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「くっ・・・クラヴィス様?」
クラヴィスの執務室を訪れたリュミエールは、何かしら漆黒の艶を放つ生き物を見つけた。
声に応えるように、その生き物はゆっくりと振り向いた。
額にクラヴィスの髪飾りをつけている。
「リュミエールか・・・・・」
「?!」 リュミエールは口をパクパクさせている。
「クラヴィス様?・・・・クラヴィス様なのですね?」
紛れもなくその生き物からは闇のサクリアが感じとれた。
「なんという事でしょう。なぜ、そのようなお姿に・・・・・」
「判らぬ。朝ここに来たら、こうなっておったのだ。」
「ああ、クラヴィス様、おいたわしい・・・」
嘆くリュミエールにクラヴィスは言った。
「お前も、水色のペンギンに見えるがな。」
水色ペンギンは我が姿を確認すると気絶した。そこへ、虹色の美しいペンギンが入って来た。
「オリヴィエか。」
「ちょっとー、なんでわかるのよー。やっぱり、ペンギンになっちゃってるのね・・・あら、これってリュミエール?」
虹色ペンギンは苦労して水色ペンギンを起こしてやった。
「なんだか知らないけどさー。この部屋のドアに触ったら、こんな姿になっちゃったのよ。クラヴィスあんた何やったのさ。」
「何も。」
「ん、もーお。もう少し慌てない? とにかくジュリアスに報告して、調査してもらわなくっちゃ。」
「私は・・・ここにいる。」
「わかったわよ。ほら、リュミエールしっかりして。」
ジュリアスの執務室。
「いったい、なんだというのだ!」
眩いばかりに輝く金色のペンギンの怒声が鳴り響いていた。
燃えるような真紅のペンギンがそれをなだめている。
ジュリアスとオスカーは最初、えらく変な動物が部屋に入って来て驚いたが、それがリュミエールとオリヴィエだと分かり、更に驚いた。正確に言うと、オリヴィエには少し笑ったが。(だって虹色・・・)
「何をやらかしたのかと」諫めるつもりだったが、自分達も同じような姿になった事がわかり・・・・・・。
「これは・・・・何の真似だ・・・」 光のペンギンは怒りのあまり声がでなくなって震えている。
「ジュリアス様は、何故お前らがペンギンになって、し・か・も、俺達までこんな姿にされたのかと聞いていらっしゃるのだ。さぁ、早く説明してもらおうか。」
「だ・か・らー、わからないから相談に来たんだけどぉ、ゴールドペンギンとファイヤーペンギンまで増えちゃったよ。困ったわねー。」
「ふぁ、ファイヤーペンギンだと? 何を呑気な事を、このド派手ペンギン!」
オスカーも少々気が立っているらしい。
「言ったわねー。私だって好きでこうなってる訳じゃないのよ。ド派手はないでしょ。」
「じゃ、極楽ペンギンっていうのはどうだ?」
「オスカー、喧嘩売ってるわけ?じゃ、言わせてもらうけど、あんただってそーとーに変じゃないさっ。」
ふるふるしている光のペンギンとオロオロしている水色ペンギンを余所に、炎のペンギンと虹色ペンギンの喧嘩はエスカレートしていった。
「オスカー。」
やっとジュリアスが平静を取り戻したようだ。
「そなた達がこの部屋に入って来た途端、このような姿に変わってしまったのだ。理由を聞きたい。」
「わたくし達もわけがわからず、ジュリアス様にご相談に参ったのです。」
「では、いったいそなた達は何時何処でそのような姿になったのだ。」
「ええ、それが・・・・」
「私はクラヴィスの部屋の扉に触っただけなんだけどさぁ。」
「わたくしは・・・クラヴィス様のお姿に驚いておりましたら、いつの間にか。」 水色ペンギンは気まずそうに言った。
「って事は、クラヴィス様もこの動物になってるわけだな?」
虹色ペンギンはコクンコクンと頷いた。その姿が余程可笑しかったらしく、オスカーが吹き出しそうになった。
「何よー。自分だってペンギンの癖に。」
「俺はペンギンになってもダンディだぜ。」
つい調子にのりそうになったオスカーだったが、ジュリアスの視線に気づいて黙った。
「ならば、最初にこの姿になっていたのは、クラヴィスという事か?」
「他の者に話を聞いておりませんので、断言は出来ませんが、おそらく・・・」
「クラヴィス・・・で、あやつは何と言っているのだ。」
「それがわかんないらしいのよー。」
「『朝来たらこうなっていた』と仰るのみで。」
「そなた達では、埒があかん、クラヴィスを呼べ。いや私が行く。」
ジュリアスはすくっと立ち上がり、颯爽と部屋を出ていった・・・
つもりだったが、見送る者たちの目には金色のペンギンがいすからピョコンと飛び下り、よたよたと歩いて行ったようにしか見えなかった。
「え〜っ!!!」
部屋の外で、マルセルの声が聞こえた。
「しまった!」
オスカーとオリヴィエは走って(遅いけどね)ジュリアスを追いかけた。
「かーわいい! どうしたの金色のペンギンなんて珍しいねー。」
「・・・・・・・・」 光のペンギンは、なでなでされている。
「あ、赤色ペンギンさんと虹色のペンギンさんまでいるう!」
「遅かったか・・・・」
光のペンギンの前にはちょっと小振りで可愛らしい黄緑色のペンギンがいた。
「えっ? ペンギンさん、お話が出来るの?」
「あーら、マルセルわからない? わたしよ。オ・リ・ヴィ・エ。」
黄緑ペンギンは口をパクパクさせて、ペンギンを代わる代わる見比べた。
「え〜!!じゃあ、この赤いのが、あっ・・失礼しました・・・オスカー様で・・・こっちは・・」
「ジュリアスだ。」
「(汗)・・・すっ、すみません。ぼく、かわいいーなんて言ってしまって・・・」
「そのような事はよい。気づいていないようだから言っておくが、そなたもその・・・・」
ジュリアスが言いにくそうに見えたのか、オスカーが口を挟んだ。
「手を見てみろ。」
「手・・・? あっ、わわわわ、ぼくー、ぼくもー?」 やっと自分の姿に気がついたようだ。
「あれー、あれえ、どうしちゃったのー。どうして、こんなになっちゃったんですかー?」
「それをこれから調査する所さ。」ペンギンが気取ると可笑しくてしょうがない。
「あ〜あ、これで守護聖9人のうち6人はペンギンって事じゃないのさ。どうすんのよ。」
「どうも伝染するようだ。とにかく、これ以上誰にも会わぬうちにクラヴィスの所へ行くぞ。リュミエールも連れて行こう。よいか、走るぞ。」
ペンギン一同は一列に並んで走る。(そうは見えないけど。)
誰にも会わないようにと、それぞれキョロキョロしながら。
向こうの方でランディとゼフェルの声がした。
聞こえて来る話の内容から察するとこちらへは来ないようだ。
但し、ペンギン一同が彼らに見つからなければだ。
こんな面白い生き物を見つけて放っておく訳がない。
ペンギン一同は、彼らに気配を悟られまいと廊下の壁にへばり付いた。
色とりどりのペンギンの置物が一列に並んでいるようだが、ちょっと不自然すぎる。(笑)
しかし、努力も虚しく見つかってしまったようだ。
気配を消すため目を瞑り、息まで殺していたジュリアスに爽やかな声が掛けられる。
「ジュリアス様、他の皆様もこんな所で何をなさってらっしゃるんですかぁ?」
「ランディか・・・」
ペンギン一同から落胆の声が漏れる。
「ねえ、ランディ、どうして僕達だってすぐわかったの?」
「何の事だよ。」
ランディの後から来たゼフェルが目を白黒させている。
「ランディよう・・・これ、なんだよー。」 ゼフェルは光のペンギンを指さして言う。
「ゼフェル、何言ってるんだ。ジュリアス様じゃないか。失礼だぞ。」
「これが?この動物が、ジュリアスだってーのかよう?俺には、金色のペンギンにしか見えないぞ。」
「え?」
「で、真っ赤か、水色、黄緑・・・・でっ、派手な虹色ペンギン」
「ゼフェルー!何言ってるんだよ。」
「だってよー。そう見えるもんは見えんだよー。オレ夢見てんのかもな、はは。」
「ゼフェル!こっちこいよ。」
ランディは、どうフォローしていいかわからず、ゼフェルを引っ張って行こうとしている。
「ねえ、ジュリアス様、ランディには・・・」
「そうだな、マルセル。」
「ゼフェル、ランディ。」
「げっ、喋りやがった。やっぱり、俺の目がおかしいってか。」
「そうではない、実は私たちも、そなたと同様に見えるのだ。私の目にはそなたもな。」
「俺も?」
そう言われてみると、そこにいるのは、どうみても鋼色のペンギン。
スチールペンギンだ。
「ゼフェルってばペンギンロボットみたいだねー。」
「お前なー。何嬉しがってるんだよー、じゃあ、これ、みんな・・・」
「スーパーハード・・・なんてねっ。」
虹色ペンギンがスチールペンギンのツンツン頭に触る。
「オリヴィエ様?」
「そーよ!わかったら、それ以上何も言わないのよー。」
流石のオリヴィエも今の自分の姿には納得いかないらしい。(気に入ってたら怖いか。)
「あの・・」 ランディーは何の話だかわけがわからないらしかった。
「そうだ、ランディ、お前の目には俺たちが普通に見えるのか?」
「普通って・・オスカー様はいつものオスカー様ですが・・」
「じゃ、私も虹色に見えたりしない?」
「虹色?オリヴィエ様はいつも虹色・・いえっ、あのっ、そういう意味じゃ、オリヴィエ様はオリヴィエ様ですってばっ。皆さん、いったい何が言いたいんですか!」
「あのね、ランディ。僕たちは皆お互いにペンギンに見えるの。でもランディだけはランディに見えるんだよ。ランディも僕達がペンギンには見えないんだね?」
「まぁ、待て。クラヴィスの部屋にいくのが先決だ。ランディ、そなたも一緒に来るが良い。」
「はい、ジュリアス様。」
またもや数の増えたペンギン達の行軍は、クラヴィスの執務室に消えた。
「クラヴィスはどうしたのだ、おらぬではないか。」
仕方ないので一同は、それぞれに話を整理してみる事にした。
ランディには普通に見えると言う事は、物理的にペンギンになっているのではなく、
何らかの原因で、ペンギンになっている者達の五感が狂っていると言う事だろう、
という結論に至った。
試しに、サクリアを持たぬ者を呼んでみたが、やはりランディと同じで、どこも変わりはなかった。
つまり、サクリアを持つものにだけ、伝染するらしい。
ならばどうしてランディは?
この事をルヴァに知らせるべきか否か?
一同が頭を悩ませたが、結論は出そうになかった。
ランディがうわずった声を上げた。
「ジュリアス様!、クラヴィス様とルヴァ様があそこの木陰にいらっしゃいます。」
窓からランディが指さした木陰をみると、濡れたような漆黒のペンギンと頭にターバンを巻いた茶色のペンギンがいた。
炎のペンギンは走った。
続いて、光のペンギンも走った。
しかし、光のペンギンにとって階段を駆け降りるのは少々ムリだったらしい。
後に続いた者たちは、階段の下で気絶している光のペンギンを発見した。
◆ ◆ ◆
ジュリアスの私室。
「ジュリアス様、大丈夫ですか?」
「ランディか・・・」 ぼんやりと風の守護聖の顔が見える。
「ああ・・」
「ひどい、悪夢を見ていたのだ。」
「それは・・・・・・・」
「私や他の守護聖達が、生き物になって・・あれは、やはりペン・・」
「夢じゃねえぜ。」
「!!!!」
色とりどりのペンギンがジュリアスの顔を覗き込んだ。
「悪夢ではなかったのか・・」
ジュリアスの気持ちは皆よくわかった。
もうこうなったら、やけくそだ! 続きも読む。
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