※ちめの妄想の中です。自らの意志に反して迷い込んだ方は、速やかにお戻り下さい。
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ちめの考える事だからな、知れておるわ。 『ペンギンのクラヴィス』

<2>
そなた!まだ迷っておるのか。


ジュリアスは、きっともう一度気絶したかった事だろう。
が、一瞬苦悩の色を見せただけで、すぐに毅然とした顔立ちに戻る。
姿はペンギンでも、やはり筆頭守護聖たらんとする精神に、変わりはないようだ。

「クラヴィスに話を聞きたいのだが?」

開いた扉の向こう、光の守護聖の執務室にクラヴィスの姿を認め、立ち上がる。

「ジュリアス様、もう大丈夫ですか?」

「大事ない、ランディ。」

「クラヴィス。」

「階段から落ちるなど、らしくないぞ。ジュリアス。」

ペンギンのクラヴィスは幾分、嬉しそうに見える。
怠惰な日常から一転したこの事態を面白がっているのか、ジュリアスの動揺を察しているのか。
ジュリアスは相手にしなかった。ペンギン同志じゃれている場合ではないのだ。(私、じゃれて欲しい・・・)

「そなた、何か思い当たる事はないのか。」

「ないな・・・」

「では、調査の糸口もないではないか。」

「あのー、ジュリアスさま、一度僕たちの身体を検査をしてみてはどうでしょうか。」

「そうだな、マルセル。検査の必要はあるだろう。」

「差し出がましい事・・・かもしれませんが・・・やはり女王陛下にご報告した方がよろしいのでは。」

「うむ。いや・・・」

ジュリアスは何かひっかかる事が有るらしく言葉を濁した。
その様子を見てクラヴィスが口を挟む。

「フッ・・・リュミエール。女王もサクリアを持つ・・・」

「!!」 一同は、ジュリアスの懸念を察した。

「では、補佐官を通じて・・・」

「私は、クラヴィスの部屋の前を通っただけでこうなっちゃったのよう。直接会わなくてもうつるのかも〜。」

「じゃーよー、女王も、もうペンギンになってんじゃねーかー?」

真っ赤な物体がゼフェルの前に立ちはだかった。

「恐ろしい事を言うな。」

「だな・・・。」スチールペンギンは肩をすくめる。(想像できる?)

 

「クラヴィス様・・・、そういえば少し以前に、惑星の調査に出向かれたのではありませんか?」

「ああ。だが、何もなかった・・」

「リュミエール、それについては報告を受けているが、不審な点はないようであったぞ。」

辺境の惑星で、サクリアに似たエネルギーが感じられたという女王の言葉により、クラヴィスが調査に赴いたのだが、それは間違いであった。というより、研究員の調べでも別段留意するような出来事はなく、クラヴィスにもまた、何も感じられなかったのだ。

「確か、クラヴィス様と一緒に研究員も同行しておりましたね。その者達にも何か異常が起きていないか確認してみてはどうでしょうか。」

「わかった、リュミエール。他に手掛かりがないのだ、確かめてみるべきであろうな。」

「ジュリアス様、俺、聞いてきます。」 ランディは走って行きかけた。

「ランディ、すまぬが、頼む。」

「俺も、一緒に行こう。ここにじっとしているのは性に合わん。」

「オスカー。」

「他人の目からは、普通に見えるようですから、構わんでしょう。補佐官どのにお会いせぬよう気をつけて行きますよ。」

「では、ランディ・・・・・オスカー、頼むぞ。」

ジュリアスは、ついランディに、”オスカーを頼む”と言いそうになった。

どうしても、ひとりはペンギンにしか見えないのだから。

ふたり、(いや、1人と1匹)は、研究院に行く為に部屋を出ていった。

 

お嬢ちゃん、帰るのか?ちょっと淋しいな。

 

ランディがいなくなると、部屋に残っているのはペンギンばかりだ。
かなり、異様な光景である。(ランディがいたからといって、尋常だった訳でもないけどね。)

「しかしよう、なんでランディ野郎だけペンギンにならねえんだろーなー。」

「そうだね。ランディには僕たちが守護聖に見えるんだよね。」

「ちくしょー、やっぱり、オレたちの目がおかしいって事かよー。」

「でも、触ってもペン・・・」

マルセルはジュリアスをなでなでした事を思い出したらしく、もごもごした。

「そうなんだよなー、不思議だぜー、ほらっ、ほらっ、ほらっ、なっ。」

ゼフェルは隣のペンギンを撫で廻しながら言う。

「ちょっとー、ゼフェル、ベタベタ触んないでよ。気持ち悪いじゃないのー。」

「あー、ゼフェル・・・すみませんねぇ、オリヴィエ。」

「ルヴァが謝らなくてもいいのよっ。」

「そうそう、いつも言ってんだろーよ。」

「あんたは、おだまり、ゼフェル。」

「しかし、どうしたもんでしょーかねえ。やはり、解決するまで職務はお休みした方が良いでしょうかねー。」

「サクリアが衰えているわけでもない。我々以外のものには普通に見えるのならば、職務の遂行が不可能というわけではない。多少不便ではあるが・・・・・」

ジュリアスの言う不便とは、自分達の五感がペンギンのそれになっている(どんなんだろ?)ので、普通に出来ている事でも自分にはそう感じ取れないという不便の事だ。しかし、女王への感染の恐れがある以上、おいそれと出歩くわけにも行かないだろうし。

「わたし、こんな恰好じゃ、何にもする気になんないわよ。」

「オレもー。職務がどうのこうの言う前に、治す方法考えた方がいいんじゃねーかー。」

「治らなかったらどうするのだ・・・」

「クラヴィスー! やめてよ、そういうの。」

今日のクラヴィスは、よく口を挟む。ペンギンになっているせいか?
(いえ、作者の好みでしょう)

 

「まあ、ハーブティーでもいかがですか?」

水色ペンギンが、お茶を運んで来た。

「あ、わたしもお手伝いしましょうねぇ。」

「ええ、お願いします。ルヴァ様。」

ルヴァはまだペンギンの感覚になれていないらしく、手元が覚束ない。
それに比べてリュミエールは巧みにお茶を淹れる。しかも優雅だ。

「これを飲むと気持ちが落ちつきますよ。」

ペンギンは物持てないだろう・・・しかし、本当はペンギンではないのだから・・・
皆、頭の中では理解しているつもりだが、目の前でお茶を淹れているのはペンギンでしかないわけだから、何かしら葛藤があるようだった。
どう見ても、ティーカップがペンギンの手(って言っていいのかな?羽根?)に、吸い付いているようにしか見えないのだから。(まるで、ドラ〇モン。)

ジュリアスの執務室でカラフルなペンギンが達がお茶を飲んでいる。(ほらっ想像してっ!)
もし、聖地の誰かがこれを見る事が出来たなら、後々まで語り継がれた事だろうね。きっと。

 

お気をつけてお帰りくださいね。

 

ランディを待つ間、一同は身体の検査を受けていた。
診察中は、皆そわそわしていた。
他人には、普通にしか見えないと分かっていても、やはり・・・だ。
結果、判った事は、皆一様に微熱があり、まだ熱が上がるかもしれないと言う事。しかし、原因がまだわらないのでとにかく安静にして、暫く様子を見るようにと言われた。
この原因不明の発熱を、口外せぬようにと指示していたジュリアスを見て、マルセルはとても感心した。
こんなところに集まって皆が熱を出していれば誰だって不審に思うのは当然だものね。

一度、ジュリアスの執務室では幾分手狭のようなので、別の広間に移ろうかという話も出たが、何かしら分かるまでは、悪戯に出歩くのは避けた方がよいだろうと言う事で、動かずにそこにいる事にした。

「ジュリアス様!」

研究院に行っていたランディが戻ってきた。
走ってきたのだろう、酷く息をいらせていたのを見兼ねて、リュミエールがお茶を勧める。

「あ、すみません。リュミエール様。」

ランディには普通に見えるのだから、自然に振る舞って正解なのだが、どうも見ているものにはそれが可笑しく見える。自分達も同じ姿なのだが・・・。

「くすっ。おかえり、ランディ。オスカー様はどうしたの?」

「オスカー様は・・」

ランディはマルセルに向かって返事をしかけたが、ふと思い直して、ジュリアスの方に向いて言った。

「オスカー様は、もう少し調べる事があると仰って。」

「そうか・・ひと・・」

ジュリアスは一人にして大丈夫か。と言いそうになったのだが、巧みに誤魔化した。
そう、見えないランディには、きっとその気持ちは分からないだろうから。

「ひとりで先に帰って来たと言う事は、何か判ったのだな。」

「はい、ジュリアス様。」

「では、報告してくれ。」

ランディは、カップを置くと、話し始めた。

「この事と関係があるかどうかはわかりませんが・・・クラヴィス様の惑星調査に同行した2名なんですが、1人は2日後に、もう1人は3日後に軽い発熱をしたと言っています。2名とも単なる疲労くらいに思っていたらしく、惑星調査とは結びつけて考えてはいなかったようで、報告はされていませんでした。2名がお互いの発熱を知って驚いていたくらいで・・・・」

「発熱・・・ですか。ランディ、実は私たちも、みな熱があるようなんですよ。」

「ルヴァ様・・」

「でもね。あまり熱があるという自覚がないんですけどねー。ねえ、ジュリアス?」

「ああ、正直なところ私も自覚がない。」

「オレも。」

「あ、僕も。」

「わたくしもです。」

皆口々に熱があるとは思えないと言った。

「で、その2名は、現在は?」

「はい、熱も大した事はなく半日から一日で引き、現在は2名とも身体に何の異常も認められないそうです。」

「あー、その発熱の他には何か症状はなかったんですかねー。」

「はい、身体が多少むくんだような気がする、と言っておりました。」

「それが、何か関係があるにしても、クラヴィスだけ、日が経ち過ぎてますねー。」

「ルヴァ、その惑星の病について何か文献がないか調べられるか?」

「ええ、調べてみましょう。なるべく急いでね。」

「おっさん、転げんなよ。」

ジュリアスの顔色が少しこわばった。

それを見て口元が緩めたのは、あなたと?(^^;)

 

あー、やっぱりー、帰った方がいいですよねぇ。

 

ルヴァが出て行った後は、やはりランディの話になった。

「ねーねー、ランディ、まだ僕たち、ペンギンに見えたりしない?」

「見えないよっ」

「どうして、ランディだけ、うつらないんだろうねー。」

「知らないよっ」

「バカは風邪ひかねーっていうからな。」

「なっ、ゼフェルー!! どういう意味だ。」

「ズバリ、そういう意味だよ。」

「ゼフェルー、それは酷いよう。ねえ、ランディ。」

「風は・・・見えぬからな・・・」

「クラヴィス?」

「あっ、そっかー、それぞれサクリアを思わせる色のペンギンになってるんだー。」

「わたしは納得いかないよっ!」

「きっと、それがお前さんの正体なのさっ。」

「オ〜ス〜カ〜!!」

皆、多少ハイになっているような感じもする。やはり自覚はないが熱のせいか。
騒ぎになるかと思われたが、その前にジュリアスの口が開いた。

「オスカー、ご苦労だった。」

「はい、ジュリアス様。クラヴィス様が調査に赴かれた惑星について、もう詳しく調べてさせております。」

「そうか・・・ルヴァも文献を探してくれている。」

 

ジュリアスとオスカーが真面目な話をしている間も、年少組たちはあ〜だ、こ〜だと煩くやっていた。

「じゃ、ランディも感染しているけど、そう見えないだけなのかなぁ・・・」

「え?・・・オレ?」

「でもオレは、なんともないんだしさ。」

「ちぇ、むかつくぜー。」

「風の・・・」

「クラヴィス様?!」

リュミエールの驚く声に皆が目をやる。
注目を浴びた漆黒のペンギンは、白檀の扇で顔をあおいでいる。暑いのか?
光のペンギンの眉間に微かなシワが。

「風の・・・サクリアが感染を防いでいるかもしれんな・・」

「そういう事が・・・あるのでしょうか?」

「わからぬぞ・・・」

「ランディだけずるいや。」

「そういう問題じゃないの。」

「悩んだら、ぐっすり眠るに限る・・案外、明日の朝になったら治っておるかもしれんぞ。」

(そんな呑気な(^^;) 歌の文句じゃないんだから・・・)

どうも、今日のクラヴィス様はお茶目さん。これも熱のせいか。それとも作者の陰謀か。(笑)


「自室に戻ってよいか。ここは、落ち着かぬ」

クラヴィスがジュリアスの執務室に長居する事自体が珍しい事であったし、そりゃあ確かに落ち着かないだろうね。

「クラヴィス。騒々しいのが苦手なら、奥の部屋に居てもよいが。」

「お前の私室か。余計に落ち着かぬ」

ん・・? もっと近くで見たいだと・・暑苦しい事を言うな・・


「・・・とにかく、もう少し待て。」

「私は、疲れた。」 
クラヴィス様はそういうとサークレットを外した。

「クラヴィス!」

サークレットを外すと、皆の目には本当にただのペンギンのようにしか見えない。

が、ランディにだけは、憂いを含んだクラヴィスの横顔が妙に艶かしく見えて、ドキっとした。

 

 


 

ルヴァは、程なく戻り、調べて来た事を報告した。

 その惑星には、感染性のある病気が時折流行するらしい。
症状は、一般的に発熱と手足のむくみ、身体に軽い発疹が出る。
だが、感染力はそう強くはないし、一度かかった者は二度かかる事はないという。
要するに、一気に多数に広がるような病ではないという事だ。 
しかも、クラヴィスが調査に出向いた時に、特に流行していたというわけではなかった。

勿論、そのような事が事前にわかっていれば、調査日程を改めていただろうが。
しかし、後でよくよく調べてみると、(既にオスカーが調査命令を出していたのだが)クラヴィス達が帰った後に、ごく限られた地域で流行していた事が判明したのだった。
それは、まさしく調査隊が立ち寄った地域であった。
断定する事は出来なかったが、おそらく病気の潜伏期間中に感染して帰った可能性が大きい。
しかし、研究員にも発疹は出ていない。
守護聖に至っては・・・・・・・あはは・・・である。

「治療法は?」

「それが・・・ないのですよ、というよりですね。症状も軽く、放っておいてもすぐに治ってしまうので、ヘタな治療をするよりは、1日寝ていた方が早く治るんだそうですよ。あの惑星の人々は。」

要するに、命に関わるような深刻な病気ではないので、あまり注意を払われていないらしい。
その惑星の風土病のようなものなので、他星のものにはどういう症状が出るかも不明だった。
研究員は一日の発熱で何事もなく治っている。
もし、その病気であれば、守護聖たちも程なく治る筈なのだが・・・
しかし、研究員が2〜3日で発病しているにもかかわらず、クラヴィスの発病は遅い。
その上、他の守護聖達は会った途端に感染している。

感染力は低いのではなかったのか?
守護聖には潜伏期間がないのか?
他の守護聖もクラヴィスと同時期に感染していたのか?
それとも、全く関係がないのだろうか?

疑問は尽きなかった。

「そう言えば・・・あの者、今朝、執務室に来たかもしれん。」

「!!」

「なぜ、早く言わぬ。」

「書類を持って来たが・・・だからといって、すぐコレにつながるか?」

「くっ」

「直接は会っておらぬ・・・・奥で水晶球を見ていたのでな・・・書類は置いておけと・・・。」

「では、クラヴィス様はその時に感染されたのでは・・・・」

「あの、もしかするとですねー、惑星では守護聖は感染し得なかったけれども、研究員が聖地に戻ってから発病し・・・・、聖地は外宇宙とは違います。それが病に何らかの変化を起こし、守護聖に感染したとは考えられませんかねー。」

「新種の病気になってしまったというのか!? 結局、治療法は、わからんのだな。」

光のペンギンの瞳が翳る。

「ジュリアスさまぁ、じゃ、僕たち治るかどうかもわからないって事ですか?」

「冗談だろー。」

「勘弁してよー。」

「さわぐな!」 オスカーが怒る。

「おおこわ。火でも吹きそう・・・・。」

(ファイヤー! とかいって?)

 

お嬢ちゃん、オレが送っていこうか?

 

「ともかく、なにかの病にかかっている事は確実だとしてだな。どうもサクリアとの相互関係によって我々の五感が狂っているようだ。」

「打つ手がない以上、暫くこのまま様子をるしかありませんねー。」

「面白くないけど、仕方ないねぇ。もしかしたら、放っておいても治るかもしれないしっ。希望を持って生きなきゃねー。」

「2〜3日は我慢するしかなさそうだな。王立研究院で治療法を研究するにしても、すぐというわけにはいかぬだろう。幸い、他の者には何の変わりもなく見えるのだ、普通に過ごして出来ぬものではないが・・・」

ジュリアスの懸念を皆よくわかっている。

コンコン。誰かがノックをする。

「ジュリアス、大事な話があるのですが・・・・」

「補佐官どの?!」

よりによってこんな時に補佐官が来るなど、皆息を呑む。
まさか、この事は女王の耳に入ったのか?

「お待ち下さい。どうかそのままお聞き頂きたい。結論から言うと私は流行り病にかかっているようなので、今お会いするのは避けた方がよろしいかと・・」

「しかし、急用なのです。クラヴィスもどこにもいないのです。」

「クラヴィスも他の守護聖も皆ここにおります。」

「そこに?」

補佐官はジュリアスの正視も聞かずに、部屋に入って来てしまった。勿論彼女の目にもみな守護聖にしか見えなかった。

ジュリアスとクラヴィスは、彼女の尋常でない様子に仕方なく、彼女の部屋を訪れる事にした。
彼女がどうしても二人だけと話したいというので。

「実は、陛下が、お悩みになっていらっしゃるので、お二人にご相談を。」

「陛下が?」

「いえ、とても突拍子のない事なので、驚きにならないでくださいね。」

ジュリアスは、今はそれしか思いあたらなかったが、極力考えたくなかった。

「陛下がそのう、いえ、わたくしにはいつもと変わらないのです・・・ですが、陛下が、ご自分が動物になってしまったと! わたくし、いつものアンジェ・・・陛下のご冗談かとも思ったのですけれど、そうでも」

「ペンギン・・にか。」

「クラヴィス、どうしてそれを?」

ジュリアスは出来るだけ平静を装っていたが、心中は穏やかではなかった。

見えない補佐官に説明しても始まらぬ。
女王に会うのは少し怖かったが、 ――― というより、ペンギンになった陛下など見たくなかったし、また、今の自分の姿も見せたくはない。 というのが本音かもしれない ――――

ふたりは覚悟を決めた。
少なくとも、陛下が一人で悩む事はなくなるからだ。

◆   ◆   ◆

二人は息をのんだ。

女王のサクリアとは・・・・・・・・。

形こそは確かにペンギンのようであったが、その後ろには、ぼうっと白く光る大きな羽根が浮かび上がっている。その羽根は端に行く程に透けていて、幻のようだ。
身体はクリスタルのよう、という表現が一番近いだろうか、透明で、それでいて黄金ともピンクとも思える不思議な色。とても実体とは思えない。

宇宙を統べる女王のサクリアがあたたかく優しく、いつもよりも強い程に感じられる。

「おお・・・!」


◆   ◆   ◆

 

二人は女王に事態を説明し、相談した結果。

やはり、他の者には知らせず、このまま2〜3日様子を見る事にした。
結局それしか手立てがなかったからだったが、クラヴィスが女王に何か耳打ちしていた事を、
少し先に下がったジュリアスは知らなかった。
クラヴィスは女王に、こう言ったらしい。

「大丈夫だ。どうせ、あやつの考える事だ。」

.......あやつって・・?わ、私のこと?!(うろたえるちめ) ああ、クラヴィス様、あなたは何でもお見通しねー。

◆   ◆   ◆

 

暫く聖地で働く者の間では、守護聖様たちの様子がどうもおかしいと、ひそひそ囁かれていた。
皆いつもとかわりなく、平然としている様につとめていたが、何かそわそわしているし、ミスも多かったのだ。
それに、オリヴィエがめっきり姿を見せなくなったり、クラヴィスが頻繁にジュリアスの執務室を訪れたりしているのも珍しかった。

いくら、違うと分かっていても、やはり自分にはペンギンとしか見えないし、感覚もそうなのだから、つい変な事を口走ってしまったり、不器用な事をしてしまう。あのジュリアスでさえ。

それに、すでに4日を過ぎているのだ。
このまま元に戻らないのではないかという不安を、多いかれ少なかれ皆抱いていた。
勿論、ジュリアスは王立研究院と医師に治療の糸口の発見を急がせていたが、あまり芳しくなかった。
治療法というものが、そう一朝一夕に出来るものではない事は承知の上でも、焦らずにはいられない。

クラヴィスは、執務室の中をウロウロしている光のペンギンを見つけては、

「そう、イライラするな。」

と声をかけていた。光のペンギンは少しやつれたように見えた。

 

  まだ間に合う。今からでも帰った方がよいそ。      よかったですねー。

 

7日目の朝。

リュミエールの寝室。
「わたくし・・・・? はっ、クラヴィス様は?」

オリヴィエの化粧室。
「やったわー。美しいオリヴィエさまの復活よう!」

書庫。
「あら、またここで眠ってしまったようですねー。れれれ?」

聖殿前の広場。
「ゼフェルー、僕治ったん・・・・あ、ゼフェルも治ったんだねー。」

ひょっこり皆元に戻っていた。女王もしかり。

結局いつまでたっても発病しなかったランディの事や、謎はいろいろとあったが、皆「治ったんだから、まあいいか」と聖地は元の静かさを取り戻した。相変わらずゼフェルとランディの喧嘩は絶えないが。

 

 

ジュリアスの執務室。

―――― サクリアが、病から身を護る為に五感を狂わせたと言う事か?

しかし、サクリアがそんな事をするとは・・・・。しかも陛下までとは・・・・恐ろしい事だ。

これからは、惑星調査に赴くのも、細心の注意が必要だ・・・・。

王立研究院にも引き続き、病とサクリアの変化について研究させねばな。

しかし、サクリアの正体についても我々守護聖とてよくわからないものだ。

難しいだろうか ――――。

 

皆、元に戻って笑い話となった後も、ジュリアスのみが真剣に悩んでいた。

あのペンギンの姿での7日間は、ジュリアスの神経に思いのほか負担を負わせていたようだった。

「ジュリアス・・・・・」

「いっ、いつのまに入ってきたのだ、クラヴィス。」

「ノックはしたが・・・聞こえなかったのか?」

いつもジュリアスの部屋を訪れていたので、日課にでもなっているのだろか。

「何の用だ。」

あの事態にも全然動じていなかったとういか、むしろ楽しんでいたような感のあったクラヴィスは、ジュリアスの頭を見ながら、微笑んで言った。

「余り、悩みすぎると・・・・禿げるぞ。」

ジュリアスはドキッとして、後頭部を押さえた。

 


END


「ああ、読むんじゃなかった」と、思ってませんか?(^^;)

でも、取り敢えず、こんなの読んでくれて、ありがとう・・・

このお話は、以前のカルトクイズを作っていた時、ふと「ペンギンのクラヴィス」を想像してしまって、
お遊びで書いてみたものなんですが、結局クイズのアップに間に合わず中断していました。
誰からも反応がないので、「みんな気がついてないんだな。しめしめ。」と
そのまま、ず〜っとほったらしておりました。(^^;)
ところが、「続きが読みたい」と仰っる方が出現!
慌てて続きを書いてみましたが・・・・、
期待を裏切ったりしたのではないでしょうか?
でも、お言葉がなければ、きっとこのお話は完結していなかっと思います。
続きを書くきっかけをくださった、みき様、
そして、私のワガママを聞いて、かわいいペンギンを描いてくださった夕星さまに
心からの「ありがとう!」を言わせて頂きます。

【00/01/20移設】
クイズのリニューアルに伴い旧クイズと共に削除しようかとも思いましたが、
夕星様のペンギンのイラストが愛らしいので、
クラヴィスページに引っ越してきました。

クラヴィスページに戻る。


ちめのお部屋 守護聖様アイコンを、ご厚意で、お借りしています。