「To Dreamers」
◆ 8 ◆
僕は、いつか迎えが来るのだろうと思いながら、数日を過ごした。
その日、塩沢さんは、うちのスタジオにコメント収録に来る予定になっていた。
僕は、音響さんに頼んで手伝いに入らせて貰う事になっているから、
もしかしたら、あのコメントがちゃんと聴けるかも知れない。
今度出来るというミュージアム用のコメント、そう、これこそ20世紀ライブラリで唯一僕が聴けなかった、あのコメントだからだ。
僕が、出掛けようとしたその時、そいつは現れた。
「ガ、ガノッサ!」
長いマントに身を包んだその男は、いつもながら、極悪な雰囲気を醸し出している。
こいつも彼らの仲間だったのか。そうか、悪役もいるんだ。僕は、一人で納得する。
「おい、何をぐずぐずしている。帰るぞ。」
僕は、覚悟は出来ていたが、今日の塩沢さんの録りが終わるまで、待ってくれるように頼んだ。
僕の話がまだ全部終わらないうちに、ガノッサは口の端を引きつらせて言った。
「何を、ぐだぐだと。寝言は寝て言うのだな。」
「くっくっくっ、ガノッサ、ちと了見が狭いのではないか。」
「影連!」 いつの間にか、部屋の半分が、暗闇化している。
「フン、お前などに言われたくはない。この、ひねくれ者が。」
「ほざけばよかろう・・お前如きに、私の苦悩が理解ってたまるか。」
「わからんな。いや、わかりたくもございませんよ。影連殿。」
「その、皮肉ったらしい口調はやめぬか。」
ガノッサ・マクシミリアンと橘影連の口喧嘩・・・
僕は見てはならないものを見たような気がした。
透き通った声がする。
「よろしいでしょう。お待ちしますよ。」
喧嘩をしていた二人は、消えていた。
どこかで続きをやっているのだろうかと思うと、妙に可笑しかった。
そんな事を考えているくらいだから、僕は思ったより、落ちついているようだ。
僕は、部屋の机の上に目をやった。
塩沢さん宛の「自分のいるべき場所を思い出したので帰る」という置き手紙。
きっと、恩知らずなヤツだと思われるだろう・・・・・それを考えると、少しだけ辛かった。
◇ ◇ ◇
僕が、もとの世界に戻って三ヶ月後、そのアニメは公開された。
全て声優の声によって作られたアニメ映画はちょっとしたセンセーションを引き起こした。
渇きを覚えていたのは、僕だけじゃなかったんだな。
そして僕は、この先も声優業を守っていくための組織作りに乗り出し、僕の保護費の全てをその費用に充てた。
保護費――――つまり、僕の両親は政府から僕を引き取った時に付与されていた金に、
一切手を付けていなかったんだ。それだけでも、相当な額だったが、更に、
CKのテロによって亡くなった両親への賠償金もプラスされていた。
身寄りがなくなってからの生活費はそれから出ていたらしい。
しかし、僕ひとりで、出来るわけはない。すべての段取りは、出来ていたのだ。
僕が帰ってくるまでに、アニメ制作の為の全ての段取りは、何もかも孔明達がやってくれていたらしい。
いったいどんな魔法を使ったのか、どこからか他の声優達も集まっていた。スタッフさえも!
そして機材こそは最新式(あの地下室で僕が使ったようなヤツ)だったが、
まるで20世紀のスタジオにいるようなそんな雰囲気だった。
しかし、孔明達の仲間と思われる者が姿を見せる事は一切なかった。
僕は、田中や孔明達に、もう一度会ってみたかった。
ライブラリにも何度か足を運んだが、
当然の事のようにあの入り口はない。
いったい、彼らはなんだっだのか、未だ、それだけが最大の謎である。
彼らの切望していた、肉声のアニメを上映しているのに・・・
どこかで見ているのだろうか?
僕には、最近、何かしらすぐ振り向く癖がついてしまった。
物陰から、田中がこっちを見てやしないか・・・そんな気がして。