宗教団体に対して、だまされていたのだから布施を返してもらいたいという訴訟がたくさんあります。病気を治したい、会社を立て直したいといったことがきっかけでお金をつぎ込んでしまうのです。中には何千万円も被害にあった人もいます。なぜインチキ宗教にだまされるのでしょうか
柿田睦夫『霊・因縁・たたり』は、霊とか因縁とか言って脅す宗教がどういう手法を使ってだましているかが、具体的に説明されています。
『サイキック・マフィア』は、1960年代に霊媒として大金を稼いでいたM・ラマー・キーンが、客をどのようにだましたかを告白した本です。
・手品のトリックを使う
・客について前もって下調べをする
こうした手口を細かく説明しています。
霊能者(スピリチュアル・カウンセラーも同類)の手口を勉強して、だまされないようにしましょう。
1 柿田睦夫『霊・因縁・たたり』
霊能者や霊媒が、死者がどうのこうのというインチキでだますという点では、日本もアメリカも同じですが、日本の場合は霊障、霊のたたりで脅し、不安にさせます。
『霊・因縁・たたり』に、本覚寺の霊視商法、阿含宗の霊視鑑定、統一協会の霊感商法、コスモメイトの除霊・救霊、細木数子の墓相の共通点が2つあげられています。
① はじめに恐怖あり
相談者が悩みを相談すると、原因を霊視鑑定によってつきとめるのですが、必ず「水子のたたり」や「先祖の不成仏霊」といったことになります。霊障(たたり)がいかに恐ろしいかを強調し、いま何とかしないといっそう悪くなると脅します。
本覚寺で説く不幸の原因
・犠牲霊 あなたの家系の御先祖を何代も辿っていくと、悪い因縁による犠牲霊が数え切れない程あるはずなのです。
・不成仏霊 この世に何の未練も残さず、大往生できる人が何人いるでしょうか。事故死・自殺・他殺・病死・災害による死など、ほとんどの人がこの世に執着を持ちながら死んでいるのです。
・水子霊 様々な事情で水子にしてしまった人はもちろん、全く身に覚えのない人でも、身内・親戚などに水子がいた場合、心優しいあなたに取り憑く事があるのです。
・変死霊 御家族や親戚・縁者に、不可解な亡くなり方をした人はいませんか?・・・のまま放っておくと、あなたやあなたの御家族にも必ず災いが起こるし、将来あなたの子供、孫、曽孫と永遠にその霊障は受け継がれ、災いを起こし続けるのです。
② 救いの方法を教える
「先祖が霊界で苦しんでいる。この因縁を切らないと、あなたや子供が不幸になる」などと脅し、供養、除霊、仏像の購入などといった救い(アメ)をさしのべる。
以上の2点です。
不安の原因がなぜ霊障なのか、その説明はありません。
桐山靖雄「あるからある、というよりほかにない」
本覚寺「体験によってのみ知ることができる」
霊能者といっても、実際にそんな能力があるわけではなく、説教のマニュアル(手引き書)に書かれてあるとおりに演技をし、暗記したセリフをしゃべるだけのことです。
「本覚寺=明覚寺の「霊視鑑定」マニュアル」から一部引用
Ⅰ 受け込み
「この部屋には、あなたと私と仏様だけだから、安心してなんでもお話しなさい」
質問事項
・今日はどういうご相談で来ましたか?
・そのような状態になる原因に心当たりは?
・家系、親類に、自殺、事故死、行方不明は?
・家系、親類に病死、若死にした人は?
・時々いやな気配を感じないか?
・家の中で寒々しい感じ、重苦しい感じがしないか?
・家は持ち家?敷地内に何か祀っていないか、それはキチンと供養されているか?
・先祖供養はどのようにしているか?
・水子供養は?
Ⅱ 確認
何をどうしたいのか明確にさせる。
「今の・・・の状態を・・・したいのネ!」
Ⅲ 霊示を聞く
Ⅳ 抑え
※ゆっくり、かんで含めるように、権威を持って、断言していく。
(1)ご託宣(霊示を受ける)
「うーん、良いもの素晴らしいものを一杯持っているね」
「例えば・・・(良いところを話す)」
「しかし、守りが弱く、邪魔が強いね」
「このままじゃどうしようもないネェ。まだ良いほうだよ、今の状態は・・・」
Ⅴ 切り返し、決定
(1)結論的今後の運命の断言
「このままにして置くと・・・こうなるよ」
「修行と祭祀、やるしかないね」
「まぁ、決めるのはあんただが、重い因縁背負って、霊障がすぐに出だしている状況で、このまま悪くなる一方の悲惨な人生を歩むなんて馬鹿げているもんな!」
「昔からお祀りとか仏事とかは女の役目、一々ご主人に相談してやっていないよね。ご主人や子供、家族の幸福のためにあなたが頑張らなくっちゃ」
「わかっていてやらない、知らん顔するのが何と言ってもご先祖さまや水子にたいして一番罪作りだからね」
「今、あなたは試されているんだよ。ご先祖様に、神仏に」
「統一協会の「霊感商法」マニュアル」から
お客様のウイーク・ポイントをつかむために
・自殺者はいないか
・精神病者はいないか
・どういう病死か(ガン、心臓病、脳障害等)
・事故因縁(水死、転落死、交通事故等)はないか
・水子がないか
・家庭不和はないか
・女系の家系ではないか
・直系の中に養子縁組がないか
・短命の家系ではないか
・親子関係は良いか(嫁と姑も)
・武士(殺傷)の因縁はないか
・離婚、再婚はないか
・高齢独身者はいないか
もちろん、祈禱や供養によって問題が解決するわけはありません。
コスモメイト「私たちには、種々の霊が複雑に絡み合っているので、なかなか一回や二回の除霊(救霊)では救い切れません」
こんな無責任なことを言って、何度も祈禱や供養をするよう仕向けます。相談料は3千~1万円程度ですが、祈禱・供養は別料金で、しかもだんだん高くなります。
供養の金を出せない人には、新たな相談者を連れてくるように指示し、その人数に応じて供養金に換算するというシステムもあります。
供養金を出さないと、「信仰を捨てたら地獄におちる」「罰(ばち)があたる」と脅して恐怖を植えつけるので、だまされていたと気づきながらもやめられないし、やめても不安にさいなまれ、霊のたたりの世界から離れることが難しくなります。
『霊・因縁・たたり』に載っている霊・因縁・霊障を教えの基本におく教団です。
真如苑、霊波之光教会、白光真宏会、法の華三法行、大山ねずの命神示教会、日本聖道教団、弁天宗、念法真教、解脱会、生長の家、創価学会、PL教団、霊友会、立正佼成会、妙智会、仏所護念会
霊のたたりなどを説くのは既成仏教もしてます。京都仏教会HPには「全ての宗教がその教義において先祖の因縁やたたり等を説いているわけではないと思われるが、宗教の中には、その教義・理念として輪廻や罰などを説いている場合もある」とあり、霊のたたりを否定してはいません。
霊感商法は詐欺ですが、ではお守りやお札はどうなのかということになります。金額が小さいというだけで、これも怖れを与えて売りつけるという詐欺と言えるかもしれません。「悪質」か「常識の範囲内」かの境界は実は非常に微妙です。
2 M・ラマー・キーン『サイキック・マフィア』
キーンは心霊主義の教会で行われている交霊会に参加して、そうして心霊主義教会を引き継ぎます。
「心霊主義」とは、死後の生や霊魂などの実在を信じ、霊媒を通して死者の霊のメッセージを受け取ったり、交信できるとする思想です。
教会を設立して、法律的な権利を得るのは簡単だそうです。弁護士に教会の定款を作ってもらい、8名の理事を集めて、州務長官が承認すれば、自分にどんな権限や肩書きも与えることができるし、他の者を聖職者に叙任したり、宗教学校を経営して自分に学位を与えることもできるそうです。
人々は亡くなった愛する人と交信するためなら、いくらでも金を出すとキーンは言います。
アメリカには各地に心霊キャンプがあり、インディアナ州チェスターフィールドには、毎年、夏になると数千、数万もの人が愛する故人と話をするためにやって来ます。キャンプ・チェスターフィールドに数十万ドルを遺贈した人、50万ドル以上を残した人もいるそうです。
キーンの主催する集団交霊会の参加費は3ドルから10ドル。毎日25回の交霊会を開き、1日あたり千ドルを稼いでいます。キーンの教会(信者300人)でも、一晩の礼拝で1万から2万ドルを集めたことがあるといいます。
1960年の10ドルは、2016年だと82.33ドルだそうですから、1~2万ドルは現在の10万ドルということでしょうか。
交霊会のトリック
交霊室は真っ暗なので、霊媒が何をしているか列席者にはわからない。そして、キャビネット(仕切り部屋)が交霊室にあり、秘密の出入り口や隠し場所として使われる。
・参加者の個人情報(家族の名前、社会保障番号など)を伝える
交霊会の列席者の情報を集めるための手段。
霊媒は交霊会に来た人たちのファイルを作っていて、それを霊媒師たちが共有する。この情報交換によって、未知の人が来ても、彼らや亡くなった人についての情報を言い当てることができる。
カードの符丁は、名前の横の×はその人が死んでいること、○は生きていること、ハート・マークは参加者が愛していた人。そして、「父は目の手術をしたが、失明した」「父方の祖母はウィルバーという名前」などが書かれている。
ある霊媒は個人名のカードを数万枚も持っており、今度来たときに物品引寄で返す私物をクリップで留めていた。
教会の礼拝前に、マジックミラーや盗聴器を使って誰が来ているかを確かめ、霊からのメッセージを用意する。
あるいは、交霊会の時にハンドバッグや財布を盗み、社会保障番号や銀行通帳などのデータを得る。
・物品引寄現象(アポーツ)
何もないところから物品を取り出したり、参加者が紛失したものを取り出す。
交霊会のときに、こっそり私物を手に入れ、しばらく経ってから、本人がなくしたと思っていたその私物を物品引寄で取り出す。たとえば、指輪を探してほしいと頼まれた霊媒は、指輪は自宅の冷蔵庫の角氷の中に氷漬けになっていると告げた。
・トランペットを使って霊の声を伝える
小さな赤い電球しかついていない暗闇のなかで、蛍光塗料をつけたトランペット(楽器ではなくメガホンのことらしい)が室内を飛びまわり、いくつもの声を発した。
その声は腹話術によるものだった。
トランペットが宙に浮かぶのは、トランペットは組み立て式で、120cmまで伸ばすことができるから。
・エクトプラズムの身体からの放出
エクトプラズムはシフォン(薄く柔らかい織物)を使う。
闇の中で見えないように黒いソックスとパンツをはき、シフォンでできた霊の衣裳を身につける。そして、キャビネットから姿を現す。霊の衣裳は霊媒のパンツや身体の穴などに隠す。
・空中浮揚
黒装束で見えない霊媒と共犯者が椅子を持ち上げる。
つまりは、手品にすぎないわけです。
人をだますという仕事に耐えきれなくなったキーンは、教会の評議員に、霊媒能力はすべてインチキだと告白し、イカサマをやめるよう訴えました。ところが、ほとんどのメンバーが信じなかったのです。
霊媒が愛する人々からの言葉を伝えてくれると信じ、そう信じることで心の安らぎを得ている交霊会の列席者は、霊媒があからさまなイカサマをしても、それを見ようとしないし、見たくないわけです。
キーンはこのように言っています。
「人々に嘘を信じこませるのがいかに簡単かは知っていたが、同じ人々が、嘘をつきつけられたとき、真実よりも嘘を選ぶとは予想していなかった。(略)
まったく正気の人間が、幻想やペテンに夢中になるがあまり、真実が白日のもとにさらされたあともなお、それにしがみつこうとするのはなぜか。(略)
いくら論理をつくしたところで、嘘とわかっていながら信じる気持ちを打ち砕くことはできない。」
キーンはFBIや州法務長官のところを訪れ、イカサマについて告白しました。しかし、警察は一人の霊媒も取り調べようとしなかったし、内国歳入庁が霊媒の帳簿を調査した形跡もないそうです。
『サイキック・マフィア』を読むかぎり、アメリカの霊媒は霊のたたりで脅すことはしないようです。
ニセの霊媒が有害なのは、仕事上の決断、家族の問題などを霊媒に相談して決めることで、霊媒に自分の人生をゆだねてしまうことと、『サイキック・マフィア』にあります。
3 佐藤愛子・江原啓之『あの世の話』
佐藤愛子・江原啓之『あの世の話』は、自称霊能者である江原啓之に佐藤愛子が聞く、という本です。その中で、江原啓之はこんなことを言っています。
「例えば、自分は殺されたとします。自分が殺されることができるというのは、人がいるからだと。
殺してくれる人がいるから自分が殺されることができるんだと。だから、その人に対しては感謝しなきゃいけないと。それで、自分を殺すということのために、その人はその分カルマを背負ってくれる。
自分は殺されたことにより、殺された心の痛みを理解できて、二度と人を殺さない魂になれる。だから、その人のおかげで自分はそれだけ向上できるんだから、そして自分のことでカルマを背負ってくださるから、その人を愛さなきゃいけない。
ですから、世界人類みな愛さなきゃいけないにつながってくる」
もう無茶苦茶です。信じられますか。おまけに、この暴言に対して、あの口の悪い佐藤愛子は「なるほど」としか言わない。
「人を殺す経験をしてみたかった」というので、見知らぬ人を殺した高校生がいましたが、江原啓之に弁護してもらえばよかったのに。
霊の世界や生まれ変わりを説く人は、人の痛みに驚くほど鈍感です。たかだか100年の人生ではなく、もっと大きな目で見たら、そんなこと大したことはない、ということです。そして、生まれる前に人生を選ぶとか、生まれ変わりをくり返し様々な経験をすることで向上していくとか、カルマの精算とか、そういう主張は、結局のところどんな悪をも、殺人だろうとなんだろうと肯定せざるを得なくなる。
麻原彰晃だけが特別なのではありません。
ネットで『あの世の話』を調べてみると、
「この本に出会えて本当によかった!★★★★★」
「霊的現象や心霊科学を分かりやすく説明されているので素人にも楽しく読める。」
といった高い評価。
あなたたちは自分の子供が殺されても、いい経験ができてよかったね、と喜ぶのですか、と聞いてみたくなりました。
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