自分の砦


小6の女子が同級生を殺害した事件から
世間にはまた色んな波紋が広がっている
いつもの事ながら
とりあえずどこかに原因を押し付けようと
インターネットが悪いとか
小説が悪いとか言われていて
それを聞いた娘は
「これでインターネット禁止なんていわれたらいやだなあ」と
うんざりした顔をした
大人は何でもかんでも子どもから取りあげて
それで事件を防ごうとしているが
事はそんな単純なものではない

わたしはこれまで娘の話を聞きながら
今の子ども達(特に女子)が
決して安らかな気持ちで学校生活を送っているわけではないことを知っている
ほんの3年前の息子の時にはそんな話は聞かなかった・・・と
わたしはいちいち比べながら驚いたり嘆いたり、、、
それでも娘はその中で自分なりに『砦』を守っている

今回の事件の発端となった
容姿に関する中傷など日常茶飯事だ
噂話や悪口、ばかばかしい話・・・
そんなこと聞きたくないと思っても
あからさまに拒絶すると
いい子ぶっていると思われて孤立する
適当に聞き流し
ふら〜っといつの間にかその場を抜けるのは
結構神経を使うらしい

子どもの中にも
いつも人を中傷することで自分を慰めなくてはならないような
心の闇を抱えている子がいる
今の自分が面白くないから
八つ当たりしてごまかしているわけだ
そして
寂しいので常に仲間を求めている
だが
中傷によって結びついた仲間は
中傷によって再び別れる

6年生になってから
「少年ジャンプ」を読むようになった娘は
それが縁で男子と遊ぶようになった
ただ走り回って元気に遊ぶ男子との付き合いは気楽でいい
そこにはややこしい心の探りあいもなければ
ちょっとしたミスも
「気にすんなよ〜」で許された
こうして自分が本当に楽しめる場所を見つけた娘だったが
一方では”男扱い”され
「男子トイレにでもいけば?」と嫌味も言われるようになった

毎日何となくいらいらしているように見える娘にわたしは言った
「”男”と呼ばれるのが嫌ならば
スカートをはいて女の子らしくしていればいいでしょう
もしズボンをはいて男の子のような遊びをしたいなら
男と呼ばれてもいいと開き直るべき
どちらをとるのか
自分のスタイルは自分で決めなさい」
こうして娘はあっさり男扱いされる道を選び
それ以降いらいらした様子はなくなった
これでスカートをはくようになるかも・・と期待したわたしには
ちょっと期待はずれの結果ではあったが(苦笑)

このたび事件を起こした子どもと同じく
娘も詩を書くことが好きだ
自作の詩を投稿できるサイトにもよく行っていて
その中で起こるさまざまなできごとについて教えてくれた

詩を書くことで
ストレスを発散したり
自分の心のうちを整理したり
あるいは夢を見たりと
前向きに生きていくためのきっかけをつかむことができる
良い感じの詩に出会うと
楽しい気分になるし
サイトでは共感する投稿者同士友達にもなる

だが
同じ詩を書く人にも
暗い詩を好んで書く人がいる
心の闇を詩に表し
更に自分を暗闇に招く
そして
他の人も闇へと誘う

ある時いつも行っている『詩の掲示板』の管理人が代わり
『死の掲示板』と名前も変わって
内容も死についての詩を募集するようになっていた
娘はそれ以来そこへ行くのをやめた

他の詩の掲示板では
不治の病にかかって限りある命だという人の投稿があり
はじめのうちはみんな同情と励ましの書き込みもしていたが
そのうちどうも様子がおかしいと気づいて
誰もその人と話さなくなった
するとその人は掲示板にこなくなった
どうやら不治の病を装って
人の同情を集めたかったのではないかと娘は推測している

事件を起こした子どもとうちの娘は
年も近いし同じような悩みも抱えている
色んな面で共通点も多いから
娘だって自分というものをしっかりもっていなくては
いつ何をするようになるかはわからない

ただ
今回色んな話を娘から聞きながら
事件を起した子と娘の違う点は
前者は悩みから”闇”に向かい
後者は同じ状況から”光”を求めているというところだろう

小学校の高学年になってからちょっとぽっちゃりしてきた娘は
6年生の時にそれをしつこく指摘され
ある時から腹筋運動と腕立て伏せをはじめる
お菓子を買って食べる事もやめ
これが功をそうして結構スマートになった
おかげで3月のオペラの時には
ウエストの細いドレスも着れたし
嫌な思いをしたことも
結果的にはいいことにつながった

強い子も弱い子も
今みんなそれぞれ悩みの中に居る
まだ大人と呼べる年齢でない子ども達は
自分が変わることよりも
周りが自分に合わせてくれることを望んでいる
家庭で大切にされてきた子どもにとって
そうであることはごく当たり前の事だから

それがかなわぬ事だと知った時
ある人はいつまでも依存しようとし
ある人は自分を不幸だと思って闇に引きこもり
ある人は前向きに自分の道を模索し始める

中学校に入ってから
バスケットボール部に入部した娘は
朝早く7時前には練習のために家を出て
帰るのも6時半から遅い時には7時ごろになる
時間的にもかなりきついのにもっていって
運動部特有の”先輩への服従のおきて”などもあり
これも問題が多い

それでも覚悟の上で自分が決めた道
色々やってみながら
結局は先輩に必要以上に媚びへつらうのもいやなので
「別に可愛がられなくてもいいよ」と
自分なりのあっさりした対応をしているようだ
そうそう
ちゃんとやることやってれば
あとは自分の思うようにして
それで人にどう思われようがかまわないという姿勢で潔く行けば
いずれはそれが自分のカラーとなる
こうして自分の砦を築きながら
わたしも今までやってきたし
これからもそうしていくだろう

悩みながらも色々頑張っている娘に
このたび嬉しい出来事があった
歌を習い始めた時から「いつかは」と夢見ていた
結婚式での先導者を
今月末に行われる式で務めることとなったのだ

バージンロードを一緒に歩く花嫁とその父
その少し前に位置して
伴奏なしの独唱でゆっくり歩きながら前に導くこの役目は
非常に重要で目立つ
当事者にとっては一生の記念となる大事な式だが
娘がデビューすることを快く承諾してくださったのだった
それでも
子どもだから失敗してもいいよというわけにはいかない
「どうする?」と娘に聞くと
即座に「やりたい!」と言う
よし、これで決まり

また新しいチャンスに恵まれた娘は
嬉々として今練習に励んでいる




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