「To Dreamers」
この物語は実在の人物にヒントを得たフィクションです。
(言わなくてもわかるって・・)
これは、私の塩沢兼人さんに対するラブレターが妖怪変化したものです。
くれぐれも「創作」などどお考えなきよう、ご忠告申しあげます。
尚、塩沢兼人さんのファンにしか判らない表現が多数あります。
それでも、よろしければお読みください。
読んでみる (なんとチャレンジャーな!)
やめる (当然のご選択です。)
「To Dreamers」
◆ 1 ◆
「必要ありませんね。」
無表情な台詞が部屋に反響した。
「ちぇっ、やっぱりな。」
コンピュータ・テクノロジーによって、音声を巧みに操れるようになってから、
声優業は実質的になくなったと言っていい。スケジュール調整もいらず、文句も言わない、僅かなコストだけで、作り手の思いがままの声が造り出せる・・・
とすれば、使わないほうがおかしい。中には物好きな制作会社が、声優を使おうとする事もあるが、声優業というもの自体が衰退してしまった今となっては、
なかなかに難しいようだった。
僕は、兼人。そう、20世紀の偉大な声優・塩沢兼人と同じ名前なんだ。この名前のせいか、声優に憧れちゃって、声優になりたくて、なりたくて仕方がない。もしかして、僕って塩沢の生まれ変わりかも?・・・んなこたぁないわな〜。はぁ。ため息もつきたくなるさ。
「邪魔だから、早く帰りなさい。いつまでも、そんな事言ってると親泣かせるわよ。」
「へ〜い。大きなお世話だっつ〜の。」
コンピュータ音声の普及によって、確かにアニメ制作コストは格段に下がった。その分アニメーションが恐ろしい程リアルで表現力豊かになった。迫力も半端じゃない。すごいのなんのって、実写もびびるぞ。でも、絵も音声も全てがコンピュータで作られていると思うと、味気なく感じるのは僕だけだろうか。何故か僕は、古ぼけた昔のアニメーションの方が好きだ。群衆なんか顔も描いてやしない大雑把で、平面的な絵なんだけど、なんかこう引き込まれるものがあるような気がするんだ。分かってくれなくてもいいさ。
20世紀ライブラリに行くと、結構古いものが保存されていて、昔のアニメが見れたり、CDも聴ける。このライブラリの前身は青ニなんたらっていう名前だったらしい。声優のコメントも聴けるんだ。僕は、全部のコメントを聴きたかったけど、尊敬する塩沢兼人氏のコメントだけが、現在では試聴不可になっているのが残念で仕方がない。
CD? 確かコンパクト・・ディスクとか言って20世紀に音楽やドラマなんかのメディアとして普及していた物なんだって。今では、購入手続きさえ済ませれば、自宅や戸外の端末でいつでも聴けるから、自分でコレクションする必要なんかないんだ。だけど、僕は持ってるんだ、くくくっ、CD。曾祖母ちゃんの形見らしいんだけど、もちろん、うちでは聴く事が出来ないから、いつもは壁に飾ってあるけどネ。
「オレってつくづく生まれる時代を間違えてるよな〜。あ〜ぁ、つまんね。」
何故だか、昔のものが肌に馴染むんだ。今のこの生活、不便はないし・・別に何が問題ってわけでもないんだけど、妙に落ちつかないってゆうか、しっくり来ないていうか・・・・。それがどうしてなのか僕にもわからない。
理屈じゃないんだ。はっきり言って僕は、この世界に馴染めない自分を持て余してしまっている。
建物を出ると、青年はブラブラと歩いていた。
その歩き方は、わざと”ワル”ぶっているようにも見えた。
「お兄さん・・・」
「あ?おれ?」
「あなた、声優になりたいそうですね。」
なんだ?こいつ。なんか目付き怪しいぞ。人さらいか?
・・っていけね、とうとう思考が20世紀にかぶれてら。そんなもん、このご時世にいるわけねーわな。
それにしても変な服着てるし、歳が・・全くわかんね。ブキミな奴じゃん。
「それが、なんかおっさんにカンケーあんの。」
「おっさんじゃないよ、あ・・」
「で、何。」
「あ、いえなんでも。ところで、声優になる途があると言ったらどうします?」
うっわ〜。ますます怪しいぞ。声優なんて死に絶えてるこの時代に・・・。
そんなに簡単に声優になれたら、オレが毎日苦労してないっつ〜の。
あ、でもちょっと待てよ。確かにたま〜に、物好きなヤツが声優捜してるって聴いた事あるよな。
「全然興味ない、とは言わねーけど、おっさんは?」
「おっさんに見えますか〜。変装大成功ですね・・。」
「何ぼそぼそ言ってんの。聞こえるよ〜に言えよ。」
「じゃあ、田中と呼んでくださいね。」
た・・田中だって。昔よくあった名字だろ〜。はは。でも僕は訳あって好きだけど。
しかし、今時、そんな名前があるか・・・・見え見えの偽名だよな。ま、いっか、どーでも。
「んじゃ、田中さん。それが本当だって証拠はあるかい?オレを担いだって、何にもいいことねーぜ。」
「そうですね。私が、手掛けてる声優リストをお見せしませう。」
リストにはなんだか怪しげな名前が並んでいた。(色眼鏡で見るとなんでも怪しく感じるもんだ)
僕は、こんなもん信用できるかい、と思いながらバラバラとめくっていたが、ふと手が止まった。そのリストの最後に塩沢兼人という文字を見つけたからだ。
「おっさん。」
「田中ですけど。」
「これって、あの塩沢兼人?」
「名優ですね〜。知ってましたか。」
よりによって・・こんな。これはちょっと頭に来たぞ。
「フカしてんじゃねーぞ。」
僕は、自分のワルぶりもなかなかじゃん。とか思いながら、田中の首を締め上げた。どーもおちょくられているようなので、少し強気な所を見せようと思ったのだ。
「ああぁ、首がもげるじゃぁありませんか。」
「え?」
思いがけない田中の言葉に、僕の腕から力が抜けたが、気を取り直してもう一度締め上げる。
ミシッ・・・メシッ・・本当に田中の首がもげる・・・と僕は感じた。
「マン・マシーン?」
しかし、マン・マシーンには触覚がついている筈・・・。
「マシーンじゃないよ、アンドロイドだよ。」
僕は、暫くフリーズしていた。そのセリフはそれほど僕に衝撃を与えた。
「アンドロイド・・?」
「冗談に決まってますよ。ジョーク、ジョーク。本当だと思いました?そんな訳ないでしょ。ね?」
田中は誤魔化したが、僕の腕にはまだ残っている。田中の首の感触が・・・。