方言楽の館

高知大学 岩城研究室

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方言について ※質問をクリックすると回答が表示されます

ことばの地域差はなぜ生まれたの?
ことばの地域差が生まれたメカニズムとして、次のようなことが考えられます。
まず、都(または、その地域の文化の中心地など)で生まれた新しいことばが地方に広まっていき、都ではそのことばがなくなった(新しい語が出現した)にもかかわらず、古いことばが地方に生き残ったという場合です。 昔は交通の便が今のように良くはありませんでした。また、現在のように移動が自由ではなかった点も重要です。
このように広がった言葉の伝播の形は、水面に投げ入れた石と波紋の関係に似ています。 都で新しい語が出来た場合、年間約600メートルから1キロほどの速度で周辺部に伝播していきます。 とすると、京都から300キロ離れたところに伝わるまで300~500年かかることになります。もちろん、そうしている間に都では新しい言葉が生まれますから、都を中心に同心円状に方言が残ることになるわけです。例えば、鹿児島と青森に同じ語が分布する、という例もあります。

また、かつては今のように交通の便が良くないため、それぞれの地域が一つの「くに」であった点も重要です。それぞれの土地で独自に便利な言葉、おもしろい言葉が生み出されました。 外からの新しい情報が入りにくい状況で、例えば誰かがおもしろい言い方や便利な言い方をつくりあげた場合、その言葉はその地域の中だけに広まって、結果として隣の「くに」とは異なることばが存在することもあるわけです。今でも流行語が生まれていきますが、現在のようにテレビやラジオのない時代、様々な地域の人と自由に交流できない時代には、ごく限られた範囲にだけ通用することばが今よりもできやすかったことでしょう。

また、各地域、それぞれ風土が異なります。生活するために、あったら便利なことばは違うはずです。例えば、島しょ部では海の潮の呼び分けや風の呼び分け、雪国では雪の呼び分けが大事になることでしょう。気象条件や場所、生活の様態が多彩であることも、ことばの地域差を生み出した要因でしょう。

これらが要因になったと思われます。他にも、他国の人間や隠密を発見しやすくするために難解な言葉を作り上げた、という説もあるようですが、どれほど信用できるか定かではありません。 ただ、ことばの地域差が発生した理由には、様々な要因が複合的にからみあっていることと思われます。そういう意味では、未だに大きな謎なのかもしれません。
方言って何?(言語学での方言の定義)
よくこんなことを言います。「広島では”だから”のことを”じゃけー”と言う。」 こういうとき、「じゃけー」を広島の方言と呼ぶのが普通でしょう。
ところが、言語学の世界では「方言」という語をもっと広い意味で使います。ある地域に特徴的な言葉というだけではなく、ある地域で話されているすべての言葉、というのが言語学でいう「方言」なのです。 例えば、広島市で使われている言葉はすべて「広島市方言」となって、「じゃけん」のような言葉から、「テレビ」「携帯電話」という言葉まですべて「広島市の方言」。 ちょっと違うでしょう?
では、「じゃけん」のようにある地域に特徴的な言葉は何と呼ぶのか? 一般に方言と呼ばれているこのような語を特に「俚言(りげん)」と呼んでいます。
また、現代の日本ではあまりピンとこないかもしれませんが、同じ地域に住む人でも、話し手の社会的階層によって言葉が違うことがあります。 コナン・ドイルが書いた探偵シャーロック・ホームズは、見知らぬ人が話す英語を聞いてその人の出身階層を見事に当てたようです。貴族か、労働者か、こういった人々の社会階層の違いによる言葉の違いも方言と呼んでいます。「貴族階級の方言」などのようにいうわけです。

つまり、言語学の世界では、ある地域で話されている言葉を「地域方言(地域言語)-local dialect-」、ある階層の人に話されている言葉を「社会方言-social dialect-」と呼び、この両者を「方言-dialect-」と考えるのです。方言には2種類ある、ということですね。
(このページでは、主に地域言語を方言と呼んでいきます)
共通語と標準語の違いは?
共通語と標準語を同じように使うこともあります。しかし、区別するとしたら、どう違うのでしょうか?
「共通語は現実であり、標準語は理想である。共通語は自然の状態であり、標準語は人為的に作られるものである。」 『国語学大事典』の説明はこのように始まっています。 教科書などでは「共通語」となっています。「標準」という言葉の持つ「統制」「強制」という響きが嫌われたのでしょうか。真田信治はこのように主張しています。 さらに、日常生活で私たちが「全国どこでも通じる言葉」をどうやって習得したのかを考えると、正しい物を覚えていった、というよりも、人との接触やマスメディアを通じて自然に習得した、という感じなので、「人為的」ではなく「自然の状態」というほうが当たっているようです。 というわけで、通常私は「共通語」と呼んでいます。 国語辞典も各社採用している語が若干違いますし、「標準語一覧」のようなきちんとしたものが存在しているわけでもないので「共通語」と呼ぶのがよさそうです。
ちなみに、共通語は「全国どこでも通用する(通用するであろう)」全国共通語と、地域共通語があります。例えば、和歌山県の一部では、改まった場面で大阪方言のような言葉が使われることがあるという報告があります(真田信治による)。こういう場合、大阪方言がこの土地の人にとって規範と考えられているわけですが、ごく限られた地域での意識です。これを「地域共通語」と呼んでいます。

方言(地域言語)の分布に関すること ※質問をクリックすると回答が表示されます

日本にはいくつ方言があるのか?(方言区画)
松本清張の小説に「砂の器」というのがあります。事件の重要な鍵を握る人物が「ズーズー弁」を使っていたというので、東北地方出身者だと思われるのですが、実は東北とは違う地域でもズーズー弁が話されていたというトリック(?)があります。
例えば中国地方でも島根県出雲地方のことばは、隣接する広島県などとは大きく特徴が異なります。つまり、出雲と他の中国地方の地域が分断される=線が引けるわけです。
こう考えていくと、あるレベルのところで日本全体の方言(地域言語)をいくつかにまとまることができます。これを方言区画といいます。

でも、これが案外難しいものです。 例えばAとBという明らかに違う方言があったとき、確かにこの二つは違うのですがその境界線をさがすと、境界のあたりはAとBの両方が合わさったような形になっていたり、人によって違うということがあったりで、市町村の境界のようにくっきり線引きできるものではないのです。 というわけで、なかなか難しい。
いろいろな区画案がありますが、一例として、東条操の区画案(1953年)を挙げてみます。

 -----九州方言---------------
 ・肥筑方言(長崎・佐賀・福岡・熊本)
 ・豊日方言(大分、宮崎、福岡県行橋以南)
 ・薩隅方言(鹿児島および宮崎県都城周辺)
 -----琉球方言---------------
 ・奄美方言
 ・沖縄方言
 ・先島方言

これらは、主に文法や音声上の特徴をもとに区分されています。そうすることで、あまり細かくなりすぎず、方言を区画することができたのです。
ただ、ここで1つのグループになっているからといって、その地域内部のことばが全て同じというわけではありません。 こまかく見てゆけば、同じグループ内部でも一つ一つの集落毎に微妙に異なりがあるものです。

方言にいくつの種類があるか、というのは難しい問題ということがおわかりいただけるでしょう。 細かい点までみてゆけば数は無限にあるということになりますし、音声上の特徴や文法特徴に注目して大きくまとめれば、先に示したような区画の数だけ方言があるということになるのです。
日本の方言の分布パターン
ここでは、代表的な日本の方言の分布パターンを見てみましょう。『日本言語地図』の分布をみると、主に次のような分布が知られています。

東西対立
東日本と西日本が対立しているものです。境界線がどこにあるのか、というのははっきりと「ここ!」と言えませんが、日本海側の糸魚川と太平洋側の浜名湖を結ぶ線が目安になります。(実際には、語によって境界は異なります。ほとんどの場合、日本海側は糸魚川あたりが境界なのですが、太平洋側が静岡から三重県まで語によってかなりずれがあります) このような対立を見せるのは、例えば「居る」などで、東では概ね「イル」、西では「オル」が多く分布します。東と西で分かれるものです。

周圏論分布・逆周圏論分布
昔文化の中心であった京阪神を中心に、同心円状に語形が広がっている分布。柳田国男は『蝸牛考』の中で、カタツムリの方言分布に、「古語は周辺に残る」という考え方を示しました。これが、周圏論分布といわれるものです。

ただ、逆のこともあります。周辺のほうがことばの変化が進むケースです。実は、文化の中心地には教育機関も多く、教育を受けた人ほど「この言い方は間違い」という規範意識が強いものです。そのため、文化の中心地のほうがことばが変化しにくいという現象が起こり、周圏分布とは逆に、周辺のほうが変化が進む、ということがあります。これを逆周圏論分布と呼びます。

交互分布
東西対立をA-B分布とすれば(東にA、西にBのような感じ)、周圏分布はA-B-A分布(周辺にB,中心にA)、交互分布はA-B-A-Bという分布を示すものです。例えば「ふすま」がそれにあたります。このような分布が生まれた背景ははっきりとわかりません。ただ、「舌」を「ベロ」というか「シタ」というのかも交互分布ですが、交互分布になった理由は説明できます。歴史が関係するのですが、興味のある方は調べてみるとおもしろいでしょう。

複雑型
有名なのは「メダカ」で、全国で4600ほどの俚諺が採集されています。他には「お手玉」「おたまじゃくし」などです。このように複雑な分布を見せる項目は、子供の遊びに関するものに多いようです。極端なことを言えば、例えば学校の学区ごとに呼び名が違っている、というイメージです。子供の社会は小さいので、皆さんにも、学校ごとにトランプ遊びのルールが違った、などといった経験はないでしょうか?

一律型(全国共通分布)
先ほどの複雑分布の逆で、全国どこに行っても同じものが使われているといったような語があります。「雨」などは、沖縄が「アミ」となる他は、ほとんどが「アメ」になっています。もっとも、沖縄の「アミ」も、「アメ」から変化したものでしょうから、日本全国どこへいっても雨は雨。

国立国語研究所のWEBページより『日本言語地図』の画像データを閲覧できます。ここをクリック
言語地図って何?
どの地域でどのような方言が使われているか、ということを知りたいとき、地図の上に方言が重ねて書いてあれば便利です。方言事象に記号を当て、それを日本地図の上に書き込んでいったもの、これが日本の言語地図ということになります。上の質問の回答にも示しましたが『日本言語地図』もその一つです。
ところで、言語地図はもともとは日本語の標準語をつくるための参考として作成されました。また、日本語の歴史をさかのぼるという目的で作成されました。言語地図を書いて、そこに見られる事象の分布状況を見ながら日本語の歴史を再構成してゆこうとする研究を、言語地理学研究といいます。では、具体的にどのような手法でさかのぼるのでしょうか?
例えば、東京を中心とした中心地で新しい語が作られると、テレビなどを通じて全国に広まっていきます。昔は今のテレビやラジオのようなマスコミはありませんから、人々の移動に伴って言葉は運ばれていきます。この時、ことばの流れの一つとして、中央から地方へ、という流れができあがります。
ただ、人の足で伝わりますから、そのスピードは大変遅く、例えば昔の中央であった京都の言葉が山口県あたりに伝わった頃、気づけば京都でまた新しいことばが生まれている、なんてことも多かったでしょう。 あるWという語が広島まで行った頃、次の新しいQという語が京都で発生、伝わり始めます。 そのQという語が再び広島まで届いた頃、Wは山口へと伝わり、京都では今度はPという語が生まれている、ということになります。 その結果、波紋が広がるように中央に近いほど新しく、中央から離れれば離れるほど古い語が残るということになります。 例えば、京都周辺のPが新しく、そこから離れ、広島あたりのQが、もっとも古いのが山口あたりのWということになります。

もちろん、現実的にはこのような単純な分布とはなりませんが、一つの重要な「方言周圏論」という論で解釈される分布と解釈のパターンです。
言語地図の読み方
言語地図をどのように見ればよいのでしょうか。
簡単に言えば、自分の興味ある地域がどんな言い方をしているか見れば良いのです。しかし、それなりに見方(いや、書き方?)があります。そのための基礎知識をいくつか。

1 記号
記号は、基本的に同じ系統の事象に同じ系列の記号を与えます。例えば「ヨーケ」に白三角を与えたら「ヨケー」に黒三角というふうに。これとは全く違う系列の「ギョーサン」には丸印を与えることになるわけです(別に丸でなくても、三角系でなければ良い)。ものによってはカラーのものもあります(日本言語地図など)。この場合は色も含めて系列化されています。また、目立たせたい事象には普通大きめの記号を与えたり、対立をはっきりさせたいときには記号に白黒のコントラストを持たせたりもします。

2 分布傾向
記号の形を見て同じ系列の語がどのように分布しているか傾向を見ます。そこから、例えば統語線を引くことで方言区画を考えたり、語の侵入の道筋や時期を考えたりしてゆくわけです。

方言の伝わり方 ※質問をクリックすると回答が表示されます

陸上を伝わることば、海上を伝わることば(言葉の伝わり方)
通常、ことばは人から人へ、地面をはうようにして伝わっていきます。これが伝統的な言語の伝播の姿です。ということは、川や高い山、そして海などは伝播を阻害する要因として働くことになります。 人の自由な往来を阻むものは、言語伝播の障害とも成りうるのです。周囲とは異なる特徴を持つ言語がポツンと存在する「言語島」と呼ばれる地域も、山中にあることが多いです。
海の場合は、言葉の伝播の妨げになることもある一方、人の自由な往来を保証していることもあります。たとえば、新潟県の佐渡島の方言は西部方言的であると言われます。そこで、かつての航路を調べてみると、能登と佐渡が航路で結ばれていたということがわかります。佐渡の対岸の新潟県は東部方言なのですが、海上交通を考えると、佐渡は西部方言になっているのです。船を使えば、遠い地域と直接つながることも可能だからです。つまり、人がどう動いたかという人の交流の姿が肝心なようです。
風の名前なども、海を隔てて広まりを見せている語もあります。アユ系の風の呼び名は、広く日本海沿岸に分布を見せています。
川が言語を運ぶ場合もあります。普通は伝播の障害となるのですが、利根川の下流において、銚子から上流へ向かって流れ込んでいるとしか思えない事象がいくつかあるという報告があります。 水上交通で言葉が動いていった姿です。 交通システムの発展で、これからことばはどのように動いてゆくのでしょうか。

最後に、人の動きと言葉の分布の関係を示す例として、山口県の日本海側の漁師の言葉に「チングー」をご紹介しましょう。この「チングー」という語、どうやら韓国語「チング」のようです。 日本の方言としては「親しい友人」という意味で使います。さて、この語、まずは海には国境はありますが壁があるわけではないので、韓国と日本の漁師の交流で日本語の方言に入ってきたものと思われます。日本海側に分布する理由が解釈できます。次に、よく調べてみると、日本海側と瀬戸内海側を結ぶ道沿い(防府ー山口ー益田)にもところどころ分布があります。 つまり、日本海側海岸から魚の行商人がこの道を往来し、伝えていったようです。これが、山間部に分布を見せた理由なのでしょう。
なお、この「チングー」ということば、瀬戸内海西部の沿岸部(周南市徳山以西)や熊本県の天草にもあるそうです。なぜだと思いますか?
標準語(共通語)化はどう進む?(方言を残すには)
地域の伝統的な方言が失われていく原因として、大きく3つのことが関係しているでしょう。1 教育 2 テレビやラジオ 3 人々の移動が簡単になったこと、です。
まず教育ですが、教科書に書かれている言葉、教員の言葉は通常は標準語(共通語)です。また、地方出身者が都市部へ就職し、自分の方言を笑われたり、いじめられたりしたことから、地域によっては標準語教育(方言を使わせない教育)を強く進めたことがありました。これらから、方言は良くない言葉、というイメージが作られ、方言が失われていくことになりました。この風向きが変わったのは1990年ごろからです。ただ、一方で、ラジオが出現する前は標準的な発音をしることはむずかしく、学校の先生であっても発音は方言、ということも多かったと思われます。
次に、テレビやラジオですが、標準的な「発音」を聴くことができる点が重要です。教科書や新聞といった文字のメディアとは違い、地域の伝統的な言語の発音まで標準化する力を持っているからです。言葉の標準化に大きな影響を与えました。
最後に人々の直接交流です。今は様々な交通手段があり、交流が盛んになりました。自分の言葉が他と違うことに気が付くチャンスも増えました。大学生になると、他の地域出身の友人ができたり、故郷を離れて生活したり、ということで、方言に急に興味を持つという人も多いのではないでしょうか?

伝統的な方言が失われていくのは残念なことで、保存しようとする動きもあります。一方で、方言を話すことに何らかのメリットがないと残りにくいというのも現実です(方言に限らず、少数言語も同様です。少数言語や方言しか使えないと就職や進学が難しいという状況では残りにくい)。皆さんはどうすれば伝統方言を残せると考えますか?
ことばが伝わる速さ
方言周圏論というのがあります。すべての方言がそうであるとは言えないのですが、簡単に言えば、中央から離れたところにある場所の方言ほど、昔の日本語の姿をとどめている(つまり、古い)という考え方です。
中国地方に「~しなかった」という場合の言い方で「~せなんだ」という言い方があります。例えば「行かなかった」という時、「行かなんだ」というわけです。さて、この「なんだ」という語、分布領域は京都から半径330kmの円内におさまっているのです。 この「なんだ」は、1477年に書かれた「史記抄」という書物に初めて出てくる語です。1477年という限定はつけられませんが、少なくとも、どうやらこのあたりの時代に発生した(もちろん京都で)語だろうと考えられるのです。 少しばかりの誤差も考えると、約550年で330kmの距離を「なんだ」という語は伝わっていったことになります。そこで330を550で割ると、0.6。単純に考えて、1年間に0.6kmの速さで言葉が伝わっていったらしいことがわかります。テレビなどのなかった時代、新しい言葉が伝わって、それがある地域で一般的になり、また次に伝わってゆく、ということを考えるとこれくらいのスピードが適当なのでしょう。
徳川宗賢先生は、「日本言語地図」の中から27語の語を選んで、先のような方法を使って言葉の伝わる速さを計算しました。語によって速いものと遅いものがありますが、平均速度を地方別に表すとこんな結果が出ています。

近畿を中心として
 東海道方向 0.75km
 北陸方向  1.06km
 中国方向  1.10km
 四国方向  1.23km
 南近畿(和歌山など)方向 0.49km
  *いずれも、1年あたりの速さ

すべての平均で年速約1kmというところです。 これに比べて、現在の流行語を考えてみましょう。ネットで紹介されたらすぐに伝わりませんか? 速くなりました。

新しい方言・気づかない方言 ※質問をクリックすると回答が表示されます

学校の方言
例えば、学校の通学範囲のことを何といいますか? 校区、学区、校下
黒板の文字を消すものを何といいますか? 黒板消し、ラーフル
模造紙はどうでしょうか? このように、学校関係の用語には方言があります。大学生になって、県外の同級生と話をしたとき、このような違いに気が付くことがあるでしょう。
学校で使う言葉は標準語だと思いがちであること、教員の異動も県内での異動であるため、都道府県の中で生まれた学校関係の方言は維持されやすいこと、学校で使う道具類は大人になって使うことが少ないことなどから、方言が保存されがちなのです。
皆さんも学校の方言を探してみましょう。

方言語彙 ※質問をクリックすると回答が表示されます

語彙って何?
語彙とは何でしょうか? 例えば、「語彙が貧弱だ」と言ったり、「その語彙の使い方は間違っている」と言ったり。 まずは「語」と「語彙」の違いから考えてみましょう。
「語彙」の「彙」という文字を漢和辞典で調べてみると、この文字には「集まり」という意味があることがわかります。 ということは、「語」は単語のことで、「語彙」は語の集まりだと考えられます。
そこで、「語彙」は語の集まりであると定義できそうです。
ただ、語の集まり、ということであれば、何の基準もなく集まった「家」「TREE」「カメラ」「やうやう」の4語も、「語彙」であるということになります。 いろいろな言語、いろいろなジャンル、時代...
やはり何かの統一基準がないと、「まとまり」としては物足りない感じがします。やはり、時代やジャンルなどをある程度限定した上で集めた「語」のまとまりを「語彙」と呼ぶべきでしょう。
そこで、もう一度はじめに戻りますと、ある単語の使い方の間違いをさして「その語彙の使い方はおかしい」というのは、まさに「おかしい」わけですね。
語彙体系とは?
体系、ということばを使いました。
語はたった一つだけでそこに存在しているのではありません。「語彙」という考え方がある以上、そこには何らかの関係に基づいた関係があるはずなのです。
例えば「さくら」「ひまわり」は植物というまとまりで、一方で「ねこ」「きりん」は動物というまとまりで、動物と植物は考え方によっては対立する、と見てよいでしょう。一方で、「コンクリート」という語と対応させたときは、植物も動物も「生物」というまとまりにまとめられます。
今度は逆に植物の中身を見ていくと「さくら」は木ですが、「バラ」は木ではありません。このように、さらに小さいグループができあがります。
そして究極的にはそれぞれの語は一つ一つが独立しながらも,上位の何らかのグループに所属するという樹形図のようなものができあがります。 こうやってできたものが「体系図」であると考えられます。 もっとも、この体系図は、樹形図でなくてもいろいろな表現方法があるものです。
方言語彙からわかること
日本列島は南北に長く、気象条件も違えば生活の姿もかなり違うものです。 生活の違いは、当然言葉の世界にも違いをもたらします。それが最も目立つ形で出てくるのが方言の語彙の世界。これまで述べてきたような「語彙」「体系」の2つの考え方を利用していくつかご紹介しましょう。

雪の語彙
方言によって違いがあるものの有名な例に、雪の語彙があります。 雪が降ることはまずないと思われる沖縄県などでは「雪」の1語であるのに対して、島根県赤来町では「ヤオユキ」(柔らかい雪)「ベタレユキ」(空気をふくんだ大きい雪)「ベタレ」(水気を多くふくんだ雪)「アワアユキ」(降りたての雪)「コザサラ」(小さくてよくつもる雪)などのように細かく分けているのです。
そして、「シトル」のように雪がとけかけて水になるという語まであります。雪がよく降るという気象条件に関係しているものと思われます。

風の語彙
今度は、職業によって違う語彙体系を見てみましょう。 例として、瀬戸内海大崎下島の漁師の風の言葉を取り上げてみます。1993年に調査した結果です。

北:キタ アキギタ
北東:キタゴチ
東:コチ オーゴチ アメコチ ミタライゴチ ニガツノヘバリゴチ ドヨーゴチ クダリ
南東:ヤマジゴチ タカゴチ
南:ヤマジ オーヤマジ
南南西:ヤマジマジ
南西:マジ ハルマジ サクラマジ ヨマジ オーマジ タカマジ
西南西:マジニシ
西:ニシ マニシ オーニシ フユニシ ノボリカゼ
西北西:ニシアナジ
北西:アナジ
北北西:キタアナジ

単に「東の風」とだけ呼ばないのは、さらにこれらの内部が、雨を伴うかどうか(アメゴチ),いつ頃吹くか(ドヨーゴチ,フユニシなど)などで呼び分けられているからです。 なぜそんなに呼び分けるのかと言えば、生活に必要だったから、ということでしょう。 詳しく聞いてみると、例えば「サクラマジ」は桜が咲く頃の南西風ですが、それだけではなく、この風が吹き始めると春の魚がとれはじめるといった意味も持っています。 このように語彙を調べることによって、その人々の暮らしの姿を描き出すことも可能になるのです。方言語彙は、その土地の人々の暮らしを反映する、と言えるのでしょう。 また、職業語彙は,職業の特色を反映します。 ちなみに、同じ漁業といっても,大型船で瀬戸内海よりも大規模な漁を行う山陰地方の漁師の風の言葉と、ここに示した瀬戸内海の漁師の風の語彙とは全く違います。 例えば五島列島福江、愛媛県の瀬戸内海に面した地域の漁師に「ノース」「ウエス」といった英語名の風位語彙もあるようです。同じ職業でも、そのありさまの違いによって語彙体系も変わるのです。

- 方言を探究する -

まずは、テーマの決め方とヒント
方言調査の前に、自分が方言の何を調べたいのか、ということをはっきりさせておきましょう。調査をしながら目的を考えるのでもかまいませんが、あらかじめはっきりさせておくと調査もスムーズです。
自由研究でどんなことができるのか、いくつかアイデアをあげてみました。やってみてアドバイスがありましたら、ぜひお知らせください。

●発音の特徴をさぐる:口まねをしてみよう!
本格的な探求というところまでいえませんが、方言を使った交流授業などでは、まずは方言のリズムや音をつかむことも大切です。なんといっても、方言は書き言葉ではなく、話し言葉ですから。例えばお年寄りに話をしてもらって、録音を聴いて口まねをしてみましょう。
話し方をまねてみることで、方言独特のリズムがわかってきますよ。 また、自分の方言の特徴を考えてまとめてみましょう。

●方言地図を作ってみる
例えば、県内を例に、いくつかの単語をあげてその方言を地図にしてみるのはどうでしょうか? お手玉、かたぐるまなどの遊びに関する語は、比較的バリエーションが豊かです。いろいろな学校の人に聞いてみることで分布が見えるかもしれません。
また、県の端あたりに住んでいたり、島に住んでいたりする人の場合は、県境に注目してみたり、一つの島の中でも集落が違うと言葉も違うことが多いこともあって島の方言地図を作ってみたりすると、発見がありそうです。
どの研究もそうですが、テーマを確定させる前に、先行研究を確認することをお勧めします。例えばすでにある言語地図を見て、あらかじめ「違いが出そうだ」という項目に目をつけてみる、などです。

なお、方言とは少し違いますが、じゃんけんのかけ声や大富豪(大貧民)のルールなどは、学校によって違うこともあるのでやってみるとおもしろいかもしれません。

●決まったジャンルの単語を集めてみよう
漁師町であれば、漁師さんに風の呼び名をいろいろ教わってみましょう。共通語と同じ語であっても、それもOK。方言の語や、共通語の語など、たくさん集まるはずです。漁師さんは風の名前をたくさん知っていて呼び分けるのですが、それはなぜでしょうか? それぞれの風の特徴を聞いてみると、漁師さんと風の関係がわかってくると思います。(漁と風は関係がある、ということですね)
それ以外にも、漁師さんと潮の流れの単語、または、雪国での雪の呼び名、など、いろいろと聞いてみると良いでしょう。都会ではわからない生活の知恵が、言葉の面からわかることも多いでしょう。

語ではなく、敬語の使い分けなども同じように研究できます。「雨が降っとる・降っちょる」「雨が降りよる・降っちゅう」のようなアスペクト表現(共通語の「ている」)に使い分けがある地域もあると思いますが、これも同様です。アスペクトの場合、本当に完了と進行の違いだけでしょうか? 文法的なことがらの場合、呼び分けの理由まではわからないことが多いと思いますが、どのような基準で使い分けているのかを明らかにすることだけでも十分研究になります。

●いろいろな文章を方言に訳してみよう!
例えば「桃太郎」を方言に訳してみませんか? 話の内容をたいていの人は知っているので、翻訳しやすいこと、各地の方言に訳した「桃太郎」がすでにあるので、比較しやすいことがメリットです。
話の中に、「どんぶらこ」というオノマトペがあったり、「おじいさんとおばあさんがいた」を敬語にするのかといったこと、「いました」ではなく「いたそうだ」のような伝聞でいうのか、など、比較できるポイントはかなり多くあります。
または、今日の新聞を、手分けして方言に訳してみるのもどうでしょう? 方言で日記を書いてみるのもおもしろいでしょう。
まとまった文章を方言に翻訳することで、単語だけではなく、言い回しや話の持っていき方にも注目することができるでしょう。

●方言グッズや町中の方言を探してみよう
少しお金がかかるのですが、旅行などでどこかへ出かけた時には、その土地の方言が書いてあるものをさがしてみましょう。もちろん、地元の方言グッズでもよいです。売られているおみやげ物には、方言が書いてある湯呑みやのれん、小さな本もあるでしょう。どんな方言が選ばれていますか? どのような特徴があるでしょうか?
町の看板にも方言が出現していることが時々あります。これは自分の住んでいる土地で探してみてもおもしろいでしょう。どこに方言の看板があるか、地図を作ってもよいでしょう。撮影して、地図に貼り付けてみるときれいですよ。
また、どのような内容に方言が使われていますか? 観光客向けの案内でしょうか、それとも、地元の人に向けた注意書きでしょうか。方言のメッセージが向けた相手、伝えようとする内容を分類して、方言がどのように使われているのかを分析できます。

●介護従事者のための方言リストなどの作成
介護現場などでは、地元の方言を知っておくことが重要です。そのため、これらの人にインタビューをして、どのような意味の語を知っておけばよいかを明らかにして、これに関連した伝統的な方言を集めた手引きを作ってみることもできます。定時制高校に通っていたりする方は、職業上関係しそうな方言を集め、困っている人に発信することもできるでしょう。外国人労働者に、仕事をする上で知っておくと良い地域方言を集める、といったことなどです。
このページでも医療と方言関係の情報を公開していますから、参考にしてみてください。
方言をどうやって調べるか
1 本(資料)で調べる
図書館にでかけてみると、方言辞典がありませんか? 市町村が出している「市史・町史・村史」にも掲載されていることが多いですし、地方ごとに方言辞典もあります。 これについては、いろいろな本があるので図書館で調べてみましょう。 また、全国を対象とした「日本方言地図」、各種の方言辞典をひとつひとつみてゆくこともできます。
主なものとして、
「日本言語地図」 国立国語研究所 インターネットで閲覧可能
「日本方言大辞典」 小学館
「全国方言一覧辞典」 学研 :ハンディーサイズで比較的手に入りやすい。一覧になっています。
 明治書院の「○○県のことば」シリーズ(現在刊行中)も便利でしょう。
 三省堂「方言学入門」など、入門書も多く出ていますから、さがしてみましょう!

2 実際に出かけて調べる(ベスト!)
人に尋ねてみましょう。 自分のおじいさんやおばあさん、近所のお年寄りなどに実際に何かを話してもらえば理想的です。方言を使って昔の話をしてもらったり、何気ない会話でももちろん大丈夫。 生きた方言を得るには、これが一番確実な方法です。
方言の看板なども、現地調査が基本です。
 ちなみに、どんな人がいい?
気軽に話のできるお年寄りがいれば理想的。緊張せず話してもらわなくてはいけません。 自分のおじいさんやおばあさん、または、近所のお年寄り。話好きな方がいいですね。 心あたりがなかったら、「方言や昔のことに詳しい方はいらっしゃいませんか?」と、誰かに紹介していただくという方法もあります。 私の場合、方言調査はこの方法でやっています。ただし、お礼は忘れずに。はがき1枚でも、きちんと出しましょう。

3 インターネットで調べる
インターネットを活用すれば、家にいても調べられます。 また、ホームページによっては音声を聞くことができるものもあります。 さまざまな検索を使って、方言のページを探してみましょう。(地名と、方言という2つのキーワードで見つかるはず)
方言看板を地図画像から探す方法もあります(詳しい調査はできませんが、大体の傾向を知ることなら可能でしょう)
ただし、その情報がどの程度正しいのか、必ず確認を。