「To Dreamers」
◆ 2 ◆
僕は、自分でもよくわからないまま田中について歩いていた。
やっぱり、からかわれたのかな。でも、あの首を締めた時の感触、それに田中・・
まさか本当に田中一郎、超人あ〜る? ああ、やっぱオレ、思考がシオザワだよ。
でも、似てるような気がしないか? 古いアニメ、見たきりだからな〜。でも、実際にいたらあんな感じになるんだろうか・・
いやっ、いーや。そんな馬鹿げた事あるわけないって・・やっばいな〜。なに考えてんだ。オレ、やばいよ。これって夢かな。そうだよな。
とするとこの先はどうなるんだろ?見届けてから起きなきゃな。
青年は、思いに耽っていたので、目に映る景色がいつもと違って来ている事にも気がつかないようだった。着いた所はなんと20世紀ライブラリだった。田中は正面玄関から入らず、左に廻り込み、関係者以外立ち入り禁止区域にずかずか入って行った。
「おい、あの・・」
田中は僕を振り返り、にまっと笑うと言った。
「どうぞ」
「はぁ、すいません。」
そこには、地下に続く階段があった。確かに階段を降りている筈なのに妙にふわふわして気味が悪かった。
まるで、異空間へでも入って行くみたいに。
僕は、すっかり、ワルの演技も忘れてしまっていた。
実際、そこは変な所だった。部屋には、様々な機材が置いてあるのだけど、どうも実体がないように思える。いや、触ってみるとちゃんとそこにあるのだが、離れてみると蜃気楼のようだ。ふと、気がつくと田中はいなかった。
代わりに、妙な優雅さを漂わせた色白の、頭のきれそうな美男子が立っていた。
流れるような美声で話し始める。
「私達は、声優をとても素晴らしいアーチストとして認識しています。そこで、才能ある声優希望の若者を募り、援助・教育をしているのです。今のアニメは・・」
突然、横から話しに割り込む者がいた。
「コンピュータごときに私の悲哀がわかるものか!途は険しくとも私は成し遂げてみせる。たとえ火の中、どぶの中に入ろ・・・」
「すみません。オズ君を・・」
僕に話しをしていた男が軽く手をあげると、僕の手を握り熱弁を振るっていた”オズ君”は渋々連れ去られて行った・・・。オズ君?
「は・・あの・・」
「失礼致しましたね、少々血の気がおおございましてね。あぁ。申し遅れました。わたくし、コー・メイと申します。今のところ、ここの責任者のようです。」
「・・・・・・・・。」
「どうかなさいましたか?」
「孔明?」
「ええ、やはり諸葛亮孔明を連想なさいましたか。光栄ですが、残念ながら私は、コー・メイです。」
やっぱり何かあやしい・・・どうも変な気が・・いや、絶対変だ!
そういえば廻りを見回して見ろ。見覚えのあるようなヤツばっかりじゃないか。ほら、あそこには、長い黒髪のヤツがいる。あの金髪のおかっぱ頭はもしかして・・頼むからこっち向くなよ〜、想像通りだったら、怖いじゃないか。まさかブタはいないよな。
僕が驚いている訳、わからないかい。どいつもこいつも塩沢キャラを連想させるヤツばっかりなんだよ!僕じゃなかったら、気がつかないかもしれないが・・・
「もしもし。」
「はっはい!」
「一度、やってみますか?」
「何を?」
「アテレコ・・声優気分とでもいいましょうか。」
「しっかし、我流でキャラクタ考えたりして遊んではいるけど、いきなりは・・・。」
「だから、体感してみるのですよ。」
僕は、ヘッドフォンとアイマスクが一体化したような装置をつけられた。一人用ビジュアル鑑賞用ヘッドじゃないの、コレ。でも、マイクが付いてるな。一体何が始まるんだろう。
数秒後、感電でもしたようなショックとともに、僕は別人になった。
感情移入なんてモノじゃなく、その人物そのものになっていた。そして、物語は僕の体験した事実になった。画面に現れるセリフを無意識に喋っている。パーチャルとも違う、不思議な体験だった。
終わってからも当分、興奮が抜けなかった。脳になにか直接アクセスされたらしい。
あぁ、そうか、毎回これをやっていたら、自分が自分でなくなるかもしれないな。僕はちょっと廻りの人達が、人間離れしている事に納得したような気がした。と同時に、これはあながち夢ではないかもしれないな、とも、現実ならばいいな、とも思い始めていた。何故塩沢キャラばかりなのかという疑問は依然としてあるが、たまたま目についているだけ、という事も考えられるし。
「どうでしたか?」
「はい・・興奮がぬけなくて・・これが、体感?」
「これは、キャラを感じる為のシュミレーションツールとでもいいましょうか。実際には、似たようなシステムを使いますが、脳にアクセスはしません。それでは、やはりコンピュータが演技しているのと変わりませんから。で、どうしますか?我々の活動に参加してみますか。」
「ちょっと、いきなりなんで・・考えさせてもらってもいいでしょうか。」
「結構でしょう。その代わりいいお返事をお待ちしていますよ。2日後にこちらからお迎えに上がります。では。」
コー・メイは、つかつかと去っていった。
歩く姿も優雅な人だな、と思っていると、
「また、昼寝かな。」
誰かが、ボソっと言ったような気がした。
僕は、考えたい事があるからと、「送りましょう」と言う申し出を断り、帰った。
◇ ◇ ◇
「本当に一人で帰してよろしいのですか。孔明様。」
つかつかと歩くその人に、すっと近寄って義眼の男が囁く。
先程、コー・メイと名乗った男は、足を止め、羽扇を玩びながら言った。
「大丈夫ですよ。あ〜る君をつけてありますから。」
「なる程。少々不安もございますが・・・・しかし、逸材でございましたね。」
「ええ、やっと捜し当てたのですから、慎重に事を運びましょう。」
「あちらはまだ、確定できていないようです。」
「当たり前です。必ず手中にいれますよ。必ず・・・。」