが持つべき正しい感情は、恥だ。今では私たち自身が、ほかの人の低賃金労働に依存していることを、恥じる心を持つべきなのだ。誰かが生活できないほどの低賃金で働いているとしたら、たとえば、あなたがもっと安くもっと便利に食べることができるためにその人が飢えているとしたら、その人はあなたのために大きな犠牲を払っていることになる」
公教育が破綻し、保険を持たない人が多い格差社会のアメリカの真似をして、日本の教育制度や医療制度を改めようとする動きがあります。なぜアメリカに見習おうとするのでしょうか。
小林由美は「アメリカにとって最大の問題であるはずの貧富の格差拡大や社会階層の固定化、教育の質の低下や職業訓練化、株価の上昇を最優先する経営すらも、まるで社会の活性化と変革への処方箋であり、アメリカから武器を買って軍隊を作ることが、国家の発言力を強めてステータスを高める方法であるかのような論調さえ、最近の日本では見受けられる」と批判しています。貧富の格差が拡大することが経済活性化につながるとは思えません。
2,日本の場合
アメリカの状況は他人事ではありません。毎日新聞社社会部『縦並び社会』を読むと、日本もアメリカのように格差が広がっていることがわかります。2000年のOECD加盟各国の相対貧困率(所得が全国民の所得の中央値の半分以下の人がどれくらいいるかを示したもの)は、1位メキシコ 2位アメリカ 3位トルコ 4位アイルランド 5位日本ですが、2003年には4位になっています。日本は世界でも格差の大きな国なのです。
貧困率は1985年に12.0%だったのが、2012年には16.1%に上昇。貧困層の数は1400万人から2050万人に増えたことになります。2015年のひとり親世帯(約9割が母子家庭)の貧困率は50.8%。
貧困率の上昇は非正規労働者が増えたことによる部分が大きいです。2012年、専門職・管理職・パート主婦を除く非正規労働者は928万7千人で、就業人口の14.9%。その平均年収は186万円で、貧困率は38.7%。
その多くは経済的理由から結婚できない、20~59歳の未婚率は、男性66.4%、女性56.1%。
橋本健二『新・日本の階級社会』にこうあります。
「高度成長が続いたあとの、いまより格差が小さかった時代、人々は格差の存在をあまり意識することがなかった。そして漠然と、自分の生活程度はふつうだと考えていた。この点では、豊かな人も貧しい人も、変わるところがなかった」
「もやい」事務局長湯浅誠は「働いているのに食べていけない」という相談が増えたと言っています。「もやい」は全国のあらゆる世代から相談を受けていますが、彼らに共通するのは役所に相談するということをまるっきり考えもしていないことです。そして自己責任論に縛られていると湯浅氏は言います。
働けるなら働く。ところが、月給をもらえるまでの一ヵ月間の生活費(食費、職場までの交通費、家賃など)がないために、日雇い労働をせざるを得ない。2千円でもあれば、人に頼ってはいけないと思う。手持ちの金が100円とか20円になり、仕事探しもできなくなり、とことんどうしようもなくなって、やっと「もやい」に相談するのです。
ワーキング・プアとは、憲法25条で保障されている最低生活費(生活保護基準)以下の収入しか得られない人たちのことです。最低生活費は、東京二三区に住む20代、30代の単身世帯だと月額13万7400円、夫33歳、妻29歳、子4歳の一般標準世帯だと22万9980円。大都市圏で年収300万円を切る一般標準世帯がワーキング・プアということになります。
母子世帯の05年の平均就労年収は171万円で、児童扶養手当や生活保護費などすべての収入を加えた平均年収は213万円。その児童扶養手当制度が改悪され、手当が引き下げられました。
年間を通して働いているのに年収200万円未満という人が1000万人を超えていて、総世帯数の18.9%。貯蓄なし世帯は23.8%です。貯蓄ゼロの世帯は87年には3.3%、03年には21.8%と増えています。ちなみに、平均所得金額は563万8000円です。
年20万円の保険料を払えないので保険証を使えない無保険者が、04年に30万世帯以上に達しています。国民健康保険料の長期滞納者34万世帯のうち、年収200万円未満が67%。過去一年間で、具合が悪いところがあるのに医療機関に行かなかったことがある低所得者(年収300万円未満、貯蓄30万円未満)は40%。深刻な病気にかかった時に医療費が払えないと不安をもつ人は84%。
もっとも、無保険者は横浜が70万世帯のうち31,592世帯、名古屋は43万世帯のうち15世帯ということですから、行政の対応の仕方によって大きく違ってくるわけです。
600万人から800万人が生活保護制度から漏れています。そして、雇用保険に加入していない労働者が増えたため、1982年には59.5%が失業給付を受け取っていたのが、2006年には21.6%と減少しています。
いざとなると頼れる人がいる、たとえば家族と暮らしている人と、自分のアパートさえなくて寮やネットカフェを転々としている人とでは、月収10万円でも、その生活は違います。最低ライン以下の人たちの多くは家族が支え、家族が社会保障を肩代わりしています。
ところが、現在は企業や家族からも排除されている人が増えています。企業は社宅などの福利厚生を大幅に削っているし、家族も支えきれなくなっています。
ネットカフェ難民調査によると、「困ったことや悩み事を相談できる人はいますか」という問いに対して、「親」と答えたのは2.7%、「相談できる人はいない」が42.2%です
。
このように厚生年金、雇用保険、健康保険、労災保険といった社会保険のセーフティネットに穴が空いてしまっていて、一度貧困に落ちると元にはなかなか戻れません。国、社会、企業、家族が支えてくれなくなって、最後のセーフティネットが刑務所というのが日本の現況です。
貧困と児童虐待・進学・自殺・自己破産などとは関係があります。児童虐待の場合、3都県の児童相談所で一時保護された510件の中、生活保護世帯・市町村民税非課税・所得税非課税の家庭は44.8%です。
「児童虐待やネグレクトを減らすためには、少なくとも貧困ラインの上まで家族の収入を増やす」ことだと湯浅誠氏は言ってます。
貧困は子どもの学歴にも影を落としています。大学卒業までの子育て費用は1人あたり平均2370万円かかります。生活保護世帯の高校進学率は約70%です。
貧困家庭の子どもは低学歴で社会に出て、就職その他で低学歴者に不利益が集中し、それがそのまま次世代に引き継がれてしまう、つまり貧困が親から子へと連鎖しているわけです。
自殺も貧困と無関係ではありません。自殺者の3割、約1万人が生活苦を理由として自殺していると推計されています。
多重債務者も同じ。
自己破産した人の借入れの要因
生活苦・低所得24.47%
病気・医療費 9.06%
失業・転職 7.17%
給料の減少 4.65%
破産申立者の月収
5万円未満 33%
5万円以上10万円未満14%
つまり、貧困が原因でサラ金から借り、自己破産した人が半数なのです。サラ金から借りなくても生活が成り立つなら、サラ金に手を出しません。一度自己破産したら、もうサラ金はお金を貸してくれません。しかし、どこかからお金を調達しないと生活できない。お金を貸してくれるのは高い金利をむさぼるヤミ金だけです。
「結局「借りた金は返さなきゃいけない」という律儀な人たちが、高すぎる違法金利を支払っていることを知らないまま、少ない所得の中からお金を返しつづけて、〈貧困〉に陥っている」
湯浅誠『貧困襲来』にこういう事例があげられています。
「夫の多重債務が原因で離婚して母子家庭となり、パートで働いても十分な収入が得られずに保育料を滞納してしまい、福祉事務所へ相談に行ったら追い返され、生活を維持するために自らも多重債務者になる」
この女性は一体どうしたらいいのかと思いますが、自己責任で片付けられてしまうのかもしれません。
しかし、貧困は自己責任ではありません。貧困にある人たちは怠け者だったわけでも、先のことを考えていなかったわけでもないのです。
悲惨なのは本人も「たしかに自分のせい」と納得してしまうことです。
湯浅誠は「彼 /彼女らは、よく言われるように「自助努力が足りない」のではなく、自助努力にしがみつきすぎたのだ。自助努力をしても結果が出ないことはあるのだから、過度の自助努力とそれを求める世間一般の無言の圧力がこうした結果をもたらすことは、いわば理の当然である。自己責任論の弊害は、貧困を生み出すだけでなく、貧困当事者本人をも呪縛し、問題解決から遠ざける点にある」と言います。
そうして人々は問題の所在を見失い、正社員と派遣社員、福祉事務所職員と生活保護受給者、外国人研修生と日本人失業者などが対立し、双方が引き下げあう「底辺の競争」をしていると湯浅誠は指摘しています。
貧困は政治、企業、マスコミに責任があります。1995年、経団連が「新時代の「日本的経営」」で、非正規労働を増やして人件費を軽減し、企業業績を好転させようと提唱しました。
「社員の生活の面倒を見るのは会社の責任ではない。将来社長になるような一握りの正社員以外は、全員使える間は使うけど、使えなくなったらしらない」
こうした流れの中で規制緩和が行われました。規制緩和が格差拡大の大きな要因です。
たとえば、規制緩和で参入が増えたため、トラック、バス、タクシーの運転手は労働条件が厳しくなっているのに、給料は逆に減っています。04年のタクシー運転手の平均収入は大都市部で308万円で、5年前より40万円下がりました。
あるいは、派遣社員。派遣社員はかなりピンハネされており、ある人の場合、月90万円を仕事先の会社は支払っていますが、本人は手取り20万円を切っています。正社員との給料の格差は大きく、年金、保険などは自腹。おまけに財界の圧力で過労死などの規制が骨抜きになっています。
30~34歳の男性が5年以内に結婚する割合は、正社員が35.5%、フリーターは17.5%。こんなところにも格差があるわけです。少子化が問題になっていますが、収入が少なくて労働時間が長ければ、子どもをほしくても無理な話です。
派遣の経費は会社の経理上、人件費ではなく材料調達費なんだそうで、人間が材料になっているわけです。
派遣会社員(39)「派遣先では当初の時給が900円だったが、3年過ぎて派遣先から信頼を得ている今でも1000円だ。社員よりも給与が安いのに同等の業務をさせられ、時間外労働は無制限。労働基準法も労働者派遣法も私の派遣先では通用しない。今の状況は「ヒトを使い捨てにする時代だ」とつくづく感じる」
人件費を削ることによって企業は業績をあげてきました。企業業績は2006年度には売上高、経常利益ともに過去最高を記録していますが、労働分配率(経常利益等に占める人件費の割合)は1998年をピークに減り続けています。
湯浅誠は「90年代半ばを境に、生産性と人件費の伸び方に大きな違いが見られる。それまでは生産性が伸びれば人件費も伸びていた。しかし、90年代半ば以降は、生産性が伸びても人件費は伸びない。むしろ減っている。企業は人件費を抑えることで生産性を伸ばしてきたからだ」と言っています。
おまけに、5%に増えた消費税は法人税引下げを補完する財源として使われました。法人税収が20兆円から10兆円に減った分、消費税収が10兆円増えているわけで、ちょうどプラスマイナスゼロになっているのです。
あるいは、大店法の廃止です。大型店が次々とできたことによって商店街がダメになり、小売店がどんどん廃業しています。大店法の廃止はアメリカの圧力のためです。ところが、フランスやドイツでは大規模店の出店を規制しているそうです。
株式譲渡益と配当所得への課税は一律10%、そして働いて稼いだ所得と合算する総合課税ではない分離課税です。給与所得で最高税率50%を負担している人は全納税者の0.5%。本当の金持ちは株によって高収入を得ているわけで、これはアメリカと同じ。大企業や金持ち寄りの政策としか言いようがないと思います。
では、儲けはどこに行ったのかというと、森永卓郎氏はこう言います。
「2002年1月から景気回復が始まり、名目GNPが14兆円増える一方、雇用者報酬は5兆円減った。だが、大企業の役員報酬は一人あたり五年間で84%も増えている。また、株主への配当は2.6倍になっている。ということは、パイが増える中で、人件費を抑制して、株主と大企業の役員だけで手取りを増やしたのだ」
このように外圧を利用して規制緩和し、格差が拡大することで利益を得る宮内義彦と竹中平蔵といった人たちは、格差は問題ではないと脳天気なことを言っています。
規制改革・民間開放推進会議専門委員、大阪大学教授の小嶌典明は「成果主義には評価の厳しさがつきまとうが、仕事の重要度や能力で差をつけなければ、労働意欲は高まらない。日本の企業は単純労働に高級を払いすぎている。米国は単純労働の給与を抑える代わり、キャリアを磨いて職や企業を渡り歩き、給与・待遇を向上させる自由度が日本よりはるかに高い」と言ってますし、高橋宏首都大学東京理事長は「原材料(学生)を仕入れ、加工して製品に仕上げ、卒業証書という保証書をつけ企業へ出す。これが産学連携だ」と人をモノ扱いして平気なのです。
マスコミも自己責任論を振りかざします。日本テレビの水島宏明はこう言っています。
「日本では専門家による貧困・福祉の研究成果が一般の人たちや政治家らの関心事とならずに、庶民の井戸端会議での感情的な議論そのままで貧困対策を議論し合っている傾向がある。マスコミも同様で、先進国としてはあまりにお寒い現状だ」
橋本健二は格差を縮小させるための手段を提案しています。
① 賃金格差の縮小
・正規と非正規の均等待遇
・最低賃金の引き上げ
・労働時間の短縮
② 所得の再分配
・累進課税の強化
・金融資産への課税
・生活保護制度の実効化
・ベーシック・インカム
③ 所得格差を生む原因の解消
・相続税率の引き上げ
・給付型の奨学金制度
・大卒者を雇用する企業への課税
日本の社会保障給付金は税金の41.6%しか使われていないそうで、EU平均並みにするにはあと43兆円が必要です。つまり、日本の社会保障給付金がそれだけ少ないわけです。
そして、日本の最低賃金は先進国の中で最低です。それなのに1983年までの所得税の最高税率は75%だったのが、1999年には37%、2007年度より40%と半分に減っているわけで、金持ち優遇税制なわけです。
消費税を増やすより所得税の最高税率を引き上げるべきだし、最低生活費は引き下げるべきではないと、私も思います。
政府の無策が貧困を生み出しているのに、政府は貧困の存在を認めません。生活保護基準以下で暮らす人全体のうち、実際に生活保護を受けている人がどれだけいるか、その割合を捕捉率といいますが、日本では捕捉率を40年以上調べていないそうです。
生活保護費が引き下げられ、受給者たちが生活保護費の引き下げは憲法が保障する生存権を侵害しているとして、引き下げ処分の取り消しを求める訴訟を起こしています。
しかし名古屋地裁と札幌地裁では原告敗訴でした。
なぜなのか、湯浅誠によると「政府は貧困と向き合いたがらない。貧困の実態を知ってしまえば、放置することは許されない。なぜならば、貧困とは「あってはならない」ものだからだ」ということです。
「足りないのは、本人たちの自助努力ではなく、政府の自助努力であることが明らかになってしまう」 「財政出動を要求する事態になってしまう。だから見たくない、隠したい―こうして、政府は依然として貧困を認めず、貧困は放置され続けているのだ」と湯浅誠は批判しています。
貧困はその人だけの問題ではありません。
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