方言について

医療と方言プロジェクト

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    方言の文法に関すること

    一段活用の五段化

    九州の方言(紀伊半島の南部にも同じ現象が見られます)で、たとえば次のように言うことがあります。
    ○キョーワ ジュギョーニ デラン。(今日は授業に出席しない。)
    ここで聞かれる「デラン」は「出ない」のことです。「ン」は共通語の「ナイ」のことですから、「出ら+ん」のようになるわけです。

    ところで、「出る」という動詞は、共通語の世界では次のように活用します。

     未然形 連用形 終止形 連体形 仮定(意志・推量)形 命令形
    出 で   で   でる  でる  でれ        でろ

    これをみると、未然形から命令形まで、どの形にも「出(で)」がずっと出現します。これを下一段活用といいます。「下」は、「あいうえお」の真ん中より下、「一段」というのは、「で」を一種類ずっと使っているということです。ところが・・・「でら」という形が出てきませんね。九州の多くの方言では、「出る」という動詞は次のように活用します。

     未然形 連用形 終止形 連体形 仮定(意志・推量)形 命令形
    出 でら  (でり)  でる   でる   でれ      でろ

    「で」はずっと出てきますが、問題は「で+ら」「で+り」などの、後部要素。「らりるれろ」と5種類そろいそうです。(実際には確認されない形もありますが)
    過去から、活用の種類は減ってきました。平安時代には九種類あった活用は、今では五種類。さらにこのままいけば・・・九州の方言にみられる「出ら」などの現象は、現在の一段活用が五段活用に変わってゆく、そのさきがけなのかもしれません。

    方言文末詞(終助詞)

    ○イツモ ヨク タベル ネ。(いつもよく食べるね。)
    ○キョーワ ヨー ハレトル ワイ。(今日はよく晴れているよ。)

    この2つの文の文末部にみられる「ネ」や「ワイ」は、終助詞と呼ばれるものです。方言文法や最近の文法研究ではこれを文末詞といっています。相手に自分の発言を持ちかける、という働きがあり、そういう点で独立成分(助詞のように完全に何かに付属して働くのとは違うという考え)に近いというのが助詞に含めない理由です。もっとも、この考え方には賛否両論あるところです。

    さて、問題の「ネ」と「ワイ」はその語源を遡ると少し違うことがわかります。「ネ」の語源ははっきりせず、おそらく思わず発したことばだろうといわれています。例えばびっくりしたときの「わ」、答えに窮したときの「え-」のようなものだと考えてみてください。これを藤原与一先生は「感声文末詞」と呼びました。ナ行のもの、ワ行のもの、かなりあります。女性が使う「ワ」(いいですわ、など)、「ネ」「ノ」、鳥取には「ニ」もあります。
    一方「ワイ」は「われ(我)」が語源だと考えられています。もともと名詞であった「我」が、文末にきてもとの意味を失っているわけです。これを「転成文末詞」と呼んでいます。他にも「こと」「もの」(だってあの人もやってるんですもの、など)もそうです。動詞から文末詞になったものもあります。 これら転成文末詞の特徴は、もともと抽象度の高い語がなることが多いということです。動詞ですと「見る」などのように、補助動詞(もともとの意味を失い、しかし動詞として機能しているもの。走ってみる、の「みる」など)になっているものが多いです。「という」からできた「チュ-」という文末詞もあります。例えば種子島などで聞かれます。

    さらに世界的にみると、どうもこういう現象が起こりやすいのは日本語や韓国語に多いように思います。このへんにも、何かありそうですが、くわしいことはわかっていません。

    現在、こういった転成文末詞の研究は文法化の研究のひとつとして行われています。「文法化(Grammaticalization)」というのは、簡単に言えば、「ある単語が時間とともにもともとの意味を失い、文法的な要素(例えば日本語の付属語など)になってくること」です。 ある単語が、どのようにもともとの意味がなくなり(「意味の漂白化」といいます)、文末詞のようになってゆくのか、そのプロセスが明らかになればおもしろいですね。

    方言には、こういった文末部の要素がさまざまにあります。これが方言らしさでもあります。
    愛媛の「なもし」は「なあ、申し」といわれています。広島で思いつくだけでも「ノ-」「ワイ」「ナ-」「ネ」「ヨ」 そしてその複合もあります。
    さて、その複合ですが、例えば「ヨネ」は言うけれど「ネヨ」は言いません。なぜでしょう? 「ネ」と「ヨ」の働きを考えてみると、この解釈をすることができますよ。

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