「To Dreamers」



◆ 5 ◆


僕は、こっちに来て不思議に思った事がひとつある。塩沢さんの事だ。
僕の世界では、「塩沢兼人」の前には「偉大な名優」とか「伝説の」とかって言葉が必ず付く んだけど、今、見る限りでは、確かに演技派では通っているけど、 そんなに持て囃されてるって感じではないんだ。 もちろん、彼は一言二言しかない端役も完璧過ぎるくらいにこなしている。僕の心の中ではやっぱり「偉大な塩沢兼人」なんだけど。

追々わかって来た事だけど、塩沢さんのファンには作家や芸術家と いった著名人が多いんだ。 それに、彼のファンクラブの中には、後にベストセラー作家になったり、 超売れっ子イラストレーターになる人もいるんだ。
今のところ僕だけが知っている事だけど・・・今のうちにサイン貰っとこうか?
たぶん、各界のそんな人たちが「塩沢兼人」の魅力をず〜っと伝え続けていったんだろうなぁ。

そういえば、塩沢さん。今度、ファンと一緒にお気に入りセリフ集を作るとか言ってたな。 そうそう、ライブラリで聴いた事があるぞ・・・・妙に照れた挨拶が収録してあるんだよ。 普通のドラマCDのコメントだと、そうでもないのに、自分のファンに向けて何か言えってーと、どうして、ああ照れるかね。

「お〜い、カネト君。塩沢さん、来てるよ。」
「ありがとうございます!」
顔が、にやけるのを抑えられない。
僕は、以前から、塩沢さんを尊敬していたけど、実物に会って、更に、その人柄に惚れ込んでいた。

「塩沢さん!」
「おぅ、うまくやってるか?」
「は・・はい。おかげさまで。」

未だに、緊張してしまう。
塩沢さんの声が、ちょっと小さくなった。

「さっき・・聞いちゃったよ。」

塩沢さんは、部屋の隅に引っ張って行かれ困惑している僕の背中を、いきなりパチンと叩きながら、

「お前が、よく働くってよ〜!」 と言って、ぷっと吹き出した。
「かわいいね〜。」
僕は、ちょっとむくれている。

「なぁに、正直に言っちゃうとねー、内心、ヒヤヒヤしてたんだよー、いや、ごめん・・・・ でも、お前がいい子でホント、良かったわ。学校の方も成績いいみたいね。」
「本当ですか?」
「声優になるの? 厳しいぞ〜。 あ、そだ、お前コレやるわ。この間、欲しそうにしてたろ。貰いモンだけどね。」

兼人さんは、持っていた紙袋を僕に渡して、ニコッと笑うとさっさと行ってしまった。
僕がこんな事思ったら、とっても失礼なんだろーけど、兼人さんって妙に愛嬌があるよ・・。
「あ・・・」
「あ、あ、ありがとうございますー!!」

聞こえたかな・・・失敗してしまった・・・はは。
紙袋の中身は、ポータブルCDプレーヤーだった。

僕は、しあわせだった。生まれて初めて充実した日々を送っていた。


◇    ◇    ◇


「孔明様、準備は全て整っております。」

義眼の男は珍しく、少し苛立っているように見えた。
しかし、いつも通り、その冷徹な面立ちは変わらず、余程、観察して見なければ判らない程だったが。

「あちらは、整理できましたか?」

「はい、CKはもう機能しておりません。少々手荒な手段を使いましたが。で、彼の行方は如何に。」

「ええ、それが・・クラヴィスは、既に行方がわかっているのに、私達に隠しているようなのです。何か考えがあっての事なのでしょう。」

「しかし、悠長な。この空間もいつまで持つか、保証致し兼ねます。・・・あの御方にご相談なさってみては。」

「ムウ・・・ですか。」

「お許しいただければ、わたくしが。」

「彼は・・難しいのです。」

「わたくしでは、ダメだと・・?」

「いえ、その前にクラヴィスに・・・。多分、そろそろ話してくれる筈です。」

「御意。」




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