「To Dreamers」



◆ 4 ◆


僕は、夢うつつだった。
まわりは、心地よく賑やかだった。

「あれ、そこで寝てる彼、新人さん?」
「いえ、違うんですよ。正面玄関の所で倒れてたんで、救急車呼ぼうって騒いでたら・・・」
「そうそう、ちょうど東大さんが、帰るところで。」
「気絶してるだけみたいだから、暫く寝かせとけって。で、ここに。」
「へえ〜」
「なかなか起きないわねぇ。」

「ねえ、ねえ、それにしても東大さん。東大の医学部出て、どうして声優なの?」
「そりゃ〜、お前・・・目覚めちゃったんでしょ。くっく。」
「私、もったいないと思うわ〜。」
「おー、医者の方が絶対、儲かるぜ。」
「ま、人それぞれ色々あるんじゃね〜の?」
「だよな〜。でも、俺なんもないっすよ。」
「あはははは・・」
「ちげーねーや。」
「じゃ、仕事、仕事と・・・・」。
「おい、あいつ目が覚めたみたいだぜ。」

僕は、ぼーっとした頭で、ここは何処だろうと考えながら、まわりを見回していた。

「大丈夫か?」
「は・・い・・」
「なんで、あんな所に倒れてたの?」
「あんなところ・・? それがよくわからなくて・・」
「正面玄関に倒れてたから、ここまで運んだのよ。え〜っと、3人がかりで。みんな、ひ弱なの。」

女の子は、くすっと笑った。
ここは、どこだろう・・なんとなく、空気が違うような気がする。確か、田中のカメラが光って・・・
あー、わからないっ!

「すみません。ご迷惑をおかけしたみたいで・・」
「も少し、休んでいっていいよ。」
「俺たち、仕事あるからさ。じゃ。」

「さ、兼人さん。」
「はい。」

僕が返事をすると、部屋を出ていこうとしていた皆が、驚いたようにこっちを振り返った。

「君、カネトって言うの?」
「はい、そうですけど。」

「名字? 名前? 字は?」

「名前・・で、兼人って書きます。」

「お〜!」

一同が、一様に声を出した。


◇    ◇    ◇


あの時、僕は一同の反応が何なのかわからなかった。後で、そこが声優さん達の録音スタジオで、そこにいた人達の中に塩沢兼人さんも居たってわかると、皆の反応の意味がわかったんだ。

スタジオを出る前から僕は、自分のいた世界と違うと気づいてはいたものの、建物の外に一歩出て、更に困惑してしまった。自分がこれから何処に行けばいいのかわからない。何をすればいいのかわからない。気がつくと部屋に引き返していたっけ。

「帰る所が、わからない。」という僕に、みんな最初は訝しんでいたが、僕もバカではないので、ヘタな事は言わず「わからない。思い出せない。」で通し続けたので、とりあえず、こいつは記憶喪失ではないかという結論に至ったらしい。
誰かが警察を呼んでいた。
名前を聞かれたが、僕は「兼人」としか答えようがなかった。
僕には、姓がない。僕の時代では、公には認識No.を使い、親しい間柄では、名前で事足りるからだ。
僕の身元は警察でも、病院でも確認出来る筈がなかった。
結局、二週間の入院の後、僕が彼の大ファンだと鼻息荒く訴えたからかどうかわからないが、塩沢さんが身元引受人になってくれて、僕は、僕が倒れていたこのスタジオでアルバイトをさせて貰う事になった。しかも、住み込みで。社員寮じゃないけど、それに近い状態になっているアパートに、丁度、空きがあったのはとてもラッキーだった。

しかし、それにしても、身元不明の人間にここまで親切にしてくれるなんて、僕の時代では考えられない事だよ。20世紀の人は皆そうなのかな。それとも塩沢さんが特別なのかな。
「兼人」っていう名前も少しは、効果あったのかな?


ふと、本当の僕は、昏睡状態か植物人間になっていて、ず〜っとホスピスのベットで長い長い夢を見ていたりするのかもしれないと思う事がある。それでもいいや。ここの空気は僕を妙に落ちつかせてくれる。
夢なら覚めない方がいい。
どうせ、僕は小さい頃に両親を亡くして身寄りもないし・・・両親とも何かの事故死だったらしいが、僕は生活には困らなかった。僕の両親の財産を政府が管理しているのか、政府から孤児の僕に生活費が出ているのか定かではないが、関心をもった事がないのでわからない。今思えば、ちょっと妙な気も・・・。
そういえば、ここに来る前に、あの制服達、遺伝子法とかクローンがどうとか、言ってたような・・・
ま、いいか。考えても理解らないことは、忘れよう。
今、僕は20世紀にいて、しかも生きてる「塩沢兼人」に手が届く場所にいるんだもの!

僕は、しばらくして、スタジオのアルバイトを続けながら、声優の学校に通わせて貰える事になった。




◆3◆        ◆5◆