約 束


最近わたしとほとんど背の高さが変わらなくなった娘が
昔の約束を思い出して
「ねえ、もう着れるよ」
と催促する

小さい時から花嫁さんに憧れている娘は
いつかわたしのウエディングドレスを着る日を
ずっと楽しみにしているのだった
だから
「おかあさんと背が同じになったら着せてあげる」
という約束は
ずっとしっかり覚えていた

大人は結構その場逃れ的な発言をするものだが
子どもは本気にして待っている
先日も
「ウエスト細くなったかなぁ?」
と気にしているのでどうしたのかと思ったら
「だってウエスト細くないとドレス着れないよって言ったじゃない」
あ、そうそうそんなこと言ったな、、、

実はいつ頃からか
娘のカレンダーの隅っこに
『毎日のトレーニング:腹筋60回』
と書いてあるのをわたしは見つけていた
こういうことは真面目に続ける方なので
最近はその効果も目に見えるくらいになっているが
そうして頑張っているのは
いつかウエディングドレスを着るためなのだそうだ

そこまで楽しみにしているのに
面倒だなあ〜と言ってもいられない
タンスからごそごそと20年前のドレスを取り出し
さっそく娘に着せてみる
夫がカメラを構えて
撮影会が始まった



幾度もシャッターを押す間
ずっと緊張した面持ちの娘
わたしと違って肩幅が広いので
肩の周りが少々窮屈なのを気にしている
「これ直せる?」
あらまあ、本気で自分の結婚式にはこれを着るつもりなのかしら(笑)

お嫁さんになって
子どもを産んで育てることが
幼い時から今もずっと続いている娘の夢
この夢ずっとこれからも持ち続けて欲しいと思う

平凡な幸せっていいものだ
特別に偉くなる必要もないし
気負って生きることもない

わたしが若い頃
”飛んでる女”という言葉が流行った
男に負けずバリバリ仕事をして
結婚など考えずに自分で自由に生きる
社会のあちこちで活躍する女性の姿は頼もしく
一方で
結婚して家庭に入る地味な生活はつまらなく見えた

”性格の不一致”で離婚するケースは激増し
失敗を恐れて結婚を躊躇する女性も増えた
確かに
結婚すると良い事ばかりじゃない
欠点を並べてみるとものすごく損な気もする
でも
楽しい結婚生活のためには
何らかの努力の積み重ねも必要だ

「なんのかんの言っても
結局みんな自分に一番似合いの相手と結婚しているもんだ」
と夫は言う
相手をつまらない人と思うなら
自分も同じようにつまらない人間
だからちょうどよく夫婦になったのだろう

離婚して十数年も経った人が
「今になって考えたら離婚する必要はなかったのかもしれない」
というケースが時々ある
じゃあその人は取り返しのつかない失敗をしたのかと言えば
そうではなくて
回り道しながら大切なことに気がついたのなら
それもまた幸せ

ただ自分の考える理想の結婚生活を追い求め
それがままならないことにいらいらし
変わらない相手に常に腹をたてている人は
いつまでたっても不幸せ

これを書いているところへ
息子がふざけてベールをかぶってやってきた
娘が生まれたばかりの頃
お祝いで頂いたスカートを
すぐに自分ではいてみていたのを思い出す(笑)

年末になり
子どもが孫が帰省するという話をあちこちで聞くと
よく考えてみれば
こうして子どもの成長を見ながら過ごす時期というのは
そんなに長くはないのだなあと思うと
ちょっと寂しい気がする

娘は家から近いところにお嫁に行くのだという
そして教会へ来てお手伝いをしたり
ピアノを弾いたりするのだそうだ
テレビを見ては
「ギャンブルにのめり込んだり酒癖が悪かったり
暴力をふるうような人だったらいやだから
お婿さんはお父さんに見てもらって決める」
というのだが
それだといつまでもOKが出ないかも(笑)

こうして
今は将来を色々夢に描いては楽しんでいるが
さて
娘はこの約束をいつまで覚えているだろうか
もし忘れていたら
その時はわたしが「ねえ、覚えてる?」と
催促してみようかな〜^^




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