発想の転換


今からちょうど20年前
わたしは卒業論文のための実験を毎日繰り返していた
お題は『ライスブレッドの研究』
ライスブレッド(=要するに米パン)
今でこそ”もちもちした食感”を売りにして
市場に堂々と出回っているが
当時は健康面を重視した玄米パンが
ひっそりと売られているにすぎなかった

そもそもパンがどうしてふっくらと膨れるのかというと
小麦粉にはグルテニンとグリアジンという2つのたんぱく質があって
水を混ぜてこねると
その2つのたんぱく質がからみあって網目構造を形成する
そうしてできたガムのようなたんぱく質をグルテンと呼び
イースト菌から発するガスをとりこんでふくらむ

一方、米粉には
グルテンを作るたんぱく質が含まれていないので
水を加えてこねても網目構造ができず
イースト菌をくわえてみてもいっこうにふくらむことはない
見かけは同じ”粉”でも
性質は全く異なるのだ

そういうわけで
米粉100パーセントのパンは存在しない
”ライスブレッド”とは言っても
あくまでもベースは小麦粉で
そこへ何パーセントの米粉を加えることが可能なのか
そして劣る食感をどうやって補うのか
そこが研究のポイントとなる

米粉の含有率を25パーセントとした場合
小麦粉のみのパンに比べて
大きさはやや劣り食感も少々ボソボソしている
このくらいはまだ”食べられる範囲”だが
わたしは好んで買いたいとは思わない
ましてや米粉の含有率が50パーセントともなると
ふくらみ方は小麦粉のみと比べて半分程度
食べてみてもちっとも美味しくない
パンにはふんわりとした食感は欠かせないから
これではとても売り物にはならない

さてこの先どうするのか

この研究を担当するのはわたしと友人の2名
実験は何とかできるが
残念ながら発想が二人ともノーマルすぎて
見通しが立たない
そこで指導の先生から思いもかけない案が浮かび上がった

米粉はイーストではふくらまない
では他の方法で米粉をふくらませばいい
米がふくらむ・・・・それは餅だ!

まずもち米を炊いて餅つき機で餅にする
それを小麦粉の50パーセント加えてパン生地を作る
発酵の段階では小麦粉しかふくらまないが
焼き始めると餅がふくらむ勢いでパンもふくらむ
このやり方で出来たパンの大きさは
小麦粉のみのパンと比べても
9割以上までふくらみ
食感はしっとりとしている
この結果に友人と「すごーいっ」と大喜びしたのは言うまでもない
もう昔のことなので忘れてしまったが
確か”でんぷんのα化度”という
消化しやすさの目安みたいな数値は
小麦粉のみのパンよりも良かったはずだ

この年から始まったライスブレッドの研究は
わたしたちの卒業後数年間引き継がれ
最終的には米粉にはないグルテンを添加する試みも行われたらしい
これらの実験は某パンメーカーと提携しており
現在売られている米入りのパンを見ると
あの時の実験がわずかなりとも貢献しているのではないかと思い
ちょっと嬉しくなる

今色んなパンを考案しながら
思い出すのはいつもこの時の先生の発想
従来の常識とか既成概念で考えていたら
新しい発想は生まれない
もっと柔軟にもっと大きなスケールで・・・

というわけで今週は早々から”にがうりパン”の製作に取り組む

<材料>
小麦粉 280グラム
にがうり1本 100グラム
マーガリン 50グラム
砂糖 50グラム
塩 小さじ半分
スキムミルク 大さじ1
ドライイースト 小さじ1
水 110cc

本当はハチミツや牛乳も入れてみようかと思ったが
ここは一応基本の食パンレシピの甘めバージョンでいく
あのにがうり特有の苦い風味が漂うなかで
パンは順調にふくらんだ
焼き立てを早速食すと・・・う〜ん、これは苦い、、、
さすがにこれはマズかったかなと思っていたら
冷めると苦味が少なくなっていることに気がついた
すっかり冷めてしまったにがうりパンは
もはや苦味はなく
なぜかグリンピースのような豆のにおいがしている
マーガリンも砂糖も多めに入れたので
ふんわり甘くてなかなか美味しい
ただ残念ながら
この背景のようなきれいな色には仕上がらなかった

にがうりパンの意外な成功(?)に気をよくして
第2弾は”豆腐&納豆パン”の製作

<材料>
小麦粉 280グラム
豆腐 100グラム
納豆 50グラム
マーガリン 50グラム
砂糖 50グラム
塩 小さじ半分
スキムミルク 大さじ1
ドライイースト 小さじ1
水 110cc

娘が学校の給食に納豆パンが出るというので
それならついでに豆腐も入れて作ってみようというわけだ
しかし
納豆のえもいわれぬ香り(いや悪臭?)が部屋中に漂い
いや〜な予感が、、、
それでもパン焼き機の中をのぞくと
ちゃんとふくらんでいる
そろそろ焼きに入るころだし
ここまでくれば一応パンにはなるかな
と思っていたら
なんとまあ焼き始めたら一気に中央が陥没して惨めな姿に〜〜
そのころには臭いもピークに達し
いったいこれを誰が食べるんだろうかと不安になる

こうして出来上がったものは
パンと呼べるシロモノではなく
ふくらまなかったケーキのよう
どうやらグルテンの網目構造ができていないか
納豆菌がイースト菌の働きを邪魔して
発酵を阻害してしまったのか
失敗の原因は定かではないが
納豆はパンには向かないと思われる
(豆腐は大丈夫)

そこで娘にもう一度給食の納豆パンについて聞いてみたら
納豆自体が甘いのだそうで
それはもしかして”甘納豆”ではないかと・・・(あらら)
それなら納豆とは名前は近くても全然違う
納豆パン、見事失敗に終わる

その後製作者の責任で
母と二人でこのできそこないのパンを食べながら
なんとなくジャムを塗ってみたらこれが結構いけることがわかった
納豆にジャム・・・我ながらオソロシイものを食べている(笑)

それでもまだこりもせず
次は”肉じゃがパン”がいいかな〜などと考える
とにかく”何でもそこにあるもので気軽にパン作り”が出来たらいいと思うので

そうそう
今週の実験報告に書いた”にがうりのジュース”を毎日飲んでいると
どうもお肌の調子が良いような気がする
”米こうじアルコール”を顔に塗るのは結局2日で飽きたが(笑)
口に残る苦味にも慣れてきて
飲まないと物足らない感じがする
うちのにがうりもこれから次々と収穫できるから
わざわざ今流行のアミノ酸飲料を買わなくても
この厳しい残暑を元気で乗り切れそうだ





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